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武具と魔法とモンスターと【VE】  作者: Pucci
-万華鏡-
42/60

◆10



人は───生き物はその命を失った時、アイテムになってしまうのか? もしそうだと言うのならば、あたしはそれを受け入れたくない。人は物ではない。

.....と思う心の裏では、もし大切な人が形を変え───アイテムとしてでも自分の側に居続けてくれるとすれば、あたしはそれを受け入れたい、受け入れるだろう、と思っている。


人間は綺麗で───ズルイ生き物だ。

少なくともあたしは.....そんな生き物だろう。

だって───人間的に受け入れたくないと思う気持ちと、個人的に受け入れたいという気持ちの両方を持っているのだから。


姿形、色や輝きをその場その時で変えるあたしは、心を綺麗に見せているたげの───ハッキリとした自分を持たない、万華鏡だ。





ワインレッドのシャツにブラックのリボン。同じくブラックのスカートとブラックのブーツが【アイテム】にあったので、それを着る事にした。

デザインはまるで人形が着ているような服。もっと落ち着いた服がほしい、と思っても今は着られる服があるだけでも幸せだ。


「これなら外を歩いても大丈夫かな」


髪色が黒と赤になっているが、服の色と合っているので違和感はない.....と信じたい。

着替えを済ませたあたしは次に【マップ】の項目を開き現在地を確認し、驚く。

今あたしが居る場所はノムー大陸の首都───王都【ドメイライト】だった。

この街から【シガーボニタ】まで馬車が出ている。時刻は15時33分、45分に馬車があるハズだ。

あたしは慌てて部屋を飛び出し、ドメイライトの街へ。

今まで気にもしていなかった外の香り。夕日の香りがあたしの鼻を抜けた。


普段の生活、日常にあった外の───ノムー大陸の香り。考えた事もなかった外の空気の香り。戻ってきたんだ、やっと日常に、平凡な毎日に戻れるんだ。と思うと涙が溢れそうになる。それほどまでに吸血鬼の城はあたしに恐怖と悪夢を植え付けていた。


早く帰りたい。

そんな気持ちが足を急がせ、あたしは馬車乗り場へ到着。タイミングよく【シガーボニタ】行きの馬車が到着し、あたしは乗ろうと思うも、大事な事を忘れていた。そう、お金だ。


「お嬢さん、この馬車はシガーボニタ行きだよ?」


と馬車主があたしへ声をかけ、乗るか乗らないのか答えを待つ。


「あ、はい、えっと今お財布を」


と答えるも、財布など持っていない。粗末な時間稼ぎをし乗る手段を考えていると───、


「おや? お嬢さんもしかして “クラウン” のメンバーかな!?」


クラウン? と一瞬思ったが、もう流れに乗るしかない。それでダメなら仕方ない。


「あ、はい!」


クラウンと言われている───おそらく何らかの団体をあたしは知らないが、団体を装い馬車に乗れればこっちのもの、とまで考えた所で、自分が吸血鬼の自分に似てきたな.....と呆れにも似た感情が湧いた。


「それならお代はいらないよ。前金は貰ってるし、今日明日は無料で馬車を利用出来る.....ってジョーカーさんに聞いてないのかい?」


「あ、えっと、あたしは新人でして、その、」


「新人か。準備で色々大変だろうけど、頑張ってね。さぁ新人が遅刻なんてしていたらいけない。シガーボニタまで急ごう」


「ありがとうございます!」


どうにか馬車に乗る事ができ、安心から溜め息が出る。馬車に客はあたしひとりで、途中どこかで馬車が止まる事もないので、リラックス.....とまでは言えないものの、ひとり心を落ち着かせる時間が出来た。シガーボニタ.....あたしの家がある街。


それにしても【クラウン】とは一体何だろうか。あたしを見てクラウンのメンバーと言った馬車主、そしてジョーカーや新人というワード.....シガーボニタとドメイライトの馬車を貸切り.....人形劇の操師の団体!? と考えるもすぐにそれはないと思えた。操師がペアで人形劇をする事はあるものの、団体まで組むのは相当に珍しい。人形劇に使う人形を運ぶにしても、馬車を貸切りにする必要もない。ジョーカーさんと呼ばれる人物.....新人.....シガーボニタ.....サーカス団!? それなら有り得る。サーカス団ならば馬車を貸切りにするだけの金銭的余裕もあるだろうし、何より荷物が多い。貸切りにし運んだ方が効率的だ。


サーカス団の【クラウン】か.....。

なになにサーカス団、や、あれこれ奇術団、などはよく耳にするが、クラウンとはまた.....。サーカスにおいてのクラウンは王冠ではなく道化、つまりピエロ。そして団長はジョーカー。サーカスは一歩間違えれば大怪我してしまう事もある。そんな職業の人がピエロやジョーカーといった縁起が良いものではない名前をつけるとは.....相当自信を持った団体か、何も考えていない団体か。どっちにせよ今日はその存在に助けられた。

.....落ち着いたらそのサーカス団でも見に行きたいな。などと気の抜けた事を考え、すっかり夕焼け空に染まったノムー平原を馬車から眺めていると、馬の荒い鳴き声と共に馬車は急停止する。


「えっ!? なに、どうしました!?」


あたしは前屈みになる身体を起こし、窓から顔を出し慌てて馬車主へ声をかける。しかし馬車主の返事は言葉はなく、震えた立つ指先だった。

指の先にあるのは【シガーボニタ】の門。

門を見て懐かしい気持ち───になると思っていたが、その門はあたしの知るシガーボニタのものとは違っていた。


「なに....が.....」


「す、すぐにドメイライトへ戻る! お嬢さんも早く窓を───....お嬢さん!?」


馬車主の声を置き去りに、あたしは馬車を降りた。待つか一瞬迷っていた馬車主だったが、どうやらドメイライトへ戻る事を選んだらしい。

馬の足音を背にあたしはシガーボニタの門へ急ぐ。

夕闇でハッキリと見えなかった───だけだろう。吸血鬼の城での恐怖が少し甦っただけだろう。暗い地下にいたんだ、夜の闇に恐れて幻覚にも似た何かを見る事だってあるでしょう。と自分に言い聞かせ走り、門がハッキリ見える距離まで来たあたしは鋭く息をのみ、足を止めた。


ベットリと湿るシガーボニタの門に、赤黒い糸で縫い付けられているのは複数の───人間の頭部。


「───な......え?」


震える唇を噛み、あたしはゆっくり近づいた。するとあたしの視界はそれを鮮明に捉える。縫い付けられている頭部は大人のもの。瞳はくり貫かれ、クチが裂けているものも。


そして門には───、


Lassen Sie das Puppenspiel───お人形劇は好き?


と刻まれていた。







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