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武具と魔法とモンスターと【VE】  作者: Pucci
-白黒の騎士-
19/60

◆10




四大陸で一番の規模、繁栄を続ける大陸 ノムー。

現在の “平和” はノムー大陸の首都...、皇都ドメイライトが創ったと言っても過言ではない。


小さな争いはまだ度々起こるが、戦争と言える争いは数十年前のドメイライトとデザリア ─── ノムーとイフリーの戦争以来、起こっていない。


あの戦争でワタシが住んでいた村が、地図から消えた。

地図だけではない。人々の記憶からも薄れ、やがて消えるだろう。


以前のワタシならば、ここまで考えると熱くドロリとした感情が湧き上がり、ドメイライトを憎み睨んでいただろう。しかし最近、その怒りや憎しみといった熱が弱くなった気がする。


消えたワケじゃない。

ドメイライトは村の住民達に避難どころか、戦争の事さえ話さなかったんだ。

家族を、友人を、平凡と平和を、ドメイライトは一瞬で奪った。後に生き残った者達さえも石ころに変え、奪い続けた。


ワタシの中で一生消える事のない事実で、現実。


それでも最近、変わってしまった自分が存在する。これも現実だ。


何が変わったのか、わからない。でも確かに何かが変わっている。


人─────って、なんだろう?


命─────って、なんだろう?


今まで考えもしなかった、事をワタシはふとした瞬間に考えてしまう。


当たり前の様に人がいて、人には当たり前の様に命が宿っている。


人を殺す事は罪、命を奪う事は罪。


なら、人は罪人だ。

命を奪い、その命を自分の命にプラスし、生きている。


でも、人は罪人ではない。

命を奪うのではなく、命を頂いて生きているから。


その違いはなんだ?


...言葉遊びだ。

いくら考え、いくら解いても、答えなんて人には見えない。



なら、なら人ではない、人間ではない種族にはどう見えるのか。



ワタシが人間である以上、その答えはワタシには見えない。



「....朝、か」



朝靄に揺れる太陽の光がどこか非現実的で。


当たり前の様に朝が来て、当たり前の様に1日が始まる。





ドメイライト騎士団 隊長ヒロ。


ギルド ペレイデスモルフォ マスター マカオン。



白にもなれず、黒にもなれず。


これがワタシにとって当たり前で、ワタシの現実。









ポルアー村の周辺でキャンプをしていたワタシ達、ドメイライト騎士団。

朝起きて、各々が頭のスイッチを入れ、今日から本格的に任務が始まる。


巨大ムカデ型モンスター センチペンドラ。

巨大蜘蛛型モンスター ビネガロ。

この2体のモンスターを討伐する任務。どちらかのモンスターから、魔結晶を入手した場合、直ちに持ち帰る事。


騎士団長...フィリグリーから直接下された任務なので、奴の駒になった様な気分になるが仕事は仕事。


魔結晶を何の為に求めているのか不明だが、そう簡単にドロップするモノではない。


2体のモンスターを討伐し、すぐドメイライトへ帰還したいが...昨日軽く探してみたがモンスターの姿どころか、存在していた形跡さえ見つける事は出来なかった。

そのうち見つかるだろう。と軽く考えていたが、昨夜フォンに届いた騎士団長からのメッセージにはデザリア軍がこの大陸、この周辺に潜伏している事と同じ魔結晶を狙っている事が記入されていた。


ダラダラやっている時間が無くなったワケだ。


デザリアの目的は魔結晶を手に入れ、兵の強化。

その先には必ずドメイライトがある。力を手に入れドメイライトへ戦争を仕掛けるつもりか...最近デザリアの動きが過激になっているのはデザリア王の命令なのか、デザリア軍の判断なのかは不明。

しかしデザリア王は出きる限り犠牲が出ない道を選ぶ人間だったハズ...いや、人は変わる。


「隊長、全員準備できたっす」


個性的な髪型を揺らし、小隊長のヒガシンが背後から声を響かせた。ワタシはデザリア王へ笑う様に鼻を鳴らし、振り向く。


「それじゃあみんな、行こう」


デザリアが何を企み、何をしようとしているのか、ワタシには関係ない。


今はヒロとして、騎士業をするだけだ。


「ポルアー村とドメイライト、2つのチームに分けてターゲットを探します。ポルアー村付近はワタシ、ドメイライト付近はヒガシン。ドメイライト付近と言っても、街まで戻る必要はないならね」


隊を分け、ワタシは素朴な村の周辺を捜索する。

ウィカムルで出会った不思議なフェンリル、名前は鳴き声からクゥと名付け、あの日からいつも一緒にいる。


テイマーの才能は全くないワタシだったが、クゥがワタシを選んでくれたらしく、形はどうあれ、周りから見ればフェンリルをワタシがテイムしている事になる。

街や村にはモンスター避けの結界マテリアが設置されているが、テイムしたモンスターはどういう理屈なのか、入る事が出きる。

クゥは何の魔術か、自らの姿を小型犬の様に小さくし、行動していた。


「クゥ、お願い」


ワタシがそう言うと、クゥは本来の大きさに自身を戻し、ワタシを背に乗せ捜索を始める。




不思議だ。


フェンリルを、クゥの家族や仲間を殺そうとしたワタシを、クゥはなぜ憎まないのか。

孤島で初めて会った時も噛まれはしたものの、殺すつもりではないとすぐ理解できた。

孤島で瀕死状態になったワタシを救ってくれたのもクゥ。


何を考えているのか全く読めない。

でも、ワタシを、人間を殺すつもりではない事はわかる。

この子と出会い、一緒に生活してもう5年。

レイラ隊を...ワタシが見捨てて5年の月日が溶ける様に過ぎ去っていた。



あの孤島でワタシの中で何かが間違いなく変わった。


自分が生きていた事、騎士の仲間が死んだ事、ワタシに新たな仲間が出来た事。


その全てが昔以上にワタシの胸に残った。


騎士の仲間。

こんな事を思う日が来るなんて、自分で予想もしていなかった。

今ワタシの隊のメンバーも、大切な仲間。

ギルドのメンバーも大切な仲間。


ワタシは...何をしているのだ?


白にもなり、黒にもなり、自分の好きな時に好きな方へ身を寄せているだけではないか?


最近自分の存在が、見えなくなっている気がする。



「生息していた形跡も発見できませんね、隊長。...隊長?」


「ん?あぁ、そうだね」



騎士の言葉でワタシの心は現実に戻る。

今はとにかくモンスターを発見して討伐する事を優先しよう。


捜索はこの後も続いたがヒントさえ発見出来なかった。

雲が流れ昼を過ぎた頃、ワタシのフォンが鳴り響く。


届いたメッセージを確認すると、送信者は───フィリグリー。

ドメイライト騎士団 団長からのメッセージ。内容を確認し、ワタシは 別の隊にやらせろよ。と思ってしまった。

枯れた森に潜んでいたデザリア軍と密会していた人物を発見次第拘束せよ。特徴は青髪。との内容なスカスカのメッセージ。


特徴が青髪だけ...それも本当にデザリアと密会していたのかも怪しい。


敵国と関わりを持つ人物が近くにいるとなれば、上層部の騎士を放つのが上作。

虫駆除を任された下級騎士隊にこんな大仕事を任せる時点で...まだハッキリと裏が取れていないという事か。


間違っていたらワタシ達が頭を下げろ。上層部に頭を下げさせるな。と言った所か。


「隊長!」


フィリグリーや上の石頭達に若干のイライラを覚えた時、隊の騎士がマズそうな顔でワタシに駆け寄り、報告を。


「小隊長が、その...隊からはぐれて、フォンも持たずにどこかへ...」


「はい?」


「小隊長が連絡手段を失い、迷子です...」



なんでこう...なんでこうも面倒な事が続くんだ。

仮にも小隊長が、なんで迷子に。それもフォンを置いて...。

モンスターも見つからない。

妙な疑いがかけられた青髪の人物を発見次第拘束...。


「...なにやってるの!あのバカ!」


「す、すぐに小隊長を探します!」


「んや、全員キャンプまで戻ります。ヒガシンも自分の身くらい自分で守るでしょ。これ以上面倒な事になる前に、一旦全員集合」


騎士達にそう命じキャンプへ戻る最中、落ち着いたワタシは思った。


初めてかもしれない。

感情をそのまま出したのは。


レイラ隊の時も、ギルドにいる時もどこか冷めている...どこか違う世界に心を置いて、接していた。


でも、クゥと出会って、この隊の隊長になって、自分の気持ちをそのまま出す事を初めて...。


変わっていく事で自分の中にある気持ちが消えてしまわないか、それが怖かった。


でも変わっていく事で、自分の中にある本当の気持ちが少し見えた気がした。



ワタシは今の平和が、ドメイライトが憎んでいたが、それは違う。


ワタシが憎んでいる、許せない人物は...村のみんなを魔結晶に変えた、人の命を自分達の道具に変えた、フィリグリーだ。



ワタシがしたいのは同じ思いを、ワタシが受けた苦しみや悲しみを今生きる者達に与える事じゃない。


みんなの仇であるフィリグリーをこの手で殺したい。


でも、一番やらなきゃいけない事は...もう二度と繰り返さない事だ。


人を餌の様に使い、人を殺す魔結晶を作らせる行為を、もう二度と繰り返させてはいけない。


その為にワタシはどうするべきか。





...ギルドのみんなに今度話してみよう。








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