◆18
何とかワタシは自分の命を繋げる事に成功した。
アスランと言う男性が無駄に回復アイテムや治療アイテムを持っていて、セツカ様も城で医術の本を読んでいたからこそ、応急措置は成功した。
その後、魔女エミリオは何も無かった様に目覚め、ギルドメンバーを殺した事に反省する様子もない言動に...
ワタシは心の底から腹を立てていた。
自分は知らない。
そんな態度でアスランやセツカ様と会話するエミリオ。
ワタシは本当に死のうと思っていた。
でも、今死ぬ時じゃない。
人の命を奪って、何も知りませんと言わんばかりの態度の魔女。
ワタシはコイツを殺してからでなければ、死ねない。
コイツはダメだ。
変わった人間だと思って勝手に期待したのはワタシ。
勝手に助けたのもワタシ。
だから、ワタシが処理しなければダメだ。
こんなヤツを野放し出来ない。
フィリグリーよりも危険な毒でしかない。
ワタシは殺意を燃やした。
仲間を殺されたから?
それもある。
でも、何より...この魔女は人の命を数字程度にしか思っていない。
ワタシはそれを、許せない。
アスラン達とどんな会話をしていたのか、ハッキリ覚えていないが、アスランとセツカ様の2人は何処かへ旅立った。
残った魔女はワタシを見て言う。
「ごめんね、わたしを殺したいでしょ?その腕って治せないかな?それか腕の変わりになるモノないかな?あるなら一緒に探しに行こう。そして見つけて、その後でわたしを殺してもいいよ!」
「!??」
この魔女は何を考えているかサッパリ解らない。
一緒に腕を治す?
その後殺していい?
ついさっき、この世界を色々見て知りたい。と自分のクチで言ったハズ...それなのにワタシの腕を治す手伝いをしてその後は殺されてもいい?
バカにも程がある。
人をバカにするのもいい加減にしろ。
「...わたしが両手奪って、仲間の命も奪って...命に対して深く考えた事なかったなぁー...そりゃ歩いてる人を殺すのはダメ!って思うけど、何かやられたり本気でムカついたら殺してもいいじゃん。とか思ってたんだろね。そんなヤツ魔女でも人間でも生きる価値がないと思う。でも自分で死ぬとなると怖いし...それなら知ってる人や怨んでる人に殺された方いいなって」
なんだコイツ。
勝手にペラペラと...何が本心なんだ?
「死んじゃった人間は生き返らない。でも無くなった腕なら戻せそうじゃない?わたしも手伝うからさ。そんで今度こそわたしを殺してよ...ワタポ」
「...え」
「なんでわったの?」
黙り続けていたワタシのクチから出た言葉は短く、薄い言葉だった。
バレていた?いつから?
もうフードの意味がない。
ワタシはフードを外し、魔女を見詰め言葉を待った。
「なぜって、色々ヒントはあったよ。ワタポの使っていた剣の鱗粉とこのアジトで見た鱗粉は色も爆発も同じだったし、コーヒーの匂いするし。わたしコーヒー苦手だから、すぐわかった」
ワタシが...ヒロがマカオンだとわかっていても、考えなしに行動したのか?
ダメだ。全然この魔女が理解できない。
「....。ワタシの腕を治す方法はある。正確には腕の変わりを付ける方法。でも使える腕が付いたら本当に殺すよ?」
理解できないなら考えるのもやめる。今ワタシはこの魔女の本心が見たい。
本当に死にたいならここで軽い返事をしてくるだろう。
死ぬ気になっている生き物はその瞬間から死んでいるのと変わらないから。
「何を考えているか解らないし、信用できない。冒険者として生きたくないの?色々とこの世界を知りたくないの?」
さぁ魔女エミリオ。
お前の本心はなんだ?
お前は人の命を数字としてしか見ない魔女か?
「生きたいし知りたいと思う、けど解らないんだよ!自分が何をするべきなのか!」
ダメだ。この魔女はワタシ達、人間が噂する魔女でもない。本当にわからない。
「それで逃げる様に死のうと思ったの!?」
人の事は言えない...ワタシも自分の気持ちがわからない。
「うるさいなぁー」
声を出したのは魔女ではなく、ソファーで眠っていたりょうだった。
魔女が暴れた中で奇跡的に生き残っていたりょう。
感情的に話していたせいか、声が無意識に大きくなって、起こしてしまったらしい。
不機嫌な表情で起き上がり眼鏡を装備。りょうは魔女を見て表情が、不機嫌から怒りに変わり言う。
「アンタ...、え?リーダー!?なんで..いや、あの」
ワタシよりも魔女を先に見たせいか、怒りでワタシの存在に気付くのが遅れる。
「何でワタシがここに居るかわかるよね?」
「...みんなは!?」
ワタシの質問に答えなかった。
魔結晶を作っていた事は確定、か。
「ワタシに何も言わず勝手な事をして村1つ消したんでしょ?みんなは責任をとったの」
「責任って...」
否定もしない。
これもワタシの責任だ。
りょうはまだ子供。何色にも簡単に染まる子供を...ワタシは巻き込んだ。
何色にも染まる。だからまだ、まだりょうはやり直せる。
「騎士団に自首して罰を受け入れるか、命に対して命で罪を少しでも償うか。好きな方選んで」
魔女が...エミちゃがいなかったとしても、多分似た様な結果になっていただろう。
ギルドを解散させる。ギルドの罪をワタシが背負う。そんな答えを出した時点で結果は似た様なものになっていた。
せめてりょうとだけは、ギルドマスターとして話をしたい。
今となってはりょうしか生きていないけど。
「命に対して命でって...まさか」
「そう、みんな死んだよ。ワタシが殺した。同じ様に償うつもりなら殺してあげる」
「なんでみんなを殺したんだよ!?気に入らないから!?命令を聞かないから!?そんなの...皇都の奴等と同じじゃないか!」
「アナタ達がした人工魔結晶も同じ事でしょ!」
エミちゃはクチを挟まなかった。殺したのはエミちゃだけど、ワタシの気持ちを理解してくれたのか、黙っていてくたれ。
お願い、りょう。
あなたはまだ変われる。
まだどうとでもなれる。
だから、お願い。
あなたは壊れないで。
「.....自首するよ。死んだみんなと同じ所に行きたいけど、怨みを消せないまま死にたくない。次は必ず王や団長をボクが」
「そうだね、そうしなさい。後10分もすればこの辺りに騎士達が来る。その騎士に全てを話して受け入れなさいね」
そういいワタシは外へ出た。
何もできなくて、何も変えれなくて、全部無くした現実に、涙が溢れる。
誰にも見られたくなくて。
もう現実が嫌で、辛くて。
これから何処へ向かって、何をすればいいのかもわならない。
それなのに、ワタシの足は動いていた。
涙にズレる世界をワタシはただ、歩いていた。
自分が悪いのに、自分に力が無かっただけなのに、誰のせいにも出来なくて、逃げれなくて、でも受け入れられなくて。
───生き物は自分のメモリを越えた量の何かを抱えたままでは進めない。
1つ1つ、1歩1歩確実に進みなさい。
突然、そんな声が聞こえた気がした。
レイラ隊長があの日、ワタシへ最後に言った言葉...。
一歩一歩確実に...。
「多分ワタシはもう騎士団に戻れない。あの子が捕まってギルドの事を話して...アジトの中も騎士が調べると思うの。そうしたら写真も見つかる。ワタシは隊長から犯罪者になると思う...港で貴族を殺したのもギルドの責任になると思うし、エミちゃもセツカ様も無実だね」
後ろを歩いていたエミちゃへワタシは言った。
日が沈み始める空。
悔やんで、泣いて、崩れても、明日は来る。
「ワタシはみんなの罪を背負うよ。どう償えばいいか何てわからないけど...捨てないで最後まで。だから、エミちゃも罪を背負って最後まで捨てずに生きよう」
捨てるのは簡単だ。
でも...捨てちゃイケナイものがある。
みんなが繋いでくれた命。
一度は捨てようと思った命でも、きっとどこかで価値を出す。
捨てる事、逃げる事、終わらせる事ばかり考えていたワタシは...ヒロとマカオンは死んだんだ。
迷って、泣いて、醜くても、生きるんだ。
そうしなきゃ...死んでいったみんなに...こんな命を繋いでくれたみんなに...。
「背負い続けるって、どうすればいいか解らないや。笑っちゃいけない?楽しいって思っちゃいけない?」
エミちゃは魔女だ。
でもワタシが...ワタシ達が知る魔女とは全く違う。
真面目に人間の話を聞いて、悩んで...人間臭い魔女だ。
「ワタシもハッキリとわからないけど...同じ事を繰り返さない様に生きる事だと思う」
そう。同じ事を繰り返さない様に生きるんだ。
ワタシだけじゃない。
世界に、同じ事を繰り返させない様に。
ヒロやマカオンみたいな人間をもう産み出さない様に、死ぬ気で生きるんだ。
ワタシはこれから───
「人工魔結晶を作ろうとしている人を止めて、危険な人工魔結晶をこの世界から無くす。エミちゃは命について考えて、命を少しでも守れる様に救える様に生きる事だと思う」
魔女が───泣いた。
初めて出会った魔女はワタシに色々と教えてくれた。
両腕を対価として払っても足りないくらい、大切な事を教えてくれた。
そんな魔女が、人間の言葉に涙を流して...ただ泣いていた。
少しでも、救われた様に、綺麗な涙を。
変わらないんだ。
魔女とか人間とか、種族なんてちっぽけで、ワタシの存在なんてこの世界からみれば、ちっぽけな存在なんだ。
自分を大きく見せようとすれば歩けなくなる。
ヒロやマカオンの様に、歩けなくなって壊れちゃう。
最後の最後の、最後まで、ヒロとマカオンは心をブレさせて、不確かで曖昧な心に眼を向けず、全部背負って、全部失った。
何か失う事で人は強くなれるなら、ワタシは強くなる。
失ったからじゃない。
失う痛みを知ったから、もう失わない様に、強く。
「...ワタポ、ありがとう」
それに...今度は1人じゃない。
「やっとワタポって呼んでくれたね、エミちゃ」
ヒロとマカオンは...
沢山泣いた。
沢山悔やんだ。
沢山失った。
今度は1人の人間として...
沢山泣いて笑って。
沢山悔しんで喜んで。
沢山守って守られて。
生きていこう。
白とか黒じゃなく、自分の色で。
だってワタシは蝶じゃなくて、
人間だから。
「騎士団長。お迎えに来ましたよ」
「...もぉ、レイラ隊長やめてくださいよ」
「はは、それじゃお言葉に甘えて、ワタポ。魅狐が迎えに来たぞ。ここは私に任せて、早く行ってあげなさい」
「はい、お願いします」
エミちゃ。
ワタシね、ドメイライト騎士団の団長になったんだよ。レイラ隊長とヒガシン、他の騎士達も一緒なんだ。
エミちゃがいなくなってから、世界は変わったんだ。
それはエミちゃのおかげだよ?
それなのに、みんなエミちゃを知らない...少し悲しいけど、ワタシ達だけが知ってるんだって思えば嬉しい気持ちになるのは...ヘンかな?
プンちゃはシルキ大陸でお狐様って呼ばれててね。
偉いんだよ。
ひぃちゃは外の妖精種をまとめてる妖精の女王様。
セッカはウンディー大陸とノムー大陸の女王様なんだよ!凄いよね。2つの大陸をまとめるなんて。
アスランはイフリー大陸の王様になって、アスラン王とか言ってあの笑いを響かせてるけど...ギャンブル好きだからゆうせーさんや烈風さんが大変そう。
ゆりぽよ達、猫人族はシケットで外界の人達とのパイプ役になってくれてる。
そうそう、世界樹から外界へ移動できるんだよ。
あとね、シケットは今みんなが楽しめる様に遊園地やライブ会場まであって、ユカさんがライブしたりしてる。
魔女達も変わってね。
今、地界にも魔結晶で動く機関車があるんだ!馬車業をしていた人達が仕切ってる。
魔女達が色々教えてくれて、ビビさんやララさんが作ってるんだ。
悪魔達とはまだ上手くいってないけど、天使達が間に入ってくれてる。
きっと上手くいくよ。
「ワタポー!迎えにきたよ!」
「ごめんねプンちゃ!...あれ?ひぃちゃは?」
「ひぃちゃん達は.....ちょっとワタポ!それボクじゃなくて看板だよ!」
「あれ?ごめんね、雰囲気似てたから」
「ボクの雰囲気は看板に似てるんだ...ちょっと嫌だなぁ。ひぃちゃん達は先にセントラルへ向かったよ、ボク達も急ごう!」
「りょうかい。クゥ!セントラルまでお願い、プンちゃは速いけど負けちゃダメだよ?」
他にも沢山の人がエミちゃのおかげで今笑っていられるんだよ。
そっちはどうですか?
寒くないですか?
もし何かあったら、いつでも呼んでください。
一番に助けにいくからね。
「ありがとう、エミちゃ」
ブレて揺れて、不確かで曖昧な心。
それでも、必死に答えを探してる。
つまずいて失って、迷っても。
それが人間で、人間らしい事なんだ。
でも自分の色はきっとはじめから、一色なんだ。
きっと。




