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武具と魔法とモンスターと【VE】  作者: Pucci
-万華鏡-
40/60

◆8



───お家へ帰るデスよ、マユキちゃん。


そんな声が暗闇の奥底にいるあたしへ届いた───気がした。





真祖 吸血鬼の館、王室にある玉座へ無造作に座る後天性 真祖 吸血鬼のマユキ。

ジュクジュクと傷が泣き熱を持ち再生される様子を観察し、呆れるように笑った。


真相の女王【アリストリアス】に殺されかけたマユキは吸血鬼だけが持つ特別な血液、黒血を無意識に使い──恐らく真祖吸血鬼最強の女王──アリストリアスを殺した。

もう一度黒血を使ってみろ、と言われればそれは不可能だろう。窮地、極地に立たされ命の終わりを感じたからこそ出来た事であり、使えるかと問われれば答えはNOとなる。


しかしマユキは知ってしまった。黒血の力───つまり、自分がまだ知らないこの身体のに眠る力を。


「.....帰るデスか、地界へ」


マユキは豪華な装飾を持つ椅子の上から部屋を見渡し、大きな鏡を発見すると腰を上げ鏡へ近づく。


「あら? 酷い顔デスねぇ」


鏡に映る自分の姿を見たマユキは呆れ笑うような声で呟くも、表情は沈んでいた。

自分でも感情と表情の違いに驚くほど、それは違った表情モノだった。


「顔もデスが.....髪も瞳も酷いデスねぇ。こんな姿で地界へ戻ると大騒ぎになっちゃうデス」


白髪に黒紅の瞳、髪や頬には血液が付着していてクチにはキバ。傷の再生は終わっているものの、傷ついた服装は再生されるハズもなく、マユキが呟いたように今の姿で地界───人間の元へ戻ると大騒ぎになってしまう。

最低でも髪と瞳、キバが戻るまで待とう。そう決めたマユキは玉座に腰掛け瞼を下ろした。心地よい疲労がマユキの腕を引いた。





廻る時計....歯車は喰い合い、止まった。

再び動かそうと手を伸ばせば、酷く錆び付いた糸があたしを止める。


───どうしたデスか?


そんな声が聞こえたかと思えば、突然全身の力が抜け、ゆっくり堕ちる。底も見えない暗闇へ、ゆっくり、ゆっくり。

ズキン、と瞳の奥が鈍く痛み、喰い合っていた歯車が全て崩れた。





「───.....朝、デスか?」


あたしはポツリと呟き、高い窓を見上げる。空は赤黒く、真っ赤な月が浮かんでいた。


一瞬ながいの夢を見た───気がした。

内容までは覚えていない。


「.....不思議な感覚デスねぇ。悲しくて、寂しい」


何かが噛み合っていた、喰い合っていたような頭痛も今では無くなっていた。不思議な夢───だった気がする。


───そろそろいこう。


「───デスねぇ、マユキちゃん」


重い玉座から腰をあげ、鏡の前へ進む足。高い窓からは紅い光が射し込み床を染める。


───地界へ戻るには鏡に血を吸わせる事。


そんな声が聞こえ、あたしは手首へ噛みついた....けれども血は出ず。


「.....おかしいデスねぇ」


何度か噛みつき、ふと鏡を覗き込むとそこには───黒に少しの赤が混じる髪、黒と白の瞳、キバを持たない自分が必死に手首へ噛みついていた。


戻っていた。

吸血鬼としての姿ではなく、人間に最も近い姿の自分へ戻っていた。


「この姿なら地界を歩いても平気デスが.....困ったデスねぇ。血を出さないと帰れないデス」


あたしはキョロキョロと部屋の中を見渡すも、刃物などはない。アリストリアスの大斧を拾っておけばよかった、と思うも戻るのは面倒.....アリストリアスとの戦いで体内を流れる血液を針に変化させ外側へ尖らせたアレをやってみるみようか? と思ったがアレをやってしまえばまた吸血鬼の姿になってしまうだろう。

困ったあたしだったが、別に方法が無いなら仕方ない。と考え、親指をくわえ奥歯で強く噛む。ブチっ、と皮が裂け肉が切れる音と鉄の味が広がる。

血を溢す親指を迷う事なく鏡へ向け、磨き上げられた鏡を血液で汚す。すると鏡の表面はうねり巻き、独特な雰囲気を持つ入り口が揺れる。


「これが道デスか.....不思議デスねぇ」


道の先は暗闇で出口は見えない。しかしここ以外に、この方法以外に地界へ戻る方法をあたしは知らない。


指先で鏡をつつくと、水面のように波紋を見せた。通れる事は通れる、と確認し、あたしは一気に進んだ。落下する感覚に近い、吸い込まれる感覚が全身を引かれ、足がつく。

時間にして5秒もない移動だったが、窓から見える空はうっすらオレンジ色に染まり、どこか懐かしささえ感じる夕日の匂いがした───気がした。


「......、、ここはどこデスかね?」


あたしは地界の人間だったが、あたしは地界のあたしではない。外界───吸血鬼の城で覚醒した自分には “懐かしいような雰囲気” しかわからない。夕焼け空や夕日の匂いも実際に懐かしんでいるワケでもなく、胸の奥が少し締め付けられるような感覚を懐かしさなのではないか? と考えている。

今あたしが立っている場所はその “懐かしさ” さえも感じない小さな部屋だった。


「.......」


部屋を見渡してみると、ベッドがひとつ、小さなテーブルとイス、そのテーブル付近に鏡があった。そして扉が二枚。ひとつは外へ繋がる扉か? もうひとつは.....シャワールーム。住むにしては狭く、キッチンなどはない。


「.....宿屋デスね。シャワーでも浴びるデスか」


部屋に設置されているベッドや部屋の大きさから考えて、宿屋である事は間違いない。すぐに外へ出てみたい気持ちもあるが、吸血鬼達の血を浴びた状態で外を歩くワケにもいかないので、まずはシャワーを浴びる事にした。








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