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武具と魔法とモンスターと【VE】  作者: Pucci
-万華鏡-
33/60

◇1




人体───人型種の血液量は男性は8%、女性や子供は7%と言われている。


しかし血液が重要になる種族───悪魔族の吸血鬼ヴァンパイアは人体の15%もを血液が占めている。その15%のうち、12%は血液。残りの3%が悪魔族が持つ血───黒血こっけつと呼ばれる黒い血。悪魔の黒血は他種族の紅い血と変わらない。しかし吸血鬼の黒血だけは別物になる。


黒血1%で血液を12%作る事が出来る。貯血として黒血が存在する。吸血鬼の黒血は本来の血液よりも質が良い。


そして吸血鬼の黒血が吸血鬼以外───例えそれが別の悪魔でも、体内に入り込めば1度確実にその者は死に、低確率で転生する。





あたしの体内に黒血が入り込み、18歳で1度死んだ。

人間としての廻っていた歯車は止まってしまった。


しかし体内に入り込んだ黒血が新たな歯車となり、止まった命を動かした。

人間としての命は万華鏡の様に、あたしの身体なかで姿形、色を変え─────



後天性の吸血鬼ヴァンパイアのカレイドフラワーが残酷なほど綺麗に狂い咲かせた。



あたしの身体が黒血を受け入れた?

運がよかった?




紅い涙を流した悪魔あたしが、あたしの背中なかで笑った。











武具と魔法とモンスターと

Various Episode [VE]

万華鏡 -カーレイド-












貧困も少なく、四大陸で一番安定し、今も成長と繁栄を続ける大きな大陸【ノムー大陸】。

その、ノムー大陸にある、花と人形で有名な街【シガーボニタ】通称【フラワードール】と呼ばれる街。

“ 女性に聞いた今一番住みたい街ランキング ” で毎回1位をとるくらい、可愛くて綺麗な街。


その【シガーボニタ】に小さなお花屋さんがある。そのお花屋さんを営んでいるのが、あたし【マユキ】の両親。

子供の頃から色とりどりの花に包まれて育ったあたしは、将来は両親が育てたお店をあたしがもっと育てたい。そう思っていた。でも、両親はあたしをあまり働かせてくれない。



あたしは生まれつき身体が弱かった。

体力もなく、貧血気味。調子が悪い日は一日中頭痛が重くのしかかる。

最悪、起きる事も出来ずベッドで1日過ごすした事なんて、数えきれない。


どうやら、あたしの身体は血液を作り、巡回させるのが下手っぴらしい。


働いている時に無理をして倒れれば、命に関わるらしく、両親はあたしを心配し、あまり働かせてくれない。

勿論調子が悪い日ばかりではない。調子が良い日、平均的な日もある。そんな時は店に出て働いて、店がお休みの日はどこかへ出掛ける。


今日は調子が良く、両親も午後からならば、働く事を許してくれた。


この街【シガーボニタ】は人形生産量が四大陸で1位、人形のジャンルも、ぬいぐるみ系からドール系まで幅広く、最高品質で生産している。ドールの小物、服なども同じく最高品質。その延長であたし達人間の洋服やエプロンも素敵なモノが多く存在する。

その代わりなのか、騎士や冒険者が使う装備類は全く存在しない街。


あたしのお気に入りのエプロンは黄色でほっぺが赤い可愛いネズミのエプロン。これをつけて店に立てる今が、一番楽しい気持ちになれる瞬間。


「いらっしゃいませー!」



声を張って、笑顔で接客。


奥さんへプレゼントしたい、恋人の誕生日、喧嘩しちゃった友達と仲直りしたい、気分を変えたい。みんな様々な理由で花を求めてくれる。その場その時、その気持ちに合う花を一緒に探すのが楽しい。


どんな事があったのか、そしてプレゼントする側は今どんな気持ちで、相手にどんな気持ちになってもらいたいのか。そんな会話をして、その瞬間に合う花を探す。


色も形も香りも変わらないけど、雰囲気や気分を変える事が出来る。花は万華鏡みたいに綺麗で然り気無く気持ちを変えてくれる。


あたしもこの店に立って、花の万華鏡があたしの気分を色とりどりに染めてくれる今この瞬間が、些細な事かも知れないけど、同時に特別な事なのかも知れないと思えた。





太陽の花が眠り、月の花が開く時間。濃紺色のカーテンに星が散らばった夜空を見上げた。万華鏡の様にキラキラと光る星、光って消え、別の星が輝き、表情を変える夜空。


はまばたきしている間に、あっという間に1日が終わろうとしている。


「ふぅ....ん?」


夜空に1日の疲れと充実感を飛ばしていると、何だか大通りを行き交う人が多い。昼間は気付かなかったが、今日この街はやけに明るく賑やかだ。


「今日、何かあるのかな?」


気になるも、閉店作業へ戻らなきゃ。


「あら?マユキちゃん、お疲れさま」


店に戻ると最後のお客様があたしに声をかけてくれた。


「あ、おばさま!いつもありがとうです!」


常連のおばさまはいつもこの時間に、月の花を買いに来てくれる。この人が来てくれると自然と笑顔が出る。本日最後のお客様。


「マユキちゃん今日は顔色いいみたいね?」


「お気遣いありがとです、今日は調子がいい日です!もう今日が終わっちゃいますけど」


「調子が良くてよかったわね、この後は人形劇でも見にいくのかしら?」


「人形劇?....ですか?」


「あら?知らないの?それなら、今日一番の花を見せてくれたマユキちゃんにプレゼント、素敵な笑顔の花をありがとう、どうぞ」


「え、いや、そんなの、受け取れないですよ」


オロオロとしてしまうあたしの手へ、おばさまは人形劇のチケットを。


「頂き物だけど、わたしはちょっと....。よかったら使って頂戴。それじゃおやすみなさい」


「あ、えっと....、ありがとうございますです!おやすみです!」


最後までニコニコ暖かい笑顔のおばさまを見送り、あたしはチケットを見る。黒のチケットに金文字で【マリオネット ミゼル】と書かれていた。


「えぇ!?」


声を出さずにはいられない。

【マリオネット ミゼル】今一番この街で凄い人形劇。おばさまが「ちょっと....」と言っていた理由はこの人形劇が苦手、という事だったのね。


あたしはこの人形劇が好き。しかし夜しか公演しない上に不定期。まだ1度も生で見た事がない。あたしは急ぎ母親へ報告と、人形劇を見に行ってもいいかの許可をもらいに。


「お母さん!おばさまに人形劇のチケットを貰ったの、行ってきても....いいかな?」


いくら体調がいい日とは言え、夜。1人で出歩くのも危ないし、さすがに許してくれないかな....でも、どうしても行きたい。


母はあたしの顔を見て迷い悩んでいる表情で固まる。すると、


「いいじゃない、今日は顔色もいいし、調子は今年一番じゃないか?気を付けて行っておいで」


父親がニカッと笑い、そう言ってくれた。すると母も、


「そうね、行っておいで」


と、優しく笑って言ってくれた。


「ありがとう!えっと」


「閉店作業はやるから、もう上がりなさい」


「ありがとう、お父さん!」



ドタドタと階段を登り、部屋へ。出掛ける事が許された。これだけでも嬉しいのに、好きな人形劇を見に行ける。それも生で見るのは今日が初めて。ワクワクする気持ちを押さえきれず、自然と笑顔の花が咲く。


「何の服着ていこうかな、カバンは....靴も、あ、靴下はこれがいいかな」


独り言さえ楽しく思える程、あたしの気持ちは開き、咲いていた。





絵本の中をイメージして作られたこの街。夜はオレンジ色の街灯がレンガ造りの道を照らす。カフェテラスでお茶を飲んでいた全然知らない夫妻と眼が合うと、男性はハットを軽く外し軽く一礼、女性は優しく笑って一礼してくれる。あたしは両頬を紅色に染め、あたふたしつつ一礼を返す。


普段外に出られる事があまりなく、出られても昼間で両親が一緒。1人、それも夜にこの街を歩くのも初めて、夫妻に一礼されるのも、人形劇へ1人で行くのも、全てが初めて。


パンプスの踵がコツコツと心地好い足音を奏でていると、音楽団が路上でコンサートをしていた。


「うわぁ....」


自分が住んでいる街なのに、知らない事が沢山ある。

街灯の形がシャボン玉を吹いている女の子の形だったり、道のレンガは色を変えてウサギやネコのシルエットになる様にしてあったり。

通話ボックスのが鳥籠になっていたり、夜に開店するカフェやレストラン、お花屋さんがある事も知らなかった。


音楽団が奏でる優しく落ち着いた音色に心が奪われそうになる。


「.....、人形劇何時からだろ」


この音楽も聞いていたい。チケットを取り出し公演時間を確認し、時計を見ようとするも、時計がない。


「あれ、時計忘れてきちゃった!?」


いつもは懐中時計を首から下げているのに、今日はカバンの中かな?

しかしカバンを確認しても懐中時計は無かった。

街を見渡すも、時計塔はない。


「どうしました?」


キョロキョロし、カバンを漁り、またキョロキョロ、を繰り返していると後ろから優しく男性の声が届いた。


「あ、えっと、時計がですね、」


「時計? 今は18時30分だよ」


親切に時間を教えてくれた男性へお礼を言うため、カバンをあせあけと閉じ振り向くも、男性を見て言葉を失う。

まず身長が高い。スタイルもいい。黒髪に白い肌、整った顔の男性。


「...あっ、ありがとう、です」


「どういたしまして。ん?キミも人形劇へ?」


カバンをめちゃめちゃに漁る最中でも大事に持っていたチケット。それを見た男性が会話を繋いでくれた。


「はい、それで公演時間を見て、今の時間を確認しようとして時計がなくて」


「まだ大丈夫、間に合うよ」


ニッコリ笑ってそう教えてくれた男性。大人っぽい雰囲気だけど笑顔が凄く可愛い。


「....?どうしたの?顔赤いよ?」


「えぁ、その、あたし、暑いなぁーってですね、その、アハハ...ハハ」


「....、そこのカフェで冷たいモノでも飲む?」


「そ、そうしますです!ありがとうです!」



もう何をどうすればいいのかわからない。今夜起こる事の全て初めてで、頭の中で処理も整理も出来ない状態だよ...。

とにかく、カフェへ緊急避難を───


「じゃあ行こうか」


───えぇ?


「公演は20時、今は18時30分だからまだ余裕あるよ。僕も人形劇を見に行くつもりだし、一緒に行こう」



───ホォエー!?




あたしの中にいるあたしが顔を真っ赤にし、崩壊した───様な気がした。





....何をやっているんだ、あたしは。何をやっているんだよ!マユキは!


暑いとか言ったのにホットココアを注文してしちゃったし....。


男性はハーブ系の塩が少し浮かぶトマトジュース。美味しいのかな?



「....飲んでみる?」


「え!?いえ、その」


「ずっと見てたから飲みたいのかなって思って」


恥ずかしい今すぐシャツの中に顔を隠したい。そんな衝動を静める様にあたしはネクタイリボンを触る。

物欲しそうな顔で見ていたのかな?クチとかあけて見てたのかな?恥ずかしい。


「どうぞ」


男性はまたまた笑顔でトマトジュースのグラスをあたしの前へ。


「....ありがとう、です」


味が気になったのは嘘じゃない。少し、ほんのちょっぴりだけ頂く事に。


───....すっごいトマト。


「どう?」


「と、トマトで美味しいです」


「ハハハ、苦手だったかな?」


「いえ、思ったよりトマトジュースで、ビックリ...しただけ、です」



どうした、まゆきち!帰ってこい!と心の中で謎の動きをし自分を取り戻そうとする。自分のキャラがわからなくなる感覚も、男性とこんなに会話したのも、2人でお茶するのも初めてで....デ?

これは、デート!?!?


プシューと頭から蒸気が溢れる様な、とにかく恥ずかしい気持ちに。


「キミも【マリオネット ミゼル】を見に行くんだよね?」


会話終了かと思った所で人形劇の話題を出してくれる男性。この話題なら何とか話せそう。


「はい、えっと....お名前は?」


「あ、まだ言ってなかったね。僕は....ジル。キミは?」


ジル....なんか不思議な名前。


「あたしはマユキです!」


「マユキちゃん、か。可愛い名前だね」



もうやめてください!免疫力皆無のあたしは一回一回頭の中がパフンッ....となっちゃいますです!


とは言えず。とりあえずホットココアへ逃げる。


ホットココアを飲んでほっとする。などバカすぎる事を考え始めるあたし。もう何を話せばいいか、わかんないよおおお....。



「この人形劇って今注目されてるんだよね?僕この街来たの初めてで」


脳内がパレード状態のあたしへ男性、ジルさんは落ち着いた声色で話しかけてくれる。


「そうなんですか?」


どこに住んでるんだろう....。


「うん。妹から人形劇のチケットを貰えて、見に行こうかなってね」


「へぇ....」


妹がいるんだ。いくつなんだろ?この人みたいに美形なのかな?....まずこの人がいくつなんだろ。


「マユキちゃんはこの人形劇はもう何度も?」


「いえ、あたしもこの人形劇を生で見るのは初めてです!」


「そうなんだ、僕と一緒だね」


その笑顔、その笑顔はあたしにとっては猛毒ですよ!

とも言えず。空っぽのマグカップへ手を伸ばすだけではなく、それをクチへ運ぶ珍プレーまでも披露してしまった。


「19時過ぎか、そろそろ会場に向かおう....って、僕人形劇を見るのが初めてだから、どんな会場でやるのかさえ想像出来ないんだけどね」


「あたしが案内します!」


カフェを出てから会場までの道で、会話が途切れない様に色々と質問してくれた。質問内容は全て人形劇の事だったのが少し、ほんのちょっぴり残念だけど、でもあたしも楽しく話せた。


今日、今から見に行く人形劇【マリオネット ミゼル】は人形の悲劇。操師はマリオネットマスターではなくパペットマスターと呼ばれる。

操師が人形に糸を繋ぎ操り、生きている様に魅せ、観客達を世界へ引き込む。

今日の操師は今この街だけではなく、大陸全土でもその名を徐々に広げている天才操師の【マリス】さん。


本来人形劇の人形は大きくても40センチ程。でも、マリスさんが扱う人形は子供くらいのサイズで、まるで本物の子供の様に関節の動きは滑らか、表情も豊か。

人形も操師に似せているのか、髪の色、瞳の色だけではなく、所々が本当に似ている。マリスさん本人の子供ではないか?と思うまでに。

しかしマリスさんに子供はいない。結婚してすぐに夫が死んでしまい、それからマリスさんは人形の操師として活動を始めた。普通の操師なら「世界中の子供達を笑顔にしたい」とか、そんな事を言う。

でもマリスさんはこの時点で違った。笑顔で「喜劇、の数だけ、悲劇、がある。その、悲劇的、な部分に、眼を向ける」と、聞き取りやすくした様に句切り、言った。


その数週間後に、今となってはマリスさんの魅力が最大限に詰まった人形劇【マリオネット ミゼル】が公演され、雑誌記事からでも伝わる様な、美しいほど残酷な悲劇、にあたしは魅了されてしまった。



「ここが会場?」


「はい!マリオネット ミゼル は凄くリアルな大型ドールが動く人形劇なので、大きな会場で公演されるんです!」


「凄くリアルな大型ドール...かぁ」



凄くリアルな───【リリー】という名の大型ドールがサーカスのクラウンよりも奇妙に奇怪に、人間らしく動く人形の悲劇。

それがあたしを含めた多くの人々を魅了する人形劇【マリオネット ミゼル】の魅力の1つ。



「行こうか?凄く楽しみだね」


「はい!凄く楽しみです!」



ずっと見たかった人形劇を見れる喜びからなのか、時計を忘れた事で、時間を忘れさせてくれる様な人に巡り会えた事が理由なのか、わからないけど....あたしの胸はずっと急ぎ足。


万華鏡みたいにキラキラ変わる夜空の下を、今日出会ったばかりのジルさんと、少し早足で歩き、会場へ入った。







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