レベル6 勇者の背中 〜コミュニケーション能力編3〜
あの時ブルーバードと呼ばれていた私は魔王の弱点である雷属性である最大の魔法「ボルテックス」を習得するためにデンガル地方の大聖堂に籠ることになった。
もともと異世界に来たという事で、一般人であった私の能力は補正され強い魔力をへていた。確かにこれだけでも充分戦えたのだが、念には念をということでこのような事態になった。
そこで私は単身、他の仲間と離れいわゆる修行をしたのだ。
しかし万事は上手くいかなかった。
その大聖堂に魔王軍が送り込んだドラゴンが現れたのだ。
私だけでも一体なら余裕で倒せ、二体でもスキさえ掴めれば勝てるのだけれど、今回は勝手が違った。
ドラゴンの大群が空を覆ったのだ。その数は200を超えた。確実に勇者一行の1人を消すために行なったものだろうと私は予想できた。
龍の火炎は大聖堂をすぐさま焼き払われ、残った僧侶達と闘ったが防戦一方で負けは濃厚だった。
負けといっても降参といって生かしてもらえるわけはない。
直ちに殺されるか、または捕虜として交渉に使われるか、または蹂躙され晒されるかのどれかだ。
チート染みたとまで言われた魔力も尽き始め火炎が周りを取り囲んだ時
「ああ。ここまでなのかしら」
と本当に思った。
龍が私の目の前まできて大口を開け、その喉奥がメラメラと燃えていた。
駄目か、と小さく呟いたとき。
大きな雷が竜を打った。真っ黒になった龍は断末魔をあげることなく、一瞬で絶命したようであった。
間違いない、この魔法は私が習得しようとした「ボルテックス」である。
そしてそれを使えるのは、彼だけだ。
「生きてるか!?ブルーバード!!!!」
ペガサスに乗り天から舞い降りたのは山村光太郎だった。そして他の仲間達も来たようだ。
「ええ。なんとかね。遅いわよ」
ペガサスから降り私の近くまで彼は来た。
白い装束を身にまとった、最強の勇者コータロー。彼が来たからには安心だ。
「あいつらを倒して…」
私はそこで意識を失った。
次の記憶はペガサスに乗り王宮に帰るところだった。わたしはコウタローの背中にいる。
夕日が差し込む中、生きていたと実感した。
「よう気付いたか?」
「ええ。死ぬかと思ったわよ」
はははっと彼は笑った。
「これは貸しにしてやるよ。いつか返してくれよな」
そうサラッと言い放ち空を駆けていく。
私はそこで彼の背中にしがみついた。
「ねえコータロー。あのさ」
「なんだ?ブルーバード」
「わたし、もしかしたらコータローのこと…」
コラ!早く起きなさい!
(うるさいわね。今大事なところなのよ!)
「わたしね。コータロー。す…」
「何時だと思ってるの!!さっさと起きる!」
寝ぼけ眼を開けた時、そこにあるのは彼の背中ではなく姉、青田鷹子だった。
「わたしもう会社いくから勝手に学校いきなさいよ。じゃあね!」
ドアの閉まる音がする。
はぁとため息をつく。最悪だわ。またあの夢を見るなんて。夢ではなく現実におこったことなのだけれどまるで素敵な思い出だから夢として見て反芻しているかのようだった。
「最近、あいつの変な事を手伝ってるからこんな夢みるのね」
とわざと口に出し言い聞かせる。
そうだ。そもそもあの借りがあるからわたしは手伝ってるんだ。
決して彼が好きではない。好き…?
その言葉が浮かび上がったとき、私の鼓動は早くなった。