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武具と魔法とモンスターと【VE】  作者: Pucci
-万華鏡-
37/60

◇5



溶けている様な皮膚とただれた肉、骨も見える。

エリザベートの炎に焼かれたあたしの身体は全身ではないものの、醜い状態になっていた。痛みと言える痛みは無い。全く痛みが無いとは言えないが、針で皮膚を突いた程度の痛みしか無い。

しかしその痛みもすぐに消える。

全員に張り巡らされた血管を更に広げ、血液の循環を加速させる様に───すると骨、神経、肉、血液、皮膚、全てが再生した。切断された部分や焼け消えた部分も繋がり再生する。


「面白い身体になったデスねぇ」


不思議な気分だった。

記憶が遠くて薄い。エリザベートの血液を飲んだ時、更に記憶が薄くなった気がした。でも同時にお腹の底がゾクゾクと震えた。その感覚を思い出しただけで、口元が緩む。


「....まずはエリザの手掛かりを探すデスか。どこへ行ってしまったデスかねぇ」


傷は治り小さな痛みも無くなった身体を一通り確認し、最後にクチを、歯を確認し、驚く。


「あれれ?キバが無いデスね?折れちゃったデスか?」


エリザベートへ噛み付いた時は確かに生えていた白く鋭いキバが無くなっていた。あたしは辺りを見渡し、鏡を探すも地下牢にそんなモノは存在しない。諦めようと思った時、水溜まりに紅い月の光が射す。水溜まりを覗き込むと自分の姿が水面に映った。


「汚れた顔デスねぇ」


呟き、歯を確認してみるとキバはやはり無い。しかし折れたワケではなく....短くなったと言うべきか。


「....この上にエリザの部屋がありそうデスね。シャワーでも借りるとしますか」


とにかく今はこの地下牢を出る事にした。いつまでもここに居るワケにもいかないし、エリザを探すならばエリザが住んでいたこの家をまず調べた方がいいだろう。

酷く錆び付いた扉を押し開き、冷たい石の階段を登る。

ペタペタと響くのは自分の足音?コツコツと響くのは誰の足音?


「いやいや本当だって!地下にいる人間は───え?」


「あ?」


階段を登り切った所で2人の男性吸血鬼を見かけ、あたしはお腹の底でザワつくものを抑える気も無く、指先を噛み血液を滲ませ、血液をナイフの様に鋭く変化させた指先で1人の首を切断した。

転がる首と踊るように倒れた身体は楽しげで、床を濡らす色も楽しげで、楽しくて。


「誰だおま───」


2人目も同じ様に。

ゾワゾワ、ゾクゾクする快感にも近い感情。やっぱり正解だった....吸血鬼を殺すと決めて。だってこんなにも楽しいもの。


「あら?まだ身体がピクピクしてるデスねぇ」


首を切断したにも関わらず、倒れた身体はまだ動いていた事にあたしは気付き、指先の傷を更に深くし、血液のナイフを10センチ程の長さまで伸ばし、身体を細かく、細かく、バラバラ、バラバラ、バラバラ。


「....お庭には薔薇が咲いてるデスかぁ」


バラバラにした死体には、壊れてしまったモノには何の興味も湧かないあたしは廊下の窓から庭を見て、紅色の月明かりを浴びる薔薇を見つけた。もっとよく薔薇を見たいと思ったあたしは足を動かした。するとベチャベチャと音が響き、妙な感触のモノを何度も踏んだ。

しかしあたしの興味は薔薇にしかない。


「見たことない薔薇デスねぇ。後でもっと近くで見てみるとするデス」


あたしは窓の薔薇を見るのをやめ、転がっていた吸血鬼の頭を1つ拾い、廊下を進んだ。すると予想通り別の吸血鬼が歩いている。


「こんばんはデス」


「ん?」


あたしは吸血鬼へ声をかけ、持っていた頭を投げ渡し、背後へ素早く回り込む。


「首!?」


「動かないでくださいな」


血液のナイフを吸血鬼の喉へ押し当てあたしは笑いを堪えて言う。


「動いたり声を出したりすれば殺すデスよー」


「ど、あ、」


「質問いいデスか?」


吸血鬼の男性は声を出さずに頷いた。


「エリザベートのお部屋はどこにあるデスか?」


「....三階の一番左側の部屋がエリザ───ポク」


「ポクって何ですか?声を出したら殺すって言ったデスよね?」


ポクポクとクチ、首から血液が溢れ出る。まるでグラスを倒した様に沢山の血液が面白い程。首を切断し身体を細かく刻み、三階へ向かおうと足を階段へ向けるも、ふと気になった───


「....血がベッタリ」


この吸血鬼の血はどんな味がするのか。

あたしは血液で濡れた手を舐めてみると、エリザベートとは違った味に楽しくなる。


「アハ!違う味デスねぇ!あなたはカビたチキンより不味いデス」


不味い。とてもクチに出来るモノではない。しかし血液を舐めて数秒後にくる浮遊感と、脳が起きる様な感覚。これがたまらない。


「....三階でしたね」


不味く不愉快な味の血液はあたしを起こす。どこかモヤモヤした頭の中も少し晴れ、愉快な気持ちに。エリザベートの部屋へ向かう最中、あたしは両手の血液を舐め続けた。

舐めても舐めても、舐めきれない量の血液。気が付けば三階の一番左の部屋の前に。


「ここがエリザの部屋デスか....おじゃまするデスよ」


ガチャ、と心地好い音が鳴り扉が開く。


「....おぉー」


ミニシャンデリアにクラシックベッド、クラウンドレッサーとロココチェア。ポインテッドアーチの窓と薔薇が巻き付く鳥籠。家具のデザインと色、配置にも拘って作り上げられた部屋を血液に濡れた足で歩き回り、エリザベートを探すも姿はない。手がかりになるモノもなく部屋を後にしようとするも、シャワールームを見つけた。


「シャワー借りるデスよー」


誰も居ない部屋でそう言い、あたしはシャワーを浴びる事にした。頭の先から温かいお湯が降り注ぐ。シャワーの音だけが耳に届き、孤独感にも似た安心感が胸を満たし落ち着く。


自分はこれから何をすればいいのか。そう考えるとすぐに答えが浮かぶ。

自分はこれから吸血鬼を殺せばいい。しかしなぜ殺そうと思っているのか....それがぼんやりとして思い出せない。


「あたしは....何で生きているのデスかね?」


エリザベートに殺された、という記憶はある。しかしなぜ殺されたのか、そしてなぜ生きているのか、それが薄くぼんやりしていてわからない。

なぜマユキという名を持ち、なぜ薔薇を見た時に胸の奥が少し痛んだのか....それもわからない。


「あたしは誰デスか?」


無意識に呟いた瞬間、シャワーのお湯は落下を止め、景色が真っ赤に染まり時間が止まった様に。


───あなたは新しいあたしだよ。


「はい?誰デスか?」


突然眼の前に現れた人物は自分によく似ていて、でもどこか弱々しくて。


───あたしはマユキ。でも、前のマユキ。


「前....デスか。ではあたしは新しいマユキって事デスか?」


───そうなる....かな?あたしは人間として生まれて人間としてエリザベートに殺された。その時、ジルさんがあたしを生かす為に命をくれた。


「ジルさん....誰デスか?あたしは知らないデスよ」


───うん。あの時、ジルさん....エリザベートのお兄さんが黒血をあたしにくれて、手を伸ばしたらあなたが生まれた。


「そうデスか。でもどうしてあなたではなく、あたしが生きているのデスか?」


───あたしはもういいの。人間として死んだから、その身体はあなたのもの。名前も全部、好きにしていいよ。


「あなたはこれからどうするデスか?」


───うーん....このまま消えれるなら消えたいかな。


「戻れるとしたらどうしたいデスか?」


───もう戻れないってわかるんだ。戻っても身体は吸血鬼。それだと戻った事にならない。


「そうデスか....あなたを殺したのはエリザベート、吸血鬼デスよね?」


───うん。


「わかったデス。やっぱりエリザベートは殺すデス」


───え?それは、


「もう決めたデス。あなたを殺したエリザベートを新しいマユキが殺してあげるデスよ。だから....」


───え?


「ゆっくり溶けて消えてくださいデス」


あたしは眼の前に現れた前のあたしへ噛み付いた。首筋にキバを立て、ゆっくりと命を吸う。好きにしていいって事は、こうしてもいいハズ。前のあたしは、あたしを必要としていないなら、あたしも前のあたしは必要ない。


───さよなら。


ゆっくり時間が戻り、止まっていた現実が動き始めた。

温かいシャワーが全身を叩き、自分がおかしくなっていたのではないか?と思うも、口内に濃く残った鉄の味は現実だった。


胸を満たした何か。頭の中に浮かぶ知らない人物達はすぐに遠くなり消える。懐かしい様で、胸がギュッと締め付けられる中、あたしは雫をシャワーに隠して溢した。


「もう戻れない....もう戻りません。だから....この記憶を消して。胸の奥が痛くなるのは───....、楽しくないデスねぇ」


震えていたマユキの声は途切れ、あたしの声に戻った。





シャワーを済ませたあたしはエリザベートの衣服を探し、汚れていた服を変えた。

いつ何処で入手したのかも、今となってはハッキリ思い出せない男性用の上着。誰のモノかもわからないが、捨てようとは微塵も思わなかった為、服の上から羽織る事に。男性用の上着はサイズ的にも充分で余裕がある。少し重いものの大切に思う何かがこの上着にはあるのだろう。


「さて....これからどうするデスかねぇ」


あたしはベッドに倒れ今後の事を考える。エリザベートの行方はヒントもなく闇雲に探すにしても今自分が居るこの場所の事さえハッキリ知らない。なにより自分自身の事がハッキリとわからない。

直感的に使えた血液に関係する能力。すぐに治る傷と生えたり消えたりするキバ。

吸血鬼と言える能力だが、吸血鬼は常にキバを持ち瞳の色も違う。


「....これだけ大きなお屋敷デスし、書庫くらいありそうデスねぇ」


人間も自分達の歴史をまとめた本を持っている。吸血鬼も例外ではないと思えたのと同時に、あたしみたいなイレギュラーな存在についてのデータは残っている確率が高いだろう。あたしは未完成な吸血鬼でありながら、吸血鬼を殺す力を持つ存在なのだから。


書庫を探す事に決め、エリザベートの部屋から出ると廊下に吸血鬼が2人....いや、二体。


「こんにちはー」


あたしは挨拶と同時に右指を噛み床を蹴った。一体の吸血鬼へ接近し鋭く硬化させた血液のナイフで吸血鬼の首を掻いた。コプッとクチから血を吐き出し倒れる一体を見送る事なく次の吸血鬼へ手を伸ばし、首筋へ指を突き立て動きを奪う。


「こんにちは」


「な....なんだお前は!?」


「書庫はどこにあるデスか?」


指先の血液をナイフから針へ変え、プスリと首へ刺し返事を待つ。


「!!?....書庫なんて、この屋敷には」


更に深く針を刺し、様子を見ると吸血鬼は顔を歪め答えた。


「一階の聖堂付近に書庫がある!鉄の扉だからすぐにわかる!頼む、殺さないでくれ」


「なるほど、ありがとうデス」


書庫の場所を聞き出す事に成功したので、吸血鬼の首へ針を深く刺し、針状の血液を破裂させてみた。すると首が弾け飛び頭は宙を回る。


「アハハ!エグい死に方デスねぇ!」


腹の奥がゾワゾワと震える感覚に無意識な笑いが溢れた。頬に飛び散った吸血鬼の血液を舐め、沸き上がる何かを鎮め、一階にある書庫を目指す。指先の傷はすぐに塞がり傷痕も綺麗に消えた。

自分の能力を把握しなければならない。今あたしが持つ武器は血液を変化させる力のみ。向かい合っただけでも今の吸血鬼が下級ランクである事くらいハッキリ理解出来た。エリザベートやエリザベートの両親などは恐らく上級ランクの吸血鬼。


「楽しみデスねぇ....マユキちゃん」


自分の名前だが、自分に対してではない不思議な気持ちであたしは呟いた。吸血鬼の血をクチにすれば自分の中にある昔の記憶に霧がかかり、薄く遠くなる。その度に今の自分がハッキリと、近く濃くなる。ゾクゾクと練り上がる衝動の様なモノを抑え、あたしは階段を降りる。何度か吸血鬼と遭遇するも姿を確認する前に吸血鬼をバラバラにし、指や頬に付着する血液を舐め進む。

吸血鬼が言っていた聖堂付近にある鉄の扉は一眼でわかる。他の扉は木製だが冷たく重厚な扉が書庫。鍵がかかっているも血液を鍵穴に注ぎ、硬化させれば簡単に開く。


「お邪魔するデスよー....」


書庫内へ声を響かせるも反応は無く、気配も無い。あたしはそのまま一番奥へ進みガラス張りの棚に保管されている古びた本を発見した。


「見るからに、デスねぇ」


棚にも鍵がかけられているが扉と同じ方法で簡単に開き、本を手にする。ずっしりと重く、乾いたページをめくる。見た事もない文字が並ぶも、不思議と文字は読め、吸血鬼種族について書かれている本だとすぐに理解する。


「やっぱり歴史本はどの種族も大切に保管してるものデスねぇ」


吸血鬼───ヴァンパイアは悪魔族の吸血鬼種に分類されるらしく、悪魔に変わりはないが悪魔サタン系とは別の存在。人間で言えば悪魔サタンが王族で吸血鬼ヴァンパイアは上流貴族といった所。人間で言えば.....。

吸血鬼の位置がわかった所で何の意味もない。あたしが知りたい情報は───


「───....これデスかね?」


吸血鬼種の中での権力....優劣や力の違い。自分はどの吸血鬼で何が出来るのか。エリザベートはどの吸血鬼で何をしてくるのか。それが知りたい。

斜め読みで乾いたページをめくり、知りたい文字を探す。すると吸血鬼種の称号というのか、大文字が縦に並びその大文字の横に細かく記入されたページを発見した。恐らくこれが種での権力や力の階級だろうか。雑魚階級なんてどうでもいい。あたしの眼に止まったのは最上級吸血鬼の “真祖” という種。ノスフェラトゥという名を持つ吸血鬼が真祖、つまり最強種の吸血鬼でノスフェラトゥ一族が何千年も吸血鬼の頂点に立ってる。そこには “エリザベート” の名も刻まれ、その上には兄として “ジルドレイ” という名も。


「....ジル....」


霧が邪魔をして記憶を拾えない。この名はあたしにとって───人間のマユキにとって大切な....気がした。しかしいくら思い出そうとしても霧は濃く記憶は遠く離れている。


「....エリザの事がわかっただけでもヨシとするデス」


エリザベートは真祖吸血鬼で吸血鬼の頂点に立つ存在。という事はこの屋敷はノスフェラトゥの屋敷。エリザベートの父や母、そして兄もこの屋敷にいる。頂点に立つ種を殺す事が出来れば他の吸血鬼も、エリザベートも殺せる。そう考えると全身に流れる血液がゾクゾクと疼く。


「....?」


沸き立つ感情を抑え何気なくめくったページには “後天性吸血鬼” の文字が。


「....真祖、黒血、後天化」


エリザベートが死んだハズのあたしを見た時に言った言葉が頭の中をグルグル回る。

久しぶり、あるいは初めて、とも言える急ぎや焦りの感覚に呑まれそのページへ視線を突き刺す。


「.....これがあたし、デスね」


後天性吸血鬼の詳細は酷いものだった。

吸血鬼以外の種族を拘束し、黒血を体内の深い部分へ沈め覚醒を待つ。1000/1ほどの確率で黒血対象は吸血鬼として後天する。しかし問題は1000/1で後天に成功した吸血鬼は驚くほど弱く数ヵ月で絶命した。


「....凄くレアな存在なんデスねぇ。後天性吸血鬼」


生き物を相手に1000/1の時点で相当な確率。そして後天した生き物は弱く数ヵ月の命。

これは本当の事だろう。過程まで詳しく書かれているうえに、黒血を提供した吸血鬼の性別や年齢、名前まで細かく書かれている。

この本の通りなら、あたしは弱く数ヵ月の命....いや、あたしの存在自体が吸血鬼から見れば異質、イレギュラーなモノなのかも知れない。

エリザベートは嬉しそうに「真祖の黒血で人間からヴァンパイアになった。後天化に初めて成功」と言った事から、後天化に成功した上で、弱く数ヵ月の命というマイナス面も....自分では感じない。


「まぁ生きてみれば解る事デスね。それと....あたしは真祖の後天なのでエリザベートと同じランクって事デスかね!ラッキーデスねぇ」


本当にラッキーだ。雑魚種ならば絶望的だったがエリザベートと同じ真祖、つまり───ノスフェラトゥとやらを喰う事も出来る後天性吸血鬼があたし。


「王室を探すとするデスか」


あたしは指先を噛み、血液を垂れ流し硬化させ、血液のナイフで本をズタズタに切り裂き書庫を後にした。


廊下に出ると聖堂の扉が開かれている事に気付き、覗き込むと聖堂内には吸血鬼がうじゃうじゃと。不安や焦り、怒り、様々な表情の吸血鬼が聖堂に集まる。集まっている理由も大体わかる。あたしがここへ来るまでに殺した吸血鬼の死体は放置。敵が屋敷に入り込んでいる可能性ではなく、事実を全吸血鬼へ広めるためだろう。

吸血鬼達を観察していると性別や年齢、顔が違うのは当たり前だが、衣服にも差がある事に気付いた。薄っぺらな礼服を着ている吸血鬼達は部屋の端で、中心にいる吸血鬼達は見るからに高価な礼服や装飾品で身を飾る。発言力も中心に近い吸血鬼がある様で、端の吸血鬼達は似たような仲間と会話するレベル。


真祖が吸血鬼種の王族で....次が純血、そして血飲あがりの下級吸血鬼だったか。純血は吸血鬼系譜の産まれで真祖が認めた100%吸血鬼の貴族。下級は血飲....ドラキュラが一定量の血液を飲む事でヴァンパイアレベルの力を手に入れ、純血に認められた存在。

あたしは真祖の後天吸血鬼....純血相手に躓く様では本気のエリザベートには触れられないだろう。


ゾワゾワ、ゾクゾクと内側からあたしを染める感覚を受け入れた。瞳が熱くなりキバが伸びる。右肘辺りから中指辺りまでをキバで傷付け溢れる血液で右腕を包み、血液を硬化させ右腕は紅い剣に。

この自分の血液を自在に操れる能力の正体は掴めなかったが、使える能力たのは間違いない。どこまで血液を変化させる事が出来るのか───今からそれを試す。


「あプ?」


石造りの床を軽く鳴らし、あたしは聖堂へ入り一番近くにいた吸血鬼の胸へ右腕を突き刺してみた。速度はそんなに無かった。しかし斬れ味がいいのかこの吸血鬼が柔らかいのか、胸に軽く突き刺したつもりだったが、あたしの腕は肘付近まで吸血鬼の胸を貫通してしまった。


「マヌケな声デスねぇ。あなた柔らかすぎデスよ?」


貫通した右腕を一気に上げると吸血鬼の胸から頭までを抜けた。血液が飛び散り聖堂に居る吸血鬼達の視線が一気に集まる。


「お花を咲かせに来たデスよ」


ざわつく吸血鬼達の中で純血と思われる吸血鬼が何かを叫ぶも、花を咲かせる事しか頭に無いあたしには声も叫びも───どうでもよかった。







「お花、薔薇、薔薇ばら、バラバラ!綺麗なお花を咲かせに来たデス。マユキちゃんはお花が好きデスか?あたしは薔薇ららラーなお花が好きデスよ!静かにしていていい子デスね、いい子デスよ」


マユキは狂った様に言葉を並べ、吸血鬼達へ刃を向け続けた。右腕を突き刺した状態で血液の形状を薔薇へと変化させると吸血鬼が破裂し、紅に濡れた薔薇が咲く。血液で大きく細かい薔薇の形を作り素早く剣状へ戻す事も可能だと知り、何度も薔薇を咲かせた。ものの数分で聖堂は悲惨なまでに汚し、最後に残る純血の吸血鬼へゆっくり近付く。


「この強さ....貴女は真祖様....でしょうか?しかしなぜ我々を!?」


全身を震えさせ、涙を溜めてマユキへ問いかけた純血の吸血鬼。マユキは吸血鬼の両脚を撥ね飛ばし、ニッコリ笑った。吸血鬼の悲鳴は聖堂の高い天井に昇り、複雑に反響する。


「随分うるさいと思って来てみたら....凄い有り様じゃない?」


女性の高い声が悲鳴の中に混じりマユキの耳に届く。しかしマユキは声が聞こえる前にその気配を背で感じていたビリビリと背から抜ける威圧感、酷く汚れた聖堂を見てもブレない声音。

マユキは純血へ真祖の居場所を聞き出そうとしていたが、真祖と思われる吸血鬼がわざわざ来てくれた事で純血を生かす必要も無くなり、あっさりと首を掻き殺した。


「あなたがエリザベートのお母さん....デスか?」


振り向き、真祖と思われる吸血鬼へ声を飛ばす。長く綺麗な白髪と黒紅の瞳。青白の肌に紅い唇、白いキバ。


「貴女はエリザのお友達....には見えませんね。その上着はジルの物にそっくりですし....何者です?」


「質問してるのはあたしデスよぉー?」


ヘラヘラと笑い、マユキは自分の質問を押し通す。エリザベートをエリザと呼ぶ時点で家族なのはほぼ確定している。そしてノスフェラトゥに男女は2人ずつ、つまりマユキの前に立っている吸血鬼はエリザベートの母親で間違いない。マユキはその事に既に気付いているものの、返事を待ち続けた。その理由はあの真祖吸血鬼から独特な───嫌に冷たい空気を感じていたからだった。


「私の質問に答えてくださったら名乗りますわ....。貴女ひとりでこの数を?」


「そうデスよ、みんな柔らかいデスねぇ。で、あなたは?」


「....聖堂にヴァンパイアが集まっているのは都合が良かったのですが、まさかたったひとりに全員殺されるとは思いませんでした」


吸血鬼は呆れ果てた様に溜め息を吐き出し、手のひらサイズの薄い端末を操作する。アイテム類や装備品を収納でき、図鑑や地図、任意の相手と連絡もとれる【フォン】と呼ばれる便利な端末から吸血鬼は真っ黒な大斧を取り出した。


「試し斬りの相手がひとりしかいないのは寂しい気もしますが....これだけの数をひとりで消した貴女なら不足もありませんね」


「なにひとりで喋ってるデスか?」


「私は数日前からこの屋敷の主になりました【アリストリアス・ノスフェラトゥ】です。そしてこの大斧が元主で “私の夫” の【ヴラドツィペル・ノスフェラトゥ】です」


アリストリアス・ノスフェラトゥと名乗る吸血鬼。ノスフェラトゥは真祖の名で、この吸血鬼はエリザベートやジルドレイの母。


「さすがエリザのお母さんデスねぇ、夫を武器にしちゃうなんて狂ってるデス」


「私から見れば貴女も相当、狂って見えるわよ?」


「アハ、お互い様デスか。ご挨拶遅れて申し訳ないデス、あたしはマユキ。後天性吸血鬼デス....デス!」



ご機嫌に自己紹介を終えた直後、マユキは大きく一歩踏み込んだ。




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