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武具と魔法とモンスターと【VE】  作者: Pucci
-万華鏡-
34/60

◇2




キラキラと光る夜空のカーテンも今では悲しいものに感じる。この街の夜も音楽団が奏でるメロディも全てが数時間前と違う印象に。それ程までに、人形劇【マリオネット ミゼル】は人の本能的な部分を塗り替える影響力があった。暴力的な感情と性的な感情が混ざると悲劇の華が咲く。リリーと呼ばれる人形が持つ表情は本物の人間と遜色がない。しかし暴力的、命を奪うシーンでは温度の無い人形と変わらない、無表情だった。

そこにあたしは一番魅力を感じた。狂喜的な表情をすればさらに印象的なシーンになるだろう。しかしマリスさんの人形、リリーは無表情で相手の命を奪う事に何も感じない、何も思わないと嘆いている様な灰の瞳で。それはとても歪んでいて悲しい事なのだろう。しかしそれがマリスさんの人形劇【マリオネット ミゼル】では当たり前の世界観になる。


あたしは身体が弱いとはいえ、両親がいて平凡に生活出来る。平均的な家族、家庭環境がある。その平凡で平均で普通が、一番幸せな事なのだろうと心から思えた。


「言葉に出来ない。とはこの気持ちの事を言うのかな」


あたしの隣でそう呟いた男性、人形劇前に出会ったジルさんは色白の肌を一層に冷やし、楽しそうに演奏している音楽団を見る。別に音楽団に興味があるワケではないだろう。どこに運べばいいのかわからなくなった視線を、音楽団に送っているだけ。あたしも同じ。


この後は何の会話は無くただ歩いた。別れ道でジルさんが立ち止まる。


「僕はこっちなんだけど、マユキちゃんは別方向かな?」


ジルさんが指差す先は隣街への馬車乗り場。そういえば、この街に来るのも初めてと言っていた....隣街に宿をとってあるのかな。


「あたしはこっちです、別方向ですね」


「もう遅いし、僕がギリギリまで送るよ。家はまだ先なのでしょ?」


「えっ、いえ、悪いですよ!あたし1人で帰れます!」


「平和な街でも、何が起こるかわからない。家まで行こうってワケじゃないよ。それに.....なんだか今は1人で居るのが嫌なんだ」


黒髪が揺れて視線が外れる。

マリスさんの人形劇を見た後のこの街は、寂しさを増加させる何かがある。あたしもそれを感じていた。何に対してかもわからない寂しさと悲しさが胸に居座る。


「それじゃ....お言葉に甘えてお願いしたいです」


「うん、ありがとう」


なぜかあたしがお礼を言われ、ジルさんは優しく笑ってあたしの隣を歩いてくれた。

身長高いなぁ。何センチあるんだろう?

色も白いし、雪国の人は色が白いって何かの本に書いてたなぁ。赤い瞳。ちょっぴり怖いと思ってたけど、よく見ると濃く、綺麗な赤。


「僕の顔になにかついてるかな?」


「あぇ、いえ、その、綺麗な色の瞳だなぁって、その」


見すぎた様であたしの視線を感知したジルさんは少し笑い、眼を指差し言う。


「僕はヴァンパイア....吸血鬼なんだ。妹も父も母も、みんな吸血鬼で瞳が紅い」


吸血鬼ヴァンパイア!?」


驚くな、と言う方が無理だろう。吸血鬼の存在は本や人形劇の中だけのお話だとほとんどの人間が思う。そんな存在が今あたしの眼の前に....信用も出来ない。それほど吸血鬼と呼ばれる存在は曖昧なモノで、あたしを含めたこの街にいるほぼ全ての人間が吸血鬼に対しての知識がない。


「あぁ、ごめん。怖がらせちゃったかな?」


「いえ、怖いと言うより驚いた....です」


「驚かせてごめんね。そろそろ家に着くかな?僕はこの辺りで戻る事にするよ。今日はありがとう」


「え、あっ、こちらこそありがとうございました。あの」


あたしは何を思ったのか、吸血鬼を呼び止めた。好奇心なのか、この日この瞬間の気持ちがそうだったのか、あたしは吸血鬼のジルさんへ家の事を言う。


「あたしの家は、この先のお花屋さんなんですが....よかったら今度お店に」


両眼を丸くし、あたしを見るジルさんは少し笑ってまた「ありがとう」と言い今度こそ別れた。あたしはジルさんの後ろ姿を少し見てから、外の空気を少し多めに吸って、気持ちを落ち着かせる様に呼吸した。


「....帰ろう」


吸血鬼....そんなモノが本当に存在しているのか。それさえあたしは知らない。この街の外には怖いモンスターや人間以外の種族が確かに存在しているが、吸血鬼───悪魔族なんて本の中でしか聞いた事ない。もし、もしジルさんが本当に悪魔族の吸血鬼だとしたら....魔女や天使、純妖精なんかも存在するのかな?


「....まさか、ね」


部屋に籠りきりのあたしは本をよく読む。そんな生活を長く続けているから悪魔や魔女、純妖精などの空想の種族に興味を持ってしまっているのか....街の外に存在している種族は人間の住民名簿みたいに全種族が登録されている。悪魔や魔女なんて聞いた事ないし、ジルさんはきっと紅い眼がコンプレックスなんだ。それで吸血鬼~なんて嘘ついたのかな。

何だか可愛く思えて、あたしはクスッと笑い、家まであと数メートルの距離を進んでいた。すると突然、背後から何とも言えない視線を感じ、急ぎ振り向く。


「......?」


辺りを見渡してみても、誰も。人形劇の後に悪魔や魔女の事を考えてしまって、妙に敏感になってしまっているのか、少し怖くなりあたしは早足で家まで向かった。


今夜の月は少し紅くて不思議な月だった。





家に着いたあたしは両親と軽く会話し、お風呂へ。1日の終わりは必ずお風呂で。温かいお湯の中で今日の事をまとめる様に思い出す。


「~~....ふぅ」


人形劇のチケットを貰えたのは嬉しかったし、見たかった人形劇を生で見れたのは凄く嬉しい。内容はやはり凄まじいモノだったけど....見れてよかった。

ここまでなら楽しかった、で終われる。でも今日出会った男性───自分の事を吸血鬼ヴァンパイアと言うジルさんの存在があたしの中で、濃く残る。


「吸血鬼について何も知らないや....」


お湯にクチ元まで浸かり、ブクブクと空気玉を作り出し、自分の中にある何とも言えない感情を誤魔化そうとした。しかしモヤモヤとした雲は晴れる事なく、その原因である優しい吸血鬼の事を考えてしまう....街の図書館で吸血鬼について調べられないかな。

そんな事をぼんやり思いつつ、窓から空を見上げると少し紅い月が見える。


「.....紅い」


吸血鬼───ジルさんの瞳はもっと紅かったなぁ。いやいや、そんな事を思い出してどうする!と自分に言い聞かせても思い出さずにいられない。産まれて初めて見た血の様な紅い瞳。燃える様な赤の瞳はノムーの姫、セツカ様がそうだ。10歳なのにあの子はしっかりしている。あたしとは住んでる世界が違い過ぎて、凄いしか言えないけど。


「....そろそろ出よう」


結局お風呂でも気持ちの整理がつかなかった。いつもならリセットする感覚でお風呂に浸かるのに、今日はなんだか色々ありすぎて。頭がいつもより回らない....。吸血鬼ってトマトジュース飲むんだなぁ....童話みたい。などどうでもいい事ばかり考えてしまう。ここまで自分が吸血鬼の存在を気にしているのならば、明日図書館に行って調べてみる事に。


「今日はもう寝よう」





ちょっとうるさい鳩時計が朝6時に鳴く。職人達が集まる、芸術の街【アルミナル】から取り寄せた目覚まし鳩時計が今日もあたしを起こす。重い瞼を開き、鳩のくちばしを軽く叩くと、鳩は戻る。伸びをしてからカーテンを開くと、暖かい太陽の光が射し込む。なんだか昨日はぐっすり眠れた。そして体調が昨日と同じくらい良い。ラッキーだ。

身体に残る眠気を洗い流す様に朝シャワーを浴び、両親と一緒に朝食をとる。


「今日も調子が良さそうだね」


と、父があたしに言う。あたしは頷き、トーストに花のジャムを塗っていると次は母が。


「今日はお店を閉めて、ドメイライトまで花を届けなきゃ」


「あ、もうそんな時期かぁ」


あたしは呟き、カレンダーへ眼線を送る。今の季節は秋。秋から冬に変わる時期は【ドメイライト】へ沢山の花を届ける。他のお店は人形やエプロンなどを。なんの習慣なのかハッキリわからないけど、これは何年、何十年と続いている事なので誰も面倒とは思わない。ドメイライト....4つの大陸で一番大きな街。王族や貴族、騎士もいる街....ドメイライトなら吸血鬼の情報が多く集まりそうだ。


「ねぇ、あたしも行っていい?」


そう呟くと両親は少し悩む。お花を届けるだけ。と言ったが、色々と挨拶に回ったりするのでこの街に戻るのは夕方くらいになる。長時間付き添わせるのも...と考えているのだろう。ここはハッキリ目的も言おう。


「図書館に行きたいの。この街のでもいいけど、大きな街の方が本の種類も沢山あるかなぁーって」


もちろん吸血鬼について~は言わない。普段から心配ばかりかけているのに、ここで更に心配させるワケにはいかないし。


「図書館か....ドメイライトの図書館は騎士も利用するし、安全かも知れないな」


父がそう言うと母も頷き、ドメイライトの図書館へ行ける事になった。この街の図書館よりも何倍も何倍も大きな図書館....考えただけでもワクワクする!


「8時の馬車でドメイライトへ向かうよ。花はもう積んであるから準備が出来たら馬車乗り場まで行こう」


まだ7時になっていないのに、もう沢山のお花を馬車に積んだの?あたしよりも何時間も早く起きて働いていたんだ....手伝いたかったなぁ。


両親へ申し訳ないという気持ちが湧き上がる中で、あたしは朝食を済ませ、せめてここだけでも。と食器を洗ったり軽く室内の掃除をした。

両親は朝食後すぐに紙切れを見て、ペンを走らせたり、花の種を確認したりと忙しそうだった。

家事を一通り終えた頃、両親の方も落ち着いたらしく、ゆっくりしてから着替えを始める。あたしも着替えを済ませ、カバンの中を確認。昨日の様に忘れ物をして困るのはもういやだ。


「時計、ノートとペン。お財布!おっけー!」


確認を終えると父の声が一階から届く。返事をしてあたしもすぐに馬車乗り場まで向かった。馬車に乗るのなんて久しぶり。長時間乗っているとお尻が痛くなるあの感じも、今では少し楽しみに思える。


馬車から見る秋空は透き通るほど綺麗な水色を広げていた。





三段で構成されている街。それが四大陸で一番大きなノムー大陸の皇都───ドメイライト。王族、貴族、騎士が君臨する様にこの街ドメイライトを、ノムーを守る。ここ数十年大きな犯罪が発生していないのは騎士のおかげだろうか。あたしの住む街も陽気で平和な街でいられるのはドメイライトの存在あっての事。


馬車乗り場ではなく、ドメイライトの中心にある広場まで馬車は進み、そこであたし達は降りる。積み荷の花を下ろしているとドメイライトのお花屋さんが来る。ここからは大人の仕事。あたしは花を一通り下ろし終え、両親に一言いい、ドメイライトの図書館へ向かう。街のマップ看板で図書館の場所を確認し、街並みを見学しつつ進む。子供相手に騎士が笑顔で対応し、大人達も騎士へ話しかけたり、フルーツをプレゼントしたり、シガーボニタとは違う雰囲気の素敵な街。


「あ!お姉ちゃんのお洋服、シガーボニタのお洋服だ!」


突然子供達に声をかけられたあたしは戸惑いつつも、反応するも、あたしの声より服が気になってしょうがない様子の女の子達。でも....この子達の服装の方があたしの服より高そうだ。


「みんなのお洋服もかわいいよ」


そう言うと子供達は照れる。この照れ顔は兵器級に可愛い。シガーボニタの子供達もドメイライトの子供達もみんな元気で、騎士でも何者でもないあたしも嬉しくなる。


「ごめんね、お姉ちゃんそろそろ行かないと」


そう告げると子供達は笑顔で手を振って見送ってくれた。いつかあたしも、あんな可愛い子供が欲しいなぁ。などと未来を妄想し歩いていると、想像を越える大きさの図書館が見えた。


「うわ....」


思わず声が漏れる。この街で一番大きな建物と言われても納得してしまうレベルの大きさだが、この街ドメイライトで一番大きな建物は騎士団本部。四階建ての図書館よりも大きな騎士団って....。

図書館を見上げ進んでいたあたしは前方不注意で、


「あっ」


「ッ」


女性に激突してしまった。激突したのはあたし、あたしが悪い。でも今...舌打ち!?


「ごめんなさい、怪我は?」


「大丈夫、触らないで」


な....うん。激突されたら嫌な気持ちにもなる。でも、触らないでって....そんな強くぶつかった!?


「ごめんなさい」


「....綺麗なお洋服ですね」


「あ、ありがとうございます」


「住む家があって、家族がいて、お洋服に使うお金も、オシャレする時間も、なにより心に余裕がありますね」


金髪の女性....あたしよりは年下だろうか。その女性は古い本を何冊も持ち、お世辞にもオシャレとは言えない服装で。


「あの、何の本ですか?」


「.....ワタシが何の本を読んでいても、あなたには関係ありませんよね?」


「いえ、その....」


「.....蝶の図鑑です。急いでますのでこれで」



蝶の図鑑....ね。

転んだ時に見えた本は蝶の図鑑ではなく、蝶の鱗粉を細かく分析した学書に見えたけど....あの子が言う様に、誰が何の本を読んでいても関係ない。あたしも【吸血鬼】について調べるためにこの図書館へ来た。他人が読んでいる本に何か言える立場でもない。


「ふぅ。早くいこう」


平和に見えるこの大陸にも、平等なんて存在しない。

そんな事を訴えかける様な瞳をした女性だった。





「だから!このじはなんてよむのってきいてるんだよ!」


「図書館では静かにしなさい!」


「うるせー!おまえがしずかにしろ!」



.....なんだこの図書館は。

本の数は想像以上に多く、調べモノをするには最高の図書館だが、あの少女は....。

読めない字があるなら教えろと上から眼線で威張る青髪の小さな女の子。質問して、静かにしなさいと言われ、キレる....怖いもの知らずの性格なのか、世間知らずなのか、とにかく面倒そうな子。



「....ぬ、hey you there」


え?なになに、こっち来た。


「おまえこれよめるか?」


「え?....これは消毒液、しょうどくえき だよ」


「Shortcake!?....このはっぱが!?」


なに言ってるのこの子....聞いた事もない言葉、発音で....。あたしは助けを求める様の図書館の管理人らしき人物へ視線を飛ばす。が、あたしの視線を感知した管理人は急いで眼をそらした。

まずい。何をどうすればいいのか全然わからない。


「なーなー、このはっぱがshortcake??」


くっ....もう勘で乗り切るしかない。


「えっと、この葉っぱを潰して、水と混ぜたモノが傷口から入る菌を殺してくれるの」


伝わるか!?伝わったか!?こい、こい!


「....ん!」


「え?」


女の子は突然あたしに持っていた本を押し付ける様に渡し、


「tytyty! I eat shortcake! かえんなきゃ」


「は?え!?」


青髪の少女は理解不明な言語をクチにし、本をあたしに押し付け、図書館から立ち去った....。一体何なんだ?それにこの本はどこにしまえばいい?


「....ご苦労さん」


図書館を管理している風の人がボソリと呟く。時間にして1分あるかないかの少女との会話だったが、その短い時間でこれだけは理解できた。あの少女はとてつもなく自由な性格だ。


「あの、この本どこにしまえば?」


「私が片付けておくよ、お疲れ様、ドメイライト図書館へようこそ。読んだ本は必ず戻す事と、図書館内では他の方々に迷惑をかけない様にお静かにお願いします」


「....はい...」


他の方々に絡み、大声で話し、読んだ本を戻さない。全てのルールを綺麗に破り、立ち去った少女を知ってしまった今、そんなルールを言われても....。と思ってしまうが、このルールを伝える事も、この人のルールなのだろう。


「あの、空想や幻想の中の存在....例えば魔女や悪魔。そんな存在の事が書かれている本はありますか?」


あたしは、吸血鬼の本はありますか?よりも何倍も訪ねやすい言葉を選び質問すると、


「空想....ね。キミはさっきの少女の相手をしてくれたから、いい本貸してあげるよ。普段は常連さんや騎士様にしか見せない本だけど....秘密ですよ?待っててください」


そう言うと管理人さんはどこかへ消え、数分後、厚めの古い本を一冊だけ持ってきた。


「どうぞ。古い本ですが人間界では新しい本です。来週辺り騎士様が回収しにくる本なので、一般の方で読めるのはあなたが最後ですよ」


「?....ありがとうございます」


古くて新しい本?騎士が回収しにくる?よくわからない説明を添えられた分厚い本を受け取り、あたしは適当に座った。本のタイトルは【グルグル図鑑】とふざけたタイトル。作者は【フロー】さん。聞いた事もない名前。そして汚い字。読む前から不安しか湧かないものの、とにかく1ページめくってみると世界は変わる。【クモクモモクジあみだクジ? 】と理解不能な言葉が書かれていて、その下には【人間】【魅狐】【妖精】【猫人】【鬼】【黒鳥】【銀狼】【魔女】【悪魔】【天使】.....読み上げるだけでも疲れるくらいの種族名が書かれていた。今呟いた10種族もほんの一部。何種族分の事が書かれているのかさえ、丁寧に数えなければわからない。


そして───この本に書かれている事は想像や空想、理想や妄想ではなく、現実です。気になるなら自分で探してみればいいさ!本当に存在してるから。発見して殺されても知らないけどね───と書かれていた。


「現実?」


現実....今あたしが生きている世界に魔女や悪魔が存在していると?大昔に存在していたと言うのは聞いた事あるが、その手の話には証拠がない。妖精....エルフは剥製を自慢する悪趣味な貴族もいるらしいが、その剥製が本物なのかもハッキリしない。でも....【人間】という種族だけは確実に存在している事がわかる。この【フロー】と名乗る人物は1ページ目の目録にあえて【人間】を種族枠に並べる事で読み手の意識を本に集中させているのか....それともこの人物は【人間】さえも自分の立場から見れば別種族として見える存在なのか....いや、それはないか。もしそうなら人間や他の種族には理解出来ない自分達だけが理解できる言語を使って書くはず。しかしこの本は誰もが理解しやすい言語で書かれている。何の目的でこんな本を....。そんな事いくら考えても答えなんて本人しかわからない事。とにかく今はこの本の【悪魔】の項目を読もう。【吸血鬼】の項目がない場合は大体が【悪魔】の項目に混ぜられているのが【吸血鬼】。と言ってもあたしのこの知識は童話での話だけど。

どこか埃っぽい本をめくり【悪魔】の項目へ指を走らせると、予想通りそこには【悪魔族・吸血鬼 種(族)】の文字が。


ここから、あたしは自分でも驚く集中力で吸血鬼のページを読んだ。ちょうど読み終えた頃、夜を告げる金が鳴り響き、あたしは懐中時計を確認し、急いで馬車乗り場へ向かった。もちろん本は確り返した。血の様な濃く深い紅色の瞳と白い肌....ジルと名乗る吸血鬼。馬車の中であたしはペンを走らせ、忘れない様に今日知った事をメモした。








ドメイライトから帰宅後、普通に夕食をし、普通に入浴し、普通に部屋へ戻る。


「.....ヴァンパイア」


ベッドの上から何もない天井を見上げ、無意識に呟かれた種族名。今日知った吸血鬼の情報は大きすぎた。普通に生活している人間には必要のない知識と情報だが、知らない事を知りたい。そう思うこの気持ちは多分、どの種族よりも一番、人間種族が強く濃く持つ感情だろう。知らなくてもいい事がこの世界には沢山ある。知りたいと思う回数よりも、知らなくていい事の方が多い。そのうちの1つをあたしは今日知った気がした。


「あの本に書かれていた事が全て正解じゃない....よね」


自分に言い、少しでも頭の中で濃く広がる霧の様な気持ちを薄くし、今日は眠る事にした。ドメイライトまで行って図書館で色々調べて、自分の予想を越えた疲労があったのか、瞼を閉じるとゆっくり、ふわりとした気持ちがあたしを包み、そのまま遠くなり、眠った。




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