◆7
四大陸で熱帯地域と言われているイフリー大陸。気温は高く渇きが原因で村がなくなった.....と言う噂はラビッシュにまで届くほど日常的に起こっている問題。
そんなイフリー大陸も朝は少し肌寒い。
「......寒っ」
俺はぼやくように言い、まだ眠い眼を開く事なく毛布を手繰り寄せる。すると───高く小さな音が聞こえた。
寝ぼけているのか、気のせいだろう。
俺は自分に言い聞かせ、寝返りをうつと───
「わっ!」
今度は音、というより声が。
さすがに今のは気のせいではない。
「......なんだ?」
眠気がまとわり付く重い瞼を必死に押し上げ、ぼやける視界を探ると、それはいた。
「んな───」
俺は頭が真っ白になり、驚きのあまり開いたクチが塞がらない状態。そんな俺に対してそれは───
「わあー! おーきなおくち! あー!」
と無邪気な声で言い、真似てクチを開いて見せた。
俺のベッド、毛布の上にいたのは桃茶色の髪を持つ、小さな小さな───女の子。そしてこの女の子を俺は知っている。
昨夜、気になり覗いてしまった荷物の中身。包みの中にはビンがひとつ、その中には───この小人が眠っていた。もちろんすぐに包みを戻し、結び目も戻した。小人を起こさないよう慎重に、でも焦らず元の形へ戻した。ハズなのだが、その小人はビンを抜け出し今俺を見て首を傾げ言う。
「ぽっくぽっく! ぽっくぽっく!」
「.....え?」
何が起こり何を伝えたいのか、そもそも何で小人が外にいるのか、何で俺を見てくるのな、何もわからない。
「....んん.....お、カイト早いな.....あぁ、そっか俺達ラビッシュを~~~.....ッ」
小人の声で向かい側のベッドに沈んでいたトウヤが眼を覚ます。最悪すぎるタイミングでだ。豪快な大アクビと伸びをし、トウヤは俺を見て、
「......お、おい、お前.....」
震える声を出す。プルプルと震える指先を俺に向け───いや正確には俺のベッドにいる小人へ向け、トウヤは続けた。
「.....お前、小人相手はさすがに......ヘヴィだろ」
「......は?」
「うん。友人として言う。それはやめとけ」
「.......え?」
トウヤは頭を抱えるようにし、小さくため息を吐き出した。
◆
「焦ったぜ! 朝から自分の欲望を満たすために小人を相手にしているのかと.....もしそうだったらいよいよ終わりだなって思ったぜ」
「お前は朝から何考えてんだよ! 寝起きでそんな事考えるお前がいよいよだろ!」
どうにか話を聞いてもらい、俺は誤解を解いた。いらない事もクチ走ってしまった気もしたが、小人相手に高まる人種ではない事を相棒に伝えるためには必要な事だろう。と自分に言い聞かせ、俺は水をひとくち飲んだ。
「───で、その小人は?」
同じように水を飲み、トウヤは小人を見る。すると小人は俺の影へ隠れ、トウヤを観察する。
外へ出てしまっているし、今さら下手に誤魔化すのは無理か.....。
「昨日あの包みの中を見たんだ」
「ふむ」
トウヤは驚く様子はなく、ただ俺の言葉を待つ。
「あの包みの中はビンで、そのビンに───この小人が入ってた」
「......で、今朝その小人が勝手にビンから出てきたって事か?」
「そうだ。ビンは覗いたけど触れてないし、結び目もしっかり戻した。それでも出てきた......」
「うーん.....まぁ逃げる様子もないし、いいんじゃないか?」
「いいのか? この包みを開いたら俺もトウヤも試験失格だぞ?」
「あぁ、開いたら失格だけど、開いてないのに出てきたら失格じゃないだろ?」
「......俺、たまにお前の言ってる事が理解出来ない時がある。今とか」
「外に出て適当なモンスターに荷物を破壊させればいいだろ。大事なのは荷物の中身だろ?」
なるほど。確かにそう考えれば大事なのは中身、つまり小人だ。モンスターに襲われて荷物は破壊されるも中身は回収して届ける......で通じるかは不明だが、この小人はビンに戻るつもりはないらしい。
「でもなんで小人なんてビン詰めしてんだ?」
「......さぁな」
と、俺は答えるも、それらしい理由を昨晩、村の人から聞いた。小人を使った研究だとか実験だとか......実際に包みの中を見るまで信用していなかったが、小人がいたとなればもう......。
「まぁいいや。今日中にヘイザードまでそいつを届けよう」
「そう、だな」
「そうと決まればすぐ出発だ。お前が荷物を持つって決めてたし、小人もお前が面倒みろよ」
「あぁ......わかったよ」
小人が出てきた事実に少なからず俺は責任を感じ、一瞬嫌な顔をするも小人の面倒を見る事を承諾した。どうやらこの小人は、俺の事は怖がらず、トウヤの事はまだ少し警戒しているようで、俺の肩には迷わず乗っかってくる。
「んじゃ、俺先に外行ってるわ」
「あぁ、すぐ行く!」
答え、俺は大剣を背負う。
右肩にずっしりくる大剣の重みと、左肩にちょこんと乗る小人の存在感。どうにも奇妙な感じになってしまったが、ヘイザードまでの辛抱だ。
忘れ物がない事を確認した俺は部屋を出て宿屋の店主へ軽く一礼し、外へ。
「ッ───眩しいな」
イフリーの太陽がジリジリと眼を焼く。肩の小人も俺の真似をしてなのか、眼を細め「しいなあ!」と呟く。
人語を操る小人.....いや本来の小人が何語でコミュニケーションを取っているのか俺は知らないので、これが小人の定番なのかも知れないが、小さな人間と書いて小人......文字通りだな。
「あれ? トウヤはどこ行った?」
「あっちだよおー! カイト!」
小人は元気の良い声を添え小さな指を真っ直ぐと。その先にトウヤはいた。デザリアの騎士と何か話している様子だが騎士はすぐに何処かへ消えた。
「おい、騎士が他にも居たら色々マズイから、俺のポケットに入れるか?」
「うん、騎士を見かけたらカイトのポケットに入るねえ!」
「.......あぁ、そうしてくれ」
驚いたの事に小人は既に俺の名を覚えていた。今朝起きた時にトウヤは俺の名をクチにした。しかしそれ以降はまだカイトと呼んでいない。たった1回で俺の名前を覚えた......いや、難しい事ではない。見た目が小さいので俺はこの子を子供だと思ってしまっているのか.....でも、宿屋で昨夜見かけた鳥の真似をしていた姿は子供のように無邪気だったし、口調も今とは比べ物にならない程幼稚だった。
そう思う俺を待つ事なく、小人はクチを開いた。
「ヘイザードはこの村を出て少し歩くと着くよお! でも今ヘイザードは変な雰囲気だから、気を付けた方がいーよおー、カイト!」
「え......キミは、ヘイザードへ行った事あるのか?」
今度はヘイザードの事を.....一体この小人は何者なんだ?
「うーん、前に起きたらヘイザードの建物の中だったのお! それで、りっこが私をつまんでビンの中に入れて、布を被せて真っ暗にしちゃったんだよお!」
「建物.....りっこって、キミの知り合いかな?」
「ううん、りっこは私で、あぷりこって言う名前でね、私はだっぷーでね、」
「......ん? ちょっと待ってくれ、ゆっくりいこう。あぷりこさんは小人じゃない.....のか?」
「小人? りっこは私だから小人じゃないよお?」
「.......えっと、悪い、全然意味がわからない」
「うーん、りっこは前の私で、私がりっこの時に作ったのがだっぷー! それが今の私で、りっこは人間でだっぷーは凄く人間に近い、ホムンクルスだよお!」
俺は、この小人が何を言っているのか、全く理解できなかった。




