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馬鹿共の行進 3

さあ、それでは、はじめよう。

翌朝、進級してから初登校した。が、クラスか分からなかったのでまず職員室に行く。がらりと中に入ると小田巻が驚いたように顔を上げて、口を戦慄かせてーーー

「お前、どこ行ってたああああ!」

「ごめんなさい」

頭を下げる。わしわしと頭を下げ強く掻き混ぜられた。

「お前、お前お前おまえっ! 警察行くとこだったんだぞ、お前の家連絡しても誰もお前の居場所知らないし、捜索願いも出さないとか言うし! 昔からああなのか? ならなんでもっと早く相談しないんだ! 林場と綾瀬がもう大丈夫だから警察には絶対に言うなって言うから信じるしかなかったけど、というか綾瀬泣いたのか目が赤かったぞ! 女泣かせるなんて男じゃないだろ!」

「普通はそうかも。でも俺今全力で泣かせたい女がいるからもうへいき」

半ばパニックになっていた小田巻がまじまじとこちらを見た。

「すみませんでした。明日からはちゃんと来ます。…だからまた勉強教えて、俺大学進学するから」

「…っんだよ…当たり前だろ…お前、勉強だけはきちっとやんだから…」

なんだか涙声になった小田巻を見てふは、と笑う。

「…お前髪染めたんだな」

「うん。似合ってるでしょ。俺の大好きなひともこっちの方がいいって言ってくれた」

「そうだな、お前にはこっちがいいよ」




クラスを言い渡されて(小田巻が担任だった)新しい教科書を全部もらい教室まで歩いて行く。

席はまだ出席番号順なのだろう。自分の席を探すよりも早く、女子の一番最初の列に座っているひとに向かって教科書を抱えたまま歩いて行く。

一歩、二歩、三歩。ーーー立ち止まる。

本を読んでいた綾瀬が顔を上げた。赤く染まった目、少しだけ腫れた瞼。

眼鏡の奥のそんな目が、自分を見る。

「遅い」

「まだチャイム鳴ってないだろ」

「そういう意味じゃない」

「うん。ごめん」

「ちゃんと謝ったの」

「ごめんなさいとは言ってない。けど泣き喚いて縋り付いて好きだって言って一緒に歩いて家に帰った。これからの態度で謝っていく」

「そう」

「あとさ」

綾瀬を見る。楽しくてうれしくて、ふは、と笑った。

「俺綾瀬のことすげえ好きだ。お前のためなら俺いくらでも必死になれるよ。ありがとう」

綾瀬が目を見開いた。驚きと、そのあと染まったよろこびと少しの悲しさと。

それでも最後まで残ったのは、呆れたような笑顔だった。

「…普通、自分のこと好きな相手にそうやって言うかなあ」

「だって本当のことだから」

「本当だからたちが悪い…このひとたらし」

「たらしたいひとが難易度高過ぎて通用しないんだけどね」

「長期戦覚悟でしょ」

「当然」

笑う。手をのばした先に、自分の視線の先にいつもいる凛と背筋をのばし歩く小さな体躯の彼女。

「形振り構わずなんでもするって決めたんだ。どれだけかかっても絶対おとす」

「そうしてください。あとさっきの言葉林場くんにも言ってあげた方がいいと思う。…ほら、来た」

「っ、蕪木! お前、お前本当よかっ」

「うるせえ黙れ林場おはよう」

「なにこの残酷な男」




昼休み、三人で教室の片隅で固まり弁当箱を開けた。初登校だと朝から張り切って作ってくれた弁当の中身はからあげにポテトのベーコン巻きにと様々なおかずが詰まっている。朝から楽しそうにぱたぱたと動き回る彼女を見てこちらは朝から動悸が凄まじかった。なにこのかわいいひと。

「御影さんよろこんでるみたいだなー。卵焼き一個くれ」

「死ね」

「だからさ…」

「だけどこれはみんなで分けるように言われた。はい綾瀬いちご」

「ありがとう」

「『みんなで』だよな? 『みんな』だよな?」

いきなり登校してきたクラスメイトが元同じクラス同士とはいえ今まであまり縁のなかったメンバーと集まって昼食を食べているのが不思議らしく、周りの生徒はちらちらとこちらに視線を送っていた。飄々とそれを受け流す綾瀬と、そもそも気付いていない林場と。対照的な二人だった。

彼女のことを思った。彼女と三木をはじめとする自分はまだ会ったことのない愛すべきクラスメイトのことを。

廊下で全員で大爆笑していたという彼らのことを。

今ならなんとなく分かる、きっと裏では何かがあったのだろう。何かがあってーーーそれをひっくり返すために、全員が全員で打ち消しにかかったのだろう。御影は何も言わなかったが、そんな気がした。

彼女たちのかけがえのない時間となった高校時代を、今自分が歩いている。ねじ曲がってて明るくもない、けれど今は愛おしくてたまらない時間を。

「今日一度戻ってくる」

すんなりと言葉が出た。二人が箸を置き、こちらを見つめる。

「御影さんは知ってるのか?」

「今日行くとは言ってない。けど、俺だって自分から動かなきゃ。俺のことなんだから」

「そう」

綾瀬がうなずく。

「一発殴っておいて」

「了解。じゃあ俺の分も入れて二発」

「んじゃあよく分かんないけど俺も」

「お前なあ…了解」

「…! 蕪木が…デレた…!」

「っせえ黙れ死ね」


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