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武具と魔法とモンスターと【VE】  作者: Pucci
-白黒の騎士-
14/60

◇5





これから自分はどう生きていくのだろうか。


残酷なまでに進む時間に対して少なすぎる現実の変化。

消費する時間に対して変化する現実の見返りは少ない。


この平和を壊して、やり返す為にワタシは騎士団に入った。


同じ事が自分にも起こる覚悟は、勿論してるでしょ?


あの日ワタシがネフィラに言った言葉は...ワタシ自身に言い聞かせる言葉でもあったのか...後付けの理由でしかないけど、この言葉が今もワタシの中に残っている。



多くの犠牲者が...違う。何の報告もなく意味も解らず犠牲者にされた者達がいて今の平和が完成している。

しかしこれは表面上だけの平和だ。誰かを犠牲にして得た平和に何の意味がある?本当の平和とはなにか?

そんな事を求めてるんじゃない。ワタシは今のこの平和が気に入らない。だから否定する。その為に平和を壊す。それがワタシの否定。


目的を達成した後は何をするのか...それも見えない。

それでも、ワタシはこの平和を否定する。








この手で。














「ヒロ」


ドメイライト騎士団本部の中庭にある小さなベンチ。

花の上を揺れる蝶を眺めていたワタシへ1人の騎士が声をかける。ワタシは素早くベンチから腰を上げ、左胸に、握った右手を当て挨拶する。


「お疲れさまです。レイラ隊長」


ドメイライト騎士団 上層部隊隊長、レイラ。

上層部の隊長と言う事は騎士団長フィリグリーなら直接任務が下される上級騎士。そして...


「他の者がいない場ではもっと楽にしていいわよ。小隊長さん」


そしてワタシの所属する隊の隊長でもある。


トワルダレニェが全員逮捕され...ネフィラが失踪してもう2週間が経過する。


トワルダレニェ逮捕の際、その力を存分に発揮し、別の隊にも関わらず全力で手助けしたのが新人騎士ヒロ。


ネフィラを逃がしたも、ネフィラと互角に戦ったと噂されているのがペレイデスモルフォのマスター マカオン。


世間ではそう言われている。

どっちもワタシだ。しかし名前が...記号が違うだけでその評価は面白い様に違う。


騎士ヒロは国を脅かす不安要素を速やかに排除し、人々を安心させた。


マスターマカオンは不安要素の核心であるネフィラを逃がし、人々を不安にさせた。



そう噂されているが、どうでもいい。名前は存在を変える、自分自身を切り替える為の記号で、それ以上の意味を持たない。

世間がどう言おうとワタシはワタシの目的の為に進む。その時たまたま、ネフィラ達蜘蛛が邪魔をしてきたから消しただけ。ただ、それだけだ。


しかし世間は違った。

ワタシ、騎士ヒロを評価し、期待し、新人ではあり得ない、上層部隊の小隊長 へと昇格させた。


順を追えば、騎士、小隊長、隊長、上層部騎士、上層部小隊長、上層部隊長...と進むのだが、ワタシは騎士から上層部小隊長へと昇格した。

狙っても不可能に近い出世に、同期の騎士や先輩騎士は良く思わない者の方が多い。が、ワタシは見てる世界が違う。


どんな手段でもいい、フィリグリーに近付き奴を殺して、騎士団を消して、ペレイデスモルフォの存在を、犠牲になった者の存在を世界に伝える。


平和の中にある小さな火種の存在を。


その為にワタシは騎士に居る。全ては復讐する為に、やり返す為にワタシが生きている。


同期だろうと先輩だろうと、邪魔しなければ無視するし、邪魔する楊なら消す。

簡単な話だ。


「明日の任務の話だが...今大丈夫か?」


レイラ隊長はそう言った。

今大丈夫か? これは今時間あるか?ではなく、今ヒロは休日だが仕事の話をして大丈夫か?と言う意味だ。


「大丈夫です、どうなさいましたか?」


呆れる。

騎士団に入団してもう何年経過したのか...この言葉使いが態度が、染み付いている。

グッと奥歯を噛み、呆れを消し去りレイラ隊長を見る。

するとキッと眉を寄せ、明日ワタシ達レイラ隊が行う任務の話を始める。

蜘蛛の件で先伸ばしになっていた任務、孤島探索。


「孤島の探索任務。一見簡単そうな任務だがS越えのモンスターが生息しているのではないかと囁かれている。ウンディー大陸に近いノムーの孤島...。マイナスの冷気が漂う氷島ウィカルム」



氷島ウィカルム。

ノムー大陸にあるが、ウンディー大陸に一番近い場所にある孤島。ウンディー大陸もノムー大陸の様に大きく様々な気候がある。しかしウンディー大陸には年中マイナスのエリアも存在する。そのエリアに近い為、ノムーの孤島も年中冷気を漂わせている。


その孤島を調査するのが明日の任務。

もしS越えのモンスターを発見した場合はその場で速やかに討伐しなければならないのだが、ワタシはここに引っ掛かる。


「あの、レイラ隊長。騎士団長はそのモンスターを発見次第、討伐する様にワタシにも命を。しかし...S越えのモンスターを討伐する際はレイドで挑むべきではないのかと...」


いくら上層部隊だとしてもS越えモンスターをたった1隊で討伐するのは難しい。不可能ではないが、孤島に生息している事から1体単独だはなく群れで生活している確率が高い。群れのリーダーがSランクだったとしともその下にはA+.A.B+と高ランクモンスターが待ち構えているだろう。


そんな群れをたった1隊で討伐するのは不可能に近い。



「私もそう言った。すると団長はこう返した...そのモンスターの体内には高ランクの魔結晶が眠っている確率がある。ウンディーの冒険者達がその存在に気付く前に速やかに討伐し、魔結晶を入手せよ。と」



魔結晶。

モンスターの体内で生まれる結晶で、武具の素材や加工でマテリアにも生まれ変わるレアアイテム。


Sクラスのモンスターから入手する魔結晶の力は強力で、騎士だけではなく世界中の者が求める程のモノだ。

ウンディーの冒険者がこの情報を知れば必ず求めるだろう。そうなる前に強い力は騎士団が独占すると言うわけか。


そして1隊のみで行わせる事から、もし誰かがその魔結晶を欲しても、その者を処分し魔結晶を奪えばいいだけ。

その場合、任務中の事故死とすれば家族にも説明がつく。


「しかしまだモンスターが生息しているとは限らない、噂は噂で終わる事の方が多い。気を抜くのはイケナイ事だが、余裕を持って明日の任務へ取り組もうではないか。期待しているぞ小隊長」


貴族出身のレイラだが、貴族が纏う偉そうな感じはなく、部下を大事に思ういい隊長。

いくつか結婚の話も来ているらしいが今は騎士を続けたい。と全て断っているとか...それでも求婚を求める男達は減らない。


「では私はこれで、時間をとらせてしまって申し訳ない」


そう言って隊長は部下のワタシへ深く頭を下げ中庭を去った。


レイラ。

立場や地位よりも、人を大切にする人間。

その性格からか、上層部の一部や貴族の馬鹿共はレイラを嫌っている。

しかし騎士団長は差別無く人々を助けるレイラを評価している。


どの世界を見ても綺麗なモノが否定され汚され、汚いモノが範囲を広げ汚染する。



騎士団長フィリグリー。

実際、奴も裏では何を企んでいるのか解らない。

この組織、騎士団で一番信用される立場に居ながら一番信用してはイケナイ人間がフィリグリーだとワタシは思っている。



ギルドは今、装備を整える為の資金稼ぎをしている為、ワタシは騎士団の情報収集が仕事だ。


一緒に資金稼ぎをすれば早いのだが、情報がなければ襲撃する事もできない。


今の自分はどのレベルで、上層部の実力にどこまで通じるのか。


明日の任務、モンスターが生息していた場合、ワタシは手を抜くつもりはない。


上層部の連中にワタシの実力を見せ、次は上層部隊隊長の座を狙う。











雪が舞う白銀の孤島。

吹き抜ける風は冷たく肌を叩き、吐く息は白く煙る。

朝だというのに分厚い雲が空を覆う。


「ここがウィカルム...」


言葉はすぐに冷やされ白く消える。防寒の為に装備しているマントの肩にすぐ雪がたまる程、空高くからふわりふわりと落ちる雪。

隊長レイラは肩を払ってフォンを操作する。


「島の中心に洞窟がある。そこを拠点に調査を始めます」


各々が頷き足跡のない道を進む。キシキシと心地良い音と踏んだ時に伝わる雪の感覚。産まれて初めての雪は綺麗に見える。

景色を楽しむには降る雪が少々多く見通しが悪い。しかしやはり綺麗だ。もう少し雪が弱まり夜が来れば月明かりに揺れる雪の銀世界は想像を越える風景になるだろう。などと考えているとビリビリと肌を刺す視線を感じ、ワタシは素早くその先を見た。


「....あれは」


溢した声に全員が足を止め同じ方向...細く痩せた木々が並び、雪のコートを着ている様な森林を見る。

木々の隙間に輝く青い光と四足歩行するシルエット。視界を阻む様に降る雪に眼を細め、ただそのシルエットを見つめるも、ハッキリした姿を見る事が出来ない。

大小様々なサイズの四足歩行する動物...一番大きい影は人間4.5人をその背に乗せても余裕あるだろうか、それ程までに大きい。

もう少し近くでその姿を確認したい。そう誰もが思った時、それを止める様に風が吹き荒れ雪が舞い吹雪く。視界がホワイトアウトし、影の主達はそこに居た痕跡を残す様に、雪に紛れ足跡も姿も消した。


「吹雪くと数メートル先も見えなくなるわ、急ぎます」


隊長はペースをあげワタシ達は孤島の中心にある洞窟へ進む。


気付けば雪は膝下まで積もり気温も更に低下した頃、氷を纏う洞窟へ到着。


中へ進むと風が消え少しばかり暖かい...と言ってもマイナスには変わり無いが、風を遮断しただけでここまで変化するとは驚いた。

洞窟内に雪はあるものの気にする量でもなく、ここを拠点に出来ると睨んだレイラ隊長の経験値にも驚かされる。


幸いこの洞窟にモンスターの気配はなく、中心部は広く休むには充分すぎる。


「ここで休みましょう」


と、隊長が言うとワタシを含めた全員が背負っていたリュックを下ろし、ブーツに装着していた鉄の専用追加装備を外す。軽くなる身体を伸ばし手頃な岩に腰かける。


隊長とこの隊に所属して長い騎士が数名集まり何かを話している。重要な事ならば後で言われるだろう。

ワタシはそのまま座り高い天井を見上げる。



ワタシは何をやっているんだ。

こんな所まで来て、何になる?

結果を出し、出世しフィリグリーへ簡単に近付ける地位を求め、今必死になっている。

それはワタシ自身がそう望み、ワタシの目的を達成させる為だと理解している。

しかし、なんだ...今までの自分になかった妙な気持ちが今揺れている。


平和の為に、他人の平和の為に命の危険を犯してまでこの孤島へ来た事実と、この先にある目的達成の為にこの孤島へ来た事実。


かつて無い気持ち...白と黒の狭間で揺れる自分。



「どうだった?小隊長さん。人生初の雪は」



マントに身を包み小さくなりワタシへ声をかけてきたのはレイラ隊の騎士、本名は知らないがみんな、ネコさん、ネコちゃん、と呼ぶ女性騎士。



「ネコさん...そうだね、歩くだけでも疲れたかな?」


「お疲れ、はい」


と、言い渡されたのは湯気を上げるマグカップ。

お礼を言い受け取るとその温度がワタシに溶ける。


普段気にもしていないコーヒーとその温度は両手から全身へと優しく温かく広がり、ひとクチ飲めばワタシの中へゆっくり溶け込む。

両手に伝わる当たり前の温度と当たり前の感覚が、遠い未来...、無くなるのではないか。と根拠のない不安が胸を冷たく撫でた。



「みんな、休んでいる所申し訳ないが少しいいか?」


レイラ隊長が声を響かせ、全員の眼が集まった事を確認し、再び言葉を洞窟に。


「先程見た影は動物ではなく、モンスターだ。細かい情報はないが一応データを全員のフォンへ送る」


直後フォンが小さく震え鳴る。

コーヒーの温度を得てスムーズに動く指先でフォンを撫で、送られてきたモンスターデータをタップ、モンスター図鑑に追加される。

そのままモンスター図鑑を開く。


白銀の毛を持つ四足歩行のオオカミが表示された。


[フェンリル]

白銀の毛を持つ巨大オオカミの希少種。その他の詳細は不明。



「この孤島には...そのフェンリルが生息している。希少種で絶滅種の...S2モンスター」


耳を疑った。

S2...モンスターランクの最高ランク。


「モンスターランクのキャップがS2までしかないのでフェンリルは最高ランクのS2に別けられているが...S2モンスターのランクは “最低S2” だと思ってほしい」


隊長の言葉を理解するまでに数秒かかった。

最低S2...モンスターランクの “最高” がS2ではないのか?とワタシは思ったが、この言葉の意味は違う。


S2ランクに分類されるモンスターの実力は最弱でS2、強いモンスターの場合は文字通り計り知れない。と言う事だ。


そのS2モンスターフェンリルがあの時、あの場だけで5.6体。

絶滅種なので先程見た数が全てなのかも知れない。

それと同時に希少種なので確認されていないだけで絶滅種と言われているのかも知れない。


警戒心が強く姿を見せないだけで希少種に認定され、希少種から派生し絶滅種に認定されただけだった場合が一番危ない。


「各々、思う事はあるだろう。しかし私達の任務はこの瞬間から調査ではなく、討伐任務へと変わった。今日はここでこのまま休み、明日から本格的に討伐任務を始める」



ワタシ達の任務は孤島調査からモンスター討伐へと変わった。


討伐対象はS2ランクのフェンリル。任務内容はフェンリル討伐と魔結晶の回収。



自分の実力がS2モンスターに通じるのか...明日からの任務でハッキリする。


フェンリルをモンスター図鑑から永遠に消し、魔結晶を回収し、必ず上層部隊 隊長の席を貰う。



それがこの孤島へ来たワタシの目的であり通過点。



ワタシの目的はフィリグリーを殺し、騎士を黙らせ、今の平和を...いや違う。



もっと単純に簡単に。




ワタシの目的は...復讐だ。







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