どこまでも馬鹿な男 12
翌日、目が覚めた時きちんとベッドの中にいた。目覚め的には三度目の目覚めだったが、何度体験しても悪いものじゃない。毛のやわらかい毛布に、ふわふわとしているがしっかり中身の詰まった羽毛布団。パイル地のシーツも心地よかった。
自分の体温がこもるあたたかいそれにいつまでもくるまっていたかったが、とりあえずそうはいかない。いや、御影のことだから特に何も言わないだろうけれど。
のろのろと起き上がり大きく欠伸をした。ベッドから出てのびをして、だいぶ体が軽くなっていることに気付く。ぐっと熱が下がったらしい。
昨夜と同じようにリビングに出ると、御影がキッチンで調理しているところだった。こちらに気付いたようで肩越しに振り返る。
「あ。おはよう、ともりくん」
「……どうも」
おはように対しての返答ではなかったが、御影は全く気にせず少しだけ微笑んだ。窓から差し込む朝日に、昨日泣いた証としてほんのりと腫れた目が穏やかに光る。
「熱、また測ってもらえるかな? あと洗面所にタオルあるから、顔とか洗っちゃって。ご飯よそっとくね」
最早「ご飯食べれる?」と確認されない。そりゃあれだけ食えばなあと思いながらユーターンし大人しく顔を洗う。顔色はよかった。熱を測ると、三十六度九分。微熱、というところだろうか。
リビングに戻ると、御影がテーブルに朝食を並べていた。米、味噌汁、アジの開き、卵焼き、おひたし、漬物。……おひたしが好きなのかもしれない。やたら量が多かった。
「熱はどうだった?」
「三十六度九分」
「微熱だね。下がってよかった……」
曖昧にうなずき、配膳された席に座る。御影も席に着き、両手を合わせて、
「いただきます」
「……いただき、ます」
いただきます、なんて。
もう何年も言っていない。言うような状況ではなかった。……まるで、はじめて聞いたように耳に残る言葉。
アジの身をほぐし、ふんわりとした白米と一緒に食べる。……うまい。どれも。
昨夜よりも落ち着いて食べることが出来たが、それでもおかわりはして、なおかつ御影より食べ終わるのが早かった。
御影が食べ終わるのを待ち、食後のお茶まで辿り着いた辺りでようやく「あのさ」と言葉を紡ぐ。
「はっきりさせておきたいんだけど」
「うん」
のんびりとあたたかいお茶を飲みながら御影がこちらを見た。
「昨日、言ってたけど。……ここにしばらくいていいわけ」
「うん」
あっさりと返される。何故か頭痛がはじまるのを感じながら、昨夜のことを思い出した。




