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レベル7 生徒会長鋼原鈴音はポニーテール 〜コミュニケーション能力編4〜

木漏れ日が注ぐ中、今俺は女子と肩を並んで下校している。そしてこいつは青田鳥子ではない。

生徒会長かつ、色白美人、鋼腹鈴音である。ちなみに今日出会ったばっかだ。

彼女は綺麗なブロンドの髪を一本に縛り上げている。ロシアのクオーターであるらしい彼女の横顔は良く出来た人形のようだった。

しかし彼女は恥ずかしがっているのか、何も話しかけてこない。困ったなぁ。


なぜこうなったのか。この経緯を語るためには今日の朝まで時間を戻さなければならないだろう。



朝学校に着いた時、俺の体力は疲弊していた。その理由は簡単である。連日行われた青田鳥子のコミュニケーション能力のレベル上げがそうさせたからである。

「どうやら、コミュニケーション能力向上に向けて頑張っているらしいですね」

後ろから声をかけてくるやつは一日しかいない。光源氏だ。


「なぜ。しっている。あれは俺と鳥子だけの秘密のはずだが」

彼は髪を書き上げて言った。

「何、その青田さんからお聞きしたんですよ。コータローを手伝ってあげて欲しいとね」

あいつ。またいらんことを。

「しかし、お前たちは面識があったのか」

「面識もなにも、彼女は隣のクラスの学級委員ではないですか。そして私も学級委員。少なからずの面識はありますよ」

そういい放った後、彼は陰りをさした。

「彼女は、僕のことをランボルギーニと呼ぶんです。恥ずかしいことです。そしてつい先日手伝うよう呼ばれた次第です」


ふむふむ。こいつも色々苦労してるんだな。

流石の光源氏も青田鳥子のあつかいはむずかしいのだろう。


「そこでお手伝いしようと思いまして」

「どんなことをだ?」

「言うなれば貴方は何故か達観していて、そんなにクラスに馴染んではいないと思うのですが…」

ごもっともな意見だ。

「そこで、どうです?今日、ご一緒に昼食などいかがですか」

俺はいつも1人でメシを食う。というのも、この学校では弁当派が多く、学食派は少数だ。そして俺は友達が少ない。それも相まってやもえず学食に行っているのだ。


たしかにこのアイデンティティーが崩れるのは問題かもしれない。しかしながら、ここで青田鳥子のレベル上げの成果を出すのも一興かもしれない。


「そうだな。お前と食べるか。中学以来か」

光源氏は少し驚いたようだが、そうですかと言い、にこやかに笑って見せた。



気だるい数学の授業や、昔の動きとは比べものにならないほど低下した体育の授業をこなしたのちに昼休みになった。

購買により指定された場所である屋上に向かう。


そこには光源氏と2人の女子がいた。しかし1人顔馴染みがいる。青田鳥子だ。


「おそいわよコータロー」

鳥子はぞんざいに言い放った。

「まあまあ。そう言わずに、では紹介させていただきますね。ひとりめは隣人ということもあり知ってると思いますが青田鳥子さん」

鳥子は首を形だけ下げた。


「そして続きまして、こちらは生徒会長の鋼原鈴音さん」

ブロンドの髪をポニーテールに縛り上げた水色の瞳がこちらを向いた。


か、かわいい。

たしかに青田鳥子もかわいいが、その表現よりも美しいが正しい気がするのだが、鋼原鈴音は、かわいい以外に表現できない。

風邪になびき甘いシャンプーの香りがした。


「はぁ……あんたたちが紹介したいっていった人ってこいつなの?こんな平凡な顔して何の特徴もないやつじゃん!」


いわゆるギャルのような言葉遣いをしている。可憐だと思っていた幻想は無残に打ち破られた。


「だいたい、私はこの学校で上位の人たちとご飯を食べるだけでいいのに、なんでこんな奴もくるのよ」

「まあまあ。落ち着いてください鋼原さん。ほらコータローさん自己紹介ですよ!」

光源氏がなんとか仲裁している。


しかしだ。彼女の言い分はよくわかる。美くしい花達の中に急に雑草が入ったようなものだ。なるほど、今までの俺なら面倒くさくなって帰っていただろうが今は違う。

ここでレベル上げの成果を出すんだ!


「どうもこんにちは」

鳥子の言葉を思い出す。まずは笑顔。これは必要不可欠だ。

ニコッとまずは鋼原に微笑みかけた。

「光源氏と同じクラスの山村光太郎だ」

二つ目にハッキリと話す。それだけで明るく見えるらしい。


そして最後他人の好意を操る。

「はじめましてだよね。鋼原。時々見かけたことがあるけど、そのポニーテールよく似合うじゃないか」


そう、これこそ俺が青田鳥子から伝授された最強必殺技、「開口一番他人誉め殺し」である。

どうだ…?


「は!?……むむ、きもちわる!」

鋼原鈴音はすぐさま立ち上がった。


「な、なんであんたに私のチャームポイント褒められなければならないのよ!!」

そう言い放ち直ぐ様走り出し屋上にある倉庫の陰に隠れた。


「な、なあ鳥子、俺今何かミスったか?」

彼女は神妙な顔つきである。


「おい、聞いてるか?」

「え、ああそうね。問題ないわよ。少し気になるから行ってくるわね」

そうして彼女は鋼原を追って倉庫の方に走っていった。


どうやら倉庫裏で秘密会議的な物が行われているようだ。残ったのは俺と幼なじみだけだ。


「少し驚きました」

光源氏が言う。

「何をだ?しかしあんなに嫌わなくてもいいだろうに」

「嫌われてるかはどうかは未だ分かりませんが、コータローがきちんと自己紹介をして人と話す姿を見るのは久しぶりでしたから。今日だって駄目元で誘ってみたんですよ」


ふん!俺はこいつにそんななめられてたのか。しかし、おれのレベル上げは意味なかったのだろうか。最初の敵、鋼原鈴音は倒せなかったのだろうか。



すると、倉庫の裏から青田鳥子がゲッソリして戻ってきた。


はい。と彼女は俺に手紙を手渡してきた。

なんだ急にと思いつつも文面に目を落とす。

何々……!?


内容は簡潔だった。

綺麗な文字で書いてある。要するに今日一緒に帰りませんか。という文面だった。


「よく自体がつかめないのだがどういう事だ?」


鋼原鈴音はね。と青田鳥子は口を開いた。


もともと中学の同級生で仲が良いらしい。

それで、帰国子女ということでクラスに馴染めなかった彼女と友達になったらしい。


それで彼女の特徴はというとチョロインというヤツらしい。

すなわち褒められたり、少しでもドキッとしたことがあるとすぐ惚れてしまうらしいのだ。そしてそういう時はトゲトゲしたあの性格から、モジモジした奥手の正確になってしまうらしい。


鳥子曰く、さっきの必殺技「開口一番他人誉め殺し」がクリティカルヒットし、私の良さをこんなに簡単に気づいてくれるなんて運命だわ等思っているのではと。


「そんな。馬鹿なことあるか!?自己紹介だぞ?自己紹介だけでこんなことになるのは精々、こいつ光源氏ぐらいだ!」


「僕は自己紹介する前に告白されたこともありますよ」彼はスッと言った。

「うるさいわ!バカやろ!何がどうなってるんだよぉ」


「とりあえず、いい機会だから私たち以外と話しなさいよ。今日、悔しいけど一緒に帰ってあげなさい」


確かに、好意を抱かせることには成功したわけだが。悔しい?何に悔しいのだろうか。

けれどもこのチャンスを無駄にはしたくない。せっかくこのコミュニケーションの舞台が整ったのだから。


俺は勢いよく立つと倉庫の前までずかずかとあるいた。



そして裏手を覗くと小さく体育座りした鋼原がいた。


「なによ……恥ずかしいからあっち行ってよ」

彼女は顔を膝に埋めてしまった。


「鋼原。今日一緒に帰るか」

すると彼女はごそごそと頭を上げて恥ずかしそうにはにかんだ。




そして今おれは夕暮れの三鷹公園を彼女と歩いている。鋼原も幸い帰宅ルートが同じ方面

のようだ。

お互い何も話さず無言の時が続く。

そういえば、鳥子は出だしの掴み方は教えてくれたがその後を教えてくれてない。

それで途方に暮れているのである。

あまり現実世界の女性とあまり交流がなかったことを恨む。


「あのさ」

彼女はおもむろに口を開いた。


「お、なんだ?」

「明日から一緒にご飯食べない?あの屋上でみんなと」

「おう。い、いいぞ」

少しどもってしまった。


「本当にっ!?」

彼女は弾けるように笑顔を見せた。

「で、でも勘違いしないことね。友達がいないって皆から聞いたわけで、同情してさそってるのよ!!」

「そうか。そうか。ありがとう」


ふふふっと彼女は笑うと、帰り道はこっちだからと言い放ち別れた。

「また、明日ね!」


彼女は夕暮れの中、金の髪を揺らしながら駆けて行った。


鋼原鈴音か……話を聞く限りよく分からないやつだが、悪い奴でもなさそうだ。

これも青田鳥子のおかげだろう。

いつもはダラダラと気だるく現実世界に憂うつしながら帰っていたこの道を、俺は謎の達成感と共に歩いている。




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