表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

異世界痴漢、爆誕。

 おかしなもので、感覚なんてとうにないはずなのにぎゅっとまぶたに力を入れていた。


 ここが天国、いや俺がイクのは地獄だろうか。


 しかしずっとまぶたに力を入れている感覚があるのに気付いて、恐る恐る目を開いてみた。


 目の前には人、人、また人。


 ひょっとして飛び込みは失敗に終わって駅のホームの上でしばらく惚けていたんじゃないかと思ったが、目の前の人々の服装、そしてその異様な姿にそんな考えは吹き飛んだ。


 誰もサラリーマンの象徴であるスーツを着ていない。それどころか麻布や革製の洋風で古めかしい衣服を身にまとっている人がほとんどだ。


 そして一番気になったのは、その人々の中に獣の耳や尻尾が付いている人? や、頭そのものが獣の姿の人、耳が長かったり肌の色が青だったりする人がいるじゃないか。


 後ろを振り返ると石造りの建物があり、そこにはまっていた小さな窓ガラスに映っているのは自分ではない、紛れもない別人。


「誰だ……これ?」


 堀の深い顔にゆるいパーマのかかった好青年、いわゆるイケメン。だが妙なことにそのイケメンは自分がしようと思った動作を忠実にこなす。


 まず頬を触る。おお、デブ特有のえくぼが消えている。


 脇腹を触る。久々に肋骨を触った。


 腹を撫でる。……堅い。これ腹筋か?


「これ、俺か……?」


 自分の素性を思い出そうと記憶を総動員させる。

 そのとき、ふと頭に浮かんだ名前があった。


     ”スーケ・ベスケベー”


 今のはなんだ? もしかして()()()()の俺の名前なのか?


 ちょっと前に俺は電車に轢かれて死んだはず。


 だがこの景色、そしてこの身体。

 数分前までとは何もかもが違う世界。


「──異世界転生!?」


 窓ガラスに向かって驚きの表情を作ると中の住人と目が合った。いぶかしげにこちらを一瞥すると、シャッと内幕を下ろして視界を遮った。


 そりゃあそうだろう、知らない人が自分ちの中を覗きながらパントマイムしてればたとえそれがイケメンでも怪しむ。


     * * *


 状況を整理しよう。俺は数分前まで痴漢で捕まって駅員に受け渡されるところで、目の前を走ってきた急行電車に身を投げて、死んだ──はず。


 だがこうして異世界に転生した、しかも前の醜い身体を離れてイケメンに生まれ変わるというオマケ付き。


 赤ん坊になって転生したとかではない以上、もしかすれば俺、現在はおそらくスーケ・ベスケベーというこの人物は今までの人生を送って来て家族がいて友人がいて恋人がいるのかもしれない。


 だがそんなのはどうだっていい、今は俺の身体なのだからな。


 俺が異世界に転生した以上、何か目的や運命みたいなものがあるのかもしれない。


 だがそんなこと、もっとどうだっていい。


 今俺がしたいこと、異世界にきてやってみたいことは明確だ。


 それは──痴漢したい──ただ、それだけである。


 きっと今の俺の顔は好青年のイケメンになってもなお、にじみ出る内側の醜さが隠しきれない邪悪な笑みをしているだろう。


 しかしそれ以外に考えつかないのである。


 周囲をうかがうと、石造りの建造物に、ところどころぶら下げられた街灯。電球が入ってないことから、あれにはおそらくオイルが入っているのだろう。そして獣人をのぞいて人間は皆堀の深い顔立。俺が転生したのはきっと例外に漏れず中世ヨーロッパ風の世界。


 と、なれば獣人というファンタジー世界の住人がいるので、きっと魔法など俺が知らない技術に関しては未知数だが、文明以前に文化もまだ俺が住んでいた世界よりは未発達なはず。


 つまりは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と考えるのが妥当だろう。


 となれば当然、痴漢に関しての法律も寛容ないし最悪、法に引っかからないということもありえる。


 前の世界ではヘマをして一度俺の人生は終わった。


 ここでやり直せるとしても、俺には痴漢以外に人生を楽しむ方法を知らない。


 ならば恵まれた容姿、そして可能性ある世界でもう一度己の欲望の限りに生きてみようじゃないか。


 ここから俺の第二の痴漢人生が始まるのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ