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武具と魔法とモンスターと【VE】  作者: Pucci
-アカネの華-
28/60

◇1



足音を殺し、気配を消し、森を進む影。


肩や腹部、足が露になる防具。

褐色の肌にゴールドブラウンの髪。左耳のピアス。背には古びた大剣。

防具の個有名は【月影・緋】大剣の個有名は【宵闇】どちらも和國のモノ。


一見、大剣を扱える様には見えない褐色肌の女性だが、茶色の瞳を冷静な色で燃やし、木影からA+の獣人型モンスター【ラマパズズ】を睨む。


ライオンと鷲が混ざった様な姿の【ラマパズズ】腹部にある傷痕を確認し、女性は呟く。


「何年探したかな...やっと見つけた。災厄の獣」


不敵な笑みを浮かべ、荒々しく、でも無理は無く、大剣をホルスターから引き抜き地面を強く蹴る。



───やっと見つけた。私に災厄を与えたモンスター。

でもその災厄のおかげで出会えた人もいる...感謝してるよ。

名前の無い私に名前を。

終わりそうだった私に命を。

未来を無くした私に今をくれた人。

その人を殺したお前を。


怨み...や、復讐じゃない。


私みたいな人を、あの人みたいな人を二度と.....同じ事を繰り返させない為に、私はビーストハンターになった。


悪く思わないで。

私もお前を怨んでないから。






戦闘は30分以上続き、A+モンスター【ラマパズズ】は耳を刺す悲鳴を残し、消滅した。

A+は楽な相手ではない。

しかし女性は独りで討伐してみせた。

いや...ラマパズズだけは独りで倒したかった。


予想通り大ダメージを負った女性だが、回復ポーションを飲む前に、左腹部から胸まで入った植物系の刺青を撫で、優しく笑った。


華から伸びる茎蔓には小さな棘。


私とあの人と...同じ名前の華。


名前が無かった私に茜が【あかね】と名前をくれた。


お腹にあるアカネの花は私の決意の華。



私の恩人で憧れで、目標だった茜の花。


あかねの花を立派に咲かせるから、見ていてね。





名前も無くて、命も枯れそうで、今も未来も散りそうだった。

そんな暗闇に咲いた茜の華が、名前をくれた。命を繋げてくれた。今と未来と、夢までくれた。


自分の華を散らせて。




あかねの華と決意の芽が、私に宿るまでのお話。



武具と魔法とモンスターと

Various Episode [VE]

アカネの華 -ルビアン マダー-







私は産まれた場所を知らない。

家族の顔も人数も名前も、自分の名前さえ知らない。




ここがシルキ大陸の和國と呼ばれている事は知っている。

船でこの大陸に流れつき、私は拾われた。拾ってくれた人はサクラと呼ばれる鉱石を掘る仕事をしている人。

───お前はサクラを堀当てる為に和國に来たんだ。

そう言われ続け、ワケもわからずサクラを掘る日々が私の日常。

名前はなく、おい、お前、と呼ばれ、自分の歳もわからない。


唯一わかっている事は私はサクラを掘らなければ殺される事。


同じくらいの歳の人達が集まる小さな家。そこが私の眠る所で、私達を管理する場所。

つるはし で硬い地面を叩いてサクラを探す。

薄い服は与えられる。

クツはない。

手も足も痛くなり、身体が動かない日もある。

それでもサクラを探さなければならない。

耐えきれず逃げ出した人は何処かへ連れられて帰って来なかった。


私達はサクラを掘らなければ殺される。


今日も明日も明後日も。






太陽が昇る前に起き、山へ登る。

小石が足裏を突き刺し、血が出ても止まる事は許されない。

太陽が少し顔を出し、うっすら明るくなる頃、私達はサクラ採掘現場に到着する。

私達が寝泊まりする家以外にも同じ家があり、大人から子供までがサクラ採掘現場に集まる。


するとマスクをした大人が嫌そうな眼で、私達へホコリっぽいパンをくれる。


和國にはお米と呼ばれる作物があり、それが主食と聞いていたる。しかし私達の主食はこのホコリっぽいパン。

1日2回、パンを与えられ、水は自由に飲めるが、その水もホコリっぽい。


度々お腹を壊し苦しむ人もいるが、誰1人としてその人を構わない。

みんな自分が生きる事に精一杯なんだ...私も。


「パンを食ったらすぐにサクラを掘れ!何年経っても1つも掘り当てていないなど...貴様等はサクラを掘り当てなければ生きる意味もないんだ!わかったらすぐに仕事しろ」


男の声が私達の胸を叩く。

そもそもサクラと呼ばれるモノを私は知らない。

コレがサクラだ。と実物...最悪、絵でも見せてもらわなければ掘り当てるも何もない。

しかし無駄口は暴力で潰される。


私達には権利も自由もない。




ここに来て数年、毎日イヤでも聞かされる鉄が石を砕く音。

心地よくもなく、手は痛み、足はボロボロ。

それでも毎日サクラを掘り続ける。


お腹いっぱいゴハンを食べたい。とか、フカフカのお布団で寝たい。とか、そんな贅沢は言わない。

ただ、一度でいいから...綺麗なパンをひとクチだけ食べたい。

サクラを掘り当てたら言ってみよう。例え殴られ蹴られても、言ってみよう。

綺麗なパンをひとクチ、ひと欠片でもいいからください....と。


そんな希望を持ち、毎日自分を保ちサクラを掘る日々。

終わりの見えない現実に崩れたるな。

崩れれば命を無くす。

私は死にたくない。

痛いのはイヤだけど、死ぬのはもっとイヤだ。

いつか必ずここを出てやるんだ。


自分に言い聞かせ、涙を飲んで仕事をする。


それでも、今日もサクラは掘れなかった。

明日も明後日もサクラはいつまで経っても、私達の前には咲いてくれなかった。






数日後の朝、いつもの様に山を登り、作業を始めようとした私達だったが、今日はパンが無い。偉い人も居ない。

あんなパンでも、私達にとっては大切なモノ。それを与えてもらえないのはツラい。


「あの噂は本当だったんだな」


「あぁ...俺達どうなっちまうんだ」


大人達が小声で話し始める。

あの噂なんて私は知らない。

今は...喋っても殴られないんだ。


私は勇気を出して声を出す



「あの、噂って...」


どうしよう。

話しかけてから怖くなる。

殴られたくない。

痛いのは怖い。

両眼を強く閉じ、グッと全身に力を入れていると、大人の優しい声が届く。


「殴ったりしないよ」


私はその声を聞き、恐る恐るまぶたをあげた。


「噂っていうのは...魅狐ミコ族が俺達人間に怒ってるらしいんだ。サクラを採掘を止めろって魅狐族が言ってるのに止めない」


「魅狐...って?」


知らない事だらけだった。

魅狐族の存在も、サクラ採掘がその魅狐族にとってはイケナイ事なのも、私は何も知らない。


「魅狐族っていうのは化け狐だな。人間と変わらない姿だけど怒ったら耳や尻尾が出てくる。火や水を操る化け物だ。その化け物と戦える様に、俺達はサクラを掘ってる」


「サクラを掘り当てれば次は魅狐狩りをさせられるだろうな...結局死ぬんだ。みんな」


化け物?死ぬ?

イヤだ。私は死にたくない。


この会話から数十分後、偉い人が来て今日のサクラ採掘はお休みに。

家へ戻ると全員分のパンが用意されていた。

私達はいつものホコリっぽいパンを食べながら魅狐の事を呟いた。


「魅狐は化け物じゃない。和國を大切にしてくれるお狐様なんだ。それなのに...大人は魅狐を嫌う」


名前があるのか無いのかわからない子が魅狐の事を話し始めた。

私は何も知らないので黙って聞く。


魅狐は悪い種族じゃない。

人間は魅狐を嫌っている。

サクラを掘ったら魅狐を殺して、和國を人間のモノにする。

魅狐は和國を大切にしてくれているのに、人間は和國を大切にしない。


だから今凄く仲が悪い。




「魅狐って...名前あるのかな?」


私がそう呟くとみんな笑って言う。


「名前はあるさ、名前は自由に生きていい人が持てるモノ。わたし達には自由なんて無いから名前もないんだ」


笑って...笑って自由が無いなんて私には言えない。

今の現実に満足しているの?

自由ってなに?気にならないの?

なんで...ヘラヘラ笑っていられるの?


「魅狐なんてどうでもいいさ。採掘が休みなんだ、明日からまた毎日サクラ採掘なんだし、今日は好きなだけ眠ろう」


1人が言うとみんなうなずき、薄くて汚れている布団で眠る。


好きなだけ眠れる。


これが、私の初めての自由だった。






雨が肌を叩く中、私達は今日も山を登る。

何度か足を滑らせるも、昨日たっぷり眠ったせいか、雨の中でも不思議と身体が軽い。


採掘現場に到着したが今日も偉い人は居なかった。


「休みなら言ってほしいな...」


「雨の中歩いてきたのにパンの1つも貰えない」


ぶつぶつと言葉を溢し、偉い人を待つも、現れない。

雨は徐々に強くなり、雷まで響く。


「おいおい、今の雷...朱色だったぞ?」


「朱色の雷と言えば...魅狐のお狐様じゃねぇのか!?」


「お狐様がお怒りじゃ...ワシらは何も知りませぬ、何も知りませぬ」



大人達が焦り怯え、老人は地面に膝をつけ朱色の雷が走る空へ両手を合わせる。


何が何だか全然わからない。

でも、大人達がここまで怯えると言う事はただ事ではない。


不安を煽る様に雨は激しさを増し、突然地面が揺れる。

私達は驚き声をあげると、声を潰す様に低い音が...近付いてくる。


「土砂崩れだ!」


1人が山の頂上付近を指差し叫ぶ。地面を揺らし、山を滑る土砂が私達のいる採掘現場へ向かってくる。


「とにかく逃げろ!」


その言葉に全員がつるはしを捨て、必死に足を動かした。もちろん私も同じ様に。


しかし土砂は地面を揺らし、雨は足を奪う。


「キャっ...」


私の足は雨と振動に負け、転倒。足裏からは血が流れ、立つ事もできない。

私は必死に手を伸ばした。


「触るな!死ぬなら1人で死んでくれ!」


助けてほしくて手を伸ばしたのに、私の手は弾かれた。


死にたくないのに。

立たせてほしいだけなのに。



そんな私を狙う様に土砂は一気に流れ、山を降った。





「....」


鼻先に落ちる水滴。


「....生きてた」


土砂に呑み込まれた後の記憶はない。でも、私は生きている。

ゆっくり身体を起こし、全身を確認するも目立った傷は無く心から安心する。


自分の無事を確認し終え、辺りを見渡すと、そこは知らない森の中。

空は晴れ、昨日...かわからないが、あの天気はどこにも無い。


「大変だ、採掘現場へ急がないと」


青空...昇りきった太陽を見て急ぎ立ち上がる。

遅刻してしまった。

早く採掘現場へ向かわなければ殴られる。


こんな状況でもそう思った自分へ少し呆れるも、身体は勝手に動く。

見た事もない森を必死に走る。一番大きな山を目指し、ただ必死に。

枝を踏み、足を痛めても、走った。


それでも森は終わらない。

右を見ても左を見ても、ずっと続く森。

自分の勘を頼りにただがむしゃらに走っていると...私は見た事もない生物と遭遇してしてしまった。


大きな身体と唸る声。

私を見る眼は黄色。


「っ、なに...」


初めて見る生物に私は喉から声が漏れる。


逃げなきゃ、食べられちゃう。

逃げなきゃ、食べられちゃう。

逃げろ、動け、逃げろ。


身体へ命令を送り、強張る足を全力で動かし、来た道を戻る。


直後、私の上を影が過ぎ、眼の前にあの生物が。


鳥の様な翼と足。

身体と顔は犬や猫に似ている。


その生物は私を黙って睨み、翼を扇ぎ、黒い風を飛ばした。

身体の右側に黒い風を受けると突然走った痛み。

耐える事が出来ず、その場で倒れると生物はそのまま翼を広げ、何処かへ飛び去った。



───顔が、腕が、お腹が、足が、右側が痛い。


「....ッ、いッ、、」


溢れそうな声を我慢し、右眼をうっすら開き自分の身体を見る。


「え、え?ヤダ、私の手...足も、え」


自分の知っている自分の手足....毎日山を登った足、つるはしを持った手は異様な姿に変わっていた。


右胸から指先まで黒く染まり、肘からは太い棘の様な何かが突き出ている。指先は針の様に。


足は所々が石の様な何かに被われ、堅く。


───顔は、私の顔は!?


辺りを見渡し水溜まりを発見し、急ぎ除き込むと。



「!?....」



右眼は黄色に。

歯は右側だけ動物の様に尖り、頭には太い角が。


───なにこの姿、私は人間だよ?人間なのに...なんで。



左眼から涙が溢れるも、右眼からは何も出ない。

ドクドクと脈打つ様に痛む右半身。

黒い手、硬い足。


自分はどうなってしまうのか?


そんな不安が頭の中をぐるぐる回ってると、背後で枝が割れる音が。



「...!?なんだ...お前は」



白い肌を持つ大人の女性が私を見て、化け物を見る眼で呟き、背から大きな剣を抜き襲いかかってくる。


反射的に右腕を前に出し、剣から自分を守ろうとするも、普通に考えて腕では剣を受け止められない。しかし私の腕は鉄の様な音を響かせ、剣を受け止めた。


「硬いな。半身人間...見た事ないモンスターだ」


女性は低く呟き、大きな剣を軽々と振った。


右側に当たると剣は火花を散らし、左側を掠めると簡単に血が出る。


「...私は、私はモンスターじゃない!人間だ...やめて、痛いのはイヤ!死にたくない!」


必死に叫んだ声は女性に届き、剣の攻撃は止んだ。


怯え泣く私を見て、女性は何も言えずただ固まる。


「お願い、やめて...殺さないで。私はモンスターじゃない、人間なの。だから殺さないで...サクラは掘るから、休まないから、だから殺さないでください...お願いします」











これが、私と茜の初めての出会い。







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