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どちらかが馬鹿 9


翌日、流石に休むわけにもいかず、おまけに御影にも体調はもう大丈夫だよねと言われ行かないわけにはいかなくなった。

流石にもうばれているーーーと言うよりそもそも最初からばれているような気も若干していた。あれだけ全力疾走して見せたのだからそれは致し方がないかもしれない。

後ろ髪を引かれつつ登校する。少しの緊張感と共に下駄箱を開けた。

封筒は一通ーーー中身を確認すると、やはり『ウラギリモノ』の文字。

そこでおかしなことに気付いた。昨日自分は休んだのに封筒は一通か入っていない。

ということはこの手紙の差し出し人は自分が昨日講習を休んだということを知っているのではないだろうか。

朝早く来ても犯人に遭遇しなかったことからいって犯人は講習の後自分が下校したあとに下駄箱に投函しているーーーいや、昨日下駄箱を開ければ自分が来ていないことは分かるのか。けれど、丸きり関係のない部活動に来ている誰かだとも考え難い。やはり講習メンバーか。

…だとしても、正直林場と綾瀬以外の人間以外顔と名前も一致しない。それに講習メンバーはどちらかというと男の方が多かった。

「……」

歯噛みする。本当に、女なのだろうか。

「蕪木くん…?」

細くて弱い声が自分を呼んだ。振り返ると、一日ぶりに会う綾瀬がおずおずとこちらを見ていた。

あっちから声をかけられるとは思っていなかったので内心驚きつつも「おはよう」とあいさつすると、綾瀬は「お、おはようございます」と少しどもり気味に返した。名目上一緒に昼食を摂っているが、ほとんど林場が喋って自分がたまに返すだけで、基本綾瀬はずっと黙っている。楽しんでいるかどうかいまいちよく分からなかった。単に流れで断り切れなくなっただけだろう。

ーーー講習メンバーじゃないのか

先程自分が抱いた疑惑がぽっかりと浮かんで、思わず足を止めた。

「…蕪木くん?」

不思議そうな綾瀬の声。眼鏡の奥の、少し困ったような色を含んだ大人しそうな表情。

「綾瀬…」

最寄駅はどこ? 聞こうとしてーーー少し前の昼食の時の会話が蘇る。

林場が、自分の弁当を指差して、問う。

ーーー御影さんの手作り?

ーーーそう

自分の返した、答え。

手作り弁当。御影さん。…よくある名字ではない。自分を少し着けてみれば、簡単に家に辿り着くだろう。表札だって出ている。

一軒家、来客を除いて頻繁に出入りする人間はたった二人。自分とーーー『御影さん』

「俺とーーーどこかで会ったこと、ある?」

口を突いたのは

自分でも想定外の言葉。

瞬間、綾瀬の表情が消えた。気遣わしげな空気がすうっとその体に飲み込まれるようにして消え、眼鏡の奥の瞳が僅かに細められる。

「さあ」

短い答え。

微塵も揺るがない。

ふ、と踵を返して歩き出す綾瀬の背中を呆然と見送りながら、どうして気付かなかったと中で詰る。

考えたくなかったのか。

思いたくなかったのか。

いるじゃないか。自分によく似たーーー自分でも見紛うほどお互いがお互いに似ているあいつが。

血肉を分けたーーーあいつが。


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