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武具と魔法とモンスターと【VE】  作者: Pucci
-アカネの華-
32/60

◇5


トクン、トクン。


私を内側から起こしてくれる音。


温かくて、優しくて、茜みたい。


「...おはよう。調子は?」


いつもの様に声が届く。

私はいつの間にか眠っていたのかな?


「おはよう、調子は....え?」


眼を覚まし、まだ眠気が残る眼をこする。

左右の指で同時に。この癖は昔からで半身がアテられたからといって消えない。

毎朝いびつな右指が私を現実に突き落としていた───ハズなのに。


指が、腕が、右半身が治ってる。眼も見えて空気の味がハッキリする。


でも知らない場所にいる。



「調子は悪くないかい?」


声が、茜ではない声が響く。


「...誰?」


「悪い、僕は茜の知り合いさ。キミの事は茜から聞いて助けた。ここは僕や茜が生活しているギルドハウス...和國じゃないよ」



...何を言っているの?

私は死んだの?死んだ後にくる世界が...こんな世界なの?



トクン、トクン。


私の胸を内側から叩く心音。


───落ち着いて。あなたは生きてる。


そう茜に言われた気がした。



「あの、私は...」


「キミの名前は “あかね” 茜がキミにくれたモノの1つだよ」


「名前?そうだ、茜はどこ!?」


「...そこに居るだろ?」


───わたしはここに居るよ。あかね。



トクン、トクンと何度も自分の居場所を教えてくれる。

胸の中で小さく静かに、でもハッキリ強く。


温かく。


「ね、ねぇ全然わからないよ...茜は!?」


「....」



トクン、トクンと鳴る心音だけが強く響いた。


何度も、何度も強く。



ここに居るよ って言う様に。









私はもうダメだったらしい。


ラマパズズの血でモンスター化...災厄は治ったけど侵食が心臓まで進んでいたため、血だけでは助からなかった。


茜は...ラマパズズと戦って酷く怪我をした。

それでもう...自分の命が危険な状態だったのに...。


下半身を失った茜はギルドマスターさんへ、全てをあげるから助けてあげて と。

ギルドマスターさんはその言葉を聞き、私を本当に助けてくれた。


弱りダメになった心臓を茜の心臓に変えて。


私は奪ってしまった...。

茜が今居るべき場所を。

未来を。

命を。

夢を。

名前までもを。



茜を殺したのは私だ。

私が殺したんだ。

奪ったんだ。

茜の全部を。この汚い手で。



───おはよう。調子は?


「!?....」


心音が私へ語りかける様に。


───わたしは死んでないよ?


声が出ない。海に溺れている様に...涙が私を拐っていく。


───キミが、あかねがわたしを覚えていてくれる。誰かがわたしを忘れない限り、わたしはその人の中で生き続けるんだよ。あかねの中でもね。



トクン、トクンと優しくて。

強くて、弱い私を支えてくれる様に。



───あなたの中にわたしを入れてくれてありがとう、あかね。



流れる様に全身へ生きている幸せを、当たり前で忘れていた幸せを送ってくれる。

崩れる私を中から包む様に、優しく全身に。

速くなったり、遅くなったり、私の気持ちと重なる様に...トクン、トクン と。


「...ごめんなさい」


───違うよ?こう言う時はありがとうって言うんだよ。その癖、直さなきゃだね?



...胸一杯になって溢れるまで、心の中まで届く様に、何度も何度も繰り返し言った。


助けてくれた事に。

名前をくれた事に。

命を繋げてくれた事に。

今と未来をくれた事に。

一緒にいてくれる事に。



生きている事に。



「ありがとう」










私が【あかね】になって20年。


茜が私にくれた命が20年経っても、強く優しく、生きている。


「もしもーし、マスター?ラマパズズに無事勝ちましたー!」


『あかねん、独りで挑むのはよせと言っただろ?俺達もすぐ行くからマップデータと詳しい場所をすぐ送って、そこで待ってて』


「りょーかい」



通話を終え、私はフォンを触る。

あの頃はこれが何なのかも知らなかった。


茜がしていたビーストハンター。私も同じビーストハンターになったよ。

モンスターを全部倒す!とか思ってないから安心して。無理は今回だけ...だと思うからさ。



茜が言ってた、同じ思いをする子を、人を増やさない為に....それと、私が死ぬ時笑って死ねる様に今を生きてるよ。


生きる意味とか、目的とか、そんなのだとは思ってない。

ただ私はクタクタになるまで笑って、泣いて、怒って、好きに自由を求めて、生きてる幸せを心から喜んで、楽しもうって思うんだ。


こう思える心。

幸せだと思える心。

自由を選ぶ心。

同じ世界を見れる眼。

茜が見れなかった未来へ連れていける足。

人に触れる事が出きる手。


そして名前。


全部茜がくれたんだよ。



死ぬ時に後悔がない様に、楽しかったって思える様に生きる。



それが私の───求めてる幸せで選んだ自由なんだ。


「....」


私に咲いた命の花。

それは茜が種をくれて、茜が咲かせてくれた花。


左腹部から左胸...心臓まで伸びて咲く華。これは決意の華....全力で生きると決めた時に咲かせた、アカネの華が...


力なく グゥ~...と鳴いた。


「あ...ははは、お腹減っちゃった」



お腹が鳴る。

これも生きてる証拠なんだね。


笑いながら、フォンポーチから紙袋を1つ取り出す。


レアでも高価でもない、どこにでも売っている平凡なパン。

普通で、飾り気のないパン。

その普通が私にとっては綺麗に見える。


「んぉ?この外側の紙、フテクロだ....美食の街アルコルードにお弁当屋さんオープン?へぇーお弁当屋さんって今まで無かったなぁ。アルコルード...ウンディーかぁ。ギルド更新もあるし近々行ってみよーっと」





───この世界には楽しそうな事がまだまだ沢山あります。



一緒に行こうね。

どこまでも。



トクン、トクン、と心音が笑顔アカネの華を───咲かせた気がした。




───。






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