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「この荷物をヘイザードにある研究所にいる大きな眼鏡をした研究者へ届けてもらう。中身を確認した場合は失格、そのまま牢屋行きだ。無事届ける事が出来れば2人は見習い騎士となる。本来ならば騎士が行う任務だが人手が足りなくてな。不本意だが見習い試験として貴様等に行ってもらう」
数分前、俺とトウヤはデザリア騎士から騎士見習いの試験を受け取った。謎の荷物をヘイザードへ届けるという試験。荷物は布に包まれクチが結ばれている。大きさはそれほどでもない。
部屋を出る時に準備を済ませ、ラビッシュのみんなに挨拶をし、騎士が待つラビッシュの入り口へ向かったので、俺達はこのまま試験をスタートする。本来ならばラビッシュから出る事は不可能、出ようとしても見張りのデザリア騎士が止める。しかし今日は俺達を見て騎士が小さく頷いた。あの騎士は俺達が貴族と喧嘩した時に来たラビッシュ出身の騎士だ。
「外に出るのは初めてだな、ワクワクするぜ」
トウヤは入り口───俺達から見れば出口を見つめ少し笑っていた。
「俺が荷物を持つ.....でいいのか?」
騎士から受け取った荷物を持つ俺はトウヤへ一応確認したが、
「あぁ、頼む」
予想通り、トウヤは荷物なんて興味ない様子。これをヘイザードへ届ければふたり一緒に合格できるし、俺が持っていた方が色々と安心だろう.....トウヤならわりと本気でどこかに置き忘れそうだし。
「早く行こうぜ!」
「おう、俺が荷物持ってるから先に出る。トウヤは後から来いよ」
「は!? 俺が先だろ!」
どちらが先に外へ出るか、競争する形で【見習い騎士試験】が始まった。
◆
外───ラビッシュから出た俺達を迎えたのは、眼が眩むような太陽の光だった。
太陽の光はラビッシュにも入る。しかし隙間から射し込む程度。全身で太陽の光を浴びたのは.....産まれた初めてと言ってもいい。
眩しくて、暖かくて、クラクラするような感覚。ランプの光や炎とは全然違う、優しい温度と匂いのある光。
数秒間太陽を見上げ、たっぷり光を浴びた俺達はすぐに前を見る。
「───すげ.....これが外かよ」
「なんだこれ......」
ラビッシュは一応デザリアにあるが、デザリアの街から少し離れた高台にあった。それさえも知らなかった俺達だが、その事実よりも眼の前に見えるデザリアの街へ意識を奪われていた。
遠くからでもわかる人の数。
「.......早く行ってみようぜ!」
「だな! 行こう!」
ボロボロの革靴で鉄屑混ざる砂を蹴り、俺達はデザリアの街へ走った。数秒走るとすぐに街は文字通り眼の前に広がる。
「「マジかよ.....すげぇ」」
同時に同じ言葉が溢れた。
たった50メートルほど離れていた距離を全力で走り、荒れる息さえもすぐに落ち着くほど、デザリアの街は俺達の想像を簡単に越えていた。
鉄屑はない。鉄素材が使われている建物もあるが、綺麗に磨かれた鉄。石材の建物は洒落た色で、木材の建物は滑らか。
行き交う人もラビッシュとは大違いで、俺達の常識は一瞬で崩された。
「ラビッシュ.....ゴミ溜めって言ってたが、これを見たら俺でもそう思えるな.....」
「確かに、ラビッシュとは比べ物にならない世界だ」
トウヤの言葉に同感だった。別にラビッシュを馬鹿にしているワケではないが、ここまで綺麗に完成された街を見ると、自分達が生活していた場所が酷い場所だと思ってしまう。
「......とりあえず装備を買おう。安くてもいいから防具を買うべきだと俺は思うけど、トウヤはどうする?」
「そうだな.....デザリアを出るワケだし、買っとくか」
俺達が今着ているものは防具ではなく服。何の能力も効果もないただの服。デザリアの外にはモンスターもいるだろうし防具を買うのは大事だ。
しかし、俺の本心はそこではなかった。
煤けた服とボロボロの靴。行き交う人は綺麗な格好をしていて、単純に自分の格好が恥ずかしく思えた。
防具といわれる物、装備が本当に効果的なのかさえ知らない。
「装備屋ってどれだ?」
「はぁ? トウヤお前本気で言って.......どれだろ」
建物に看板はあるが店の名前だ。装備屋、や、食べ物屋、等とは書かれていない。
俺達がキョロキョロと辺りを見渡していると、
「そこのふたり。こっちへ来い」
と、突然声をかけられた。
少しビクッとしつつ振り向くとそこにはデザリア騎士が眼を細め、嫌そうな顔で立っていた。
「おいトウヤ、お前何したんだよ」
「俺!? ただ店を探してただけだぞ」
騎士に呼び止められる心当たりなどないが、逃げる理由もない。俺達は素直に騎士の後をついて行くと、騎士はデザリアの出口まで俺達を誘導した。そして、
「これがデザリアからヘイザードまでの地図だ。これが薬や水、そしてこれが見習いに与えられる装備だ。武器は持っているようなので防具だけでいいな」
そう言い与えられた地図や防具。予想外の支給品に俺もトウヤも固まってしまった。
「そこの小屋を使って着替えろ。着替えが済み次第、すぐに任務へ取り掛かれ」
騎士は最低限の事だけを言い、デザリアの街へ消えた。
「あの騎士なんか急いでるのか? とりあえず貰えたもん装備しようぜ」
騎士が俺達をどう思っているか、なんてどうでもいい。俺達は試験に合格して騎士見習いになって、そこで結果を出して正式にデザリア騎士になる。
「あの小屋使っていいんだよな。装備したらすぐにヘイザードって街へ向かおうぜ」
「お? やる気満々だなカイト。空回りして荷物忘れるなよ?」
「お前じゃないんだから大丈夫だ、それより早く装備してヘイザード行くぞ」
◆
肌触りが驚くほど心地よい赤茶色の布と滑らかな金属のチェストプレート。柔らかく頑丈な革のグローブと靴。
俺達は支給された装備に身を包んで、やっと実感が湧いてきた。これから行う事は遊びではなく、人生を左右する試験なのだと。
お互い装備を終え、すぐにデザリアから旅立った。地図を頼りに渇いた荒野を進み、岩場の日陰で休みつつ、一歩一歩進む。
始めて “街の外” に出た俺達だったが、デザリアの時点で俺達から見れば街の外だ。今更荒野を進む事に何の不安もない───と思った矢先に、唸り声をあげ俺達を睨む影が。
「.....あれがモンスターか!?」
俺は始めて見るモンスターに驚いた。街の外にはモンスターが生息していて、人間を襲う危険性もある。そこで、街の外へ出る場合は傭兵として騎士を雇ったり、定期的に騎士隊が巡回しているので、その巡回に混ざって別の街へ行く.....と聞いた事がある。
モンスターと遭遇した場合は騎士が相手をする。つまり───騎士ではない者はモンスター相手に何も出来ないという事だ。
「俺に聞かれてもモンスターなんて見たことないしな.....でもアイツ、あれっぽくね?」
初めてのモンスターだというのに、トウヤはどこか楽しそうな声を出すが、気持ちはわからなくもない。俺も今、恐怖や不安よりも───楽しい気持ちだ。
「あれってなんだ?」
「ラビッシュで食ってたろ! カイトはあまり好きじゃないって言ってた.....名前が出てこない.....エ.....エミ......」
「エミ?.....スジマジロか!? アイツが!?」
「それだ! スジマジロだろアイツ!」
堅い鱗の鼻の先まで覆われた赤茶の生き物。尻尾も鱗に包まれていて確かに......スジマジロっぽい雰囲気はある。実際生きているスジマジロを見るのは初めてだが、スジマジロの鱗はラビッシュにもよく流れてきていたのでよく知っている。赤茶色で光沢もない渇いた質感......眼の前で俺達を威嚇するアイツの鱗も同じだった。
「よし、カイトは休んでていいぜ。俺がやる」
そう言い、背負っていた革の袋を掴むトウヤ。しかし───
「トウヤ、そんなに焦らなくても大丈夫だ。俺が倒すからお前は肉を待ってろよ。腹減ってるんだろ?」
俺も初のモンスター戦闘を体験したい。どうせトウヤはスナマジロの肉が食いたいだけだろうし。
「俺がやるって言ったろ? 腹なんて減ってねーよ。初のモンスターだぜ?」
「あぁ、初のモンスターだ。だから下がってろって、お前俺より弱いだろ」
「おいおい、カイト。俺は戦闘がしたいんだよ」
「俺もだ。新しい武器を使いたい」
「.......」
「.......」
トウヤも俺と同じく、新しい武器を使ってモンスターという存在と戦いたい。そう思っていたらしい。俺達は言い合うような会話をし、お互いを睨むように黙り───
「「.......俺が先に倒す!!」」
同時に同じ事をクチにし、武器を包んでいた革の袋を力任せに剥ぎ投げた。




