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どこまでも馬鹿な男 1

嬌声。艶めかしい喘ぎ声。名前を呼ぶ声。

不快。

「っ、んんっ、ぁっ、そう、いい子、いい子、ねっ……」

自分の体の下で女が喘いでいた。若さから衰えを知る―――けれど、まだまだオンナである体。慣れてはいるが親しんではいないその体に、手を滑らせる。

「いい子はこんなことしないでしょ」

囁いて一気に動くと、女は甲高い嬌声を上げて、びくびくと身震いしてから、くたりと脱力した。それを見届けてからふうと息を吐く。

今日の仕事は、これでおしまい。




「んー、勿体無いわよねえ、あなた」

外したアクセサリーを慣れた手つきで付けながら、服を着た女が言った。年齢は、なんだっけ、教えてはくれないが多分三十五、六。世間でいうオバサンには程遠い外見をした女。少しきつめの顔立ちだが十分美人で、そして自分にたっぷりと金をかけている。旦那はどこかのお偉いさんで、生活費をたんまり稼いでくれるけれど忙しくてほとんど帰ってこなくて、お互い愛はないんだってさ。

「じゃあ何で結婚したの?」

前に聞いたことがある。そうしたら女は、片眉を上げてはあ? という顔をして笑った。その女がよくする表情だった。

「愛がなくても結婚することが必要な時もあるのよ?」

そんなことを聞いてくるなんて、ガキねえ、とでも続きそうな。実際ガキなのでふうん、とその時は返したが。

「で、ナミさん。俺今日ここに泊まっていーわけ」

ぐるん、と寝返りを打って聞くと、身支度を終えた女はもう自分にあまり興味がないように適当に何度かうなずいた。

「いつも通りで大丈夫よ。部屋代はもう払ってるから、朝になったらチェックアウトして。モーニングも付けてるから」

「ふーん、ありがと」

「……あなたのそういうところを見ると、育ちがよさそうに見えるのよねえ」

「は?」

いきなり話が飛んだので思わず上体を起こした。興味がもうなさげだった女が、しげしげと自分の顔を眺めている。

「育ちがいいんだったら、こんなことしてないでしょ。さっさと金置いて行きなよ、旦那の母親が朝一で来るんでしょ」

「あー、そうね、なんで旦那より義母と過ごす時間の方が長いのかしら」

ほんと、やになっちゃう。心底嫌そうに溜息をついてから、女は財布から最上額の紙片を五枚ベッドサイドに置き、ちゃちゃっと手を振った。

「じゃあまたね、ともり。そのきれいな顔に傷なんか付けないでよね」

「……心がけるよ」

ぼすり、と枕に頬を付ける。

チェックアウトまではまだ時間がある。ゆっくり眠って、それからまた、はじめよう。




援助交際というものが女だけのものじゃないと、知ってはいたが実感をしたのは丁度一年前のこと。

行きつけの美容室から出てすぐ、女に声をかけられた時のことだ。

「ねえ、お小遣い稼ぎ、したくない?」

酷く安っぽい低俗な言葉だったのにねっとりと聞こえなかったのは、女の笑みがからからに乾いていたからだろうか。

その笑顔にぞわりと鳥肌が立ったが、それを巧妙に隠して薄い笑顔を返して答えてみせる。

「いーよ」

この女、金になる。

瞬時に計算して答えを叩き出した結果だった。





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