レベル2 後ろの席の光源氏
学校に着いたのは予鈴ギリギリの9時半だった。
途中で、ブルーバードを置いてきてしまったので次会ったらさぞかし怒るだろう。
しかしながら、あんなに寒かった筈なのに席に座ると体が熱を持ち、真夏のアイスバーのようになっていた。もちろんレベル99の時はマグマの中でも汗ひとつかかなかったぞ。
だがこの体温上昇は走ったための新陳代謝だけではない。この世界に来て初めて芽生えた「現世でレベル99」を目指すという目標ができたからである。
しかしながら窓際の席で良かった。そして後ろの席というのはさらに好都合である。窓を開け、シャツを開襟し「バカでもわかる数学」と言う名のうちわで扇ぐとその暑さも少しながら和らいだ。
「ほう。ようやく勇者様の登場ですか」
後ろからニヒルな笑いが聞こえてきた。
美しく光る髪。潤った瞳。そしてその憂いを帯びた表情、を兼ねそなえた男。こいつこそが俺の幼なじみ源氏ヒカルである。残念だがそうそう女の幼なじみなどいないものだ。
そしてこいつの名前から分かる通り通称、光源氏と呼ばれ、またそのスペックの高さから奇跡の子、高校会のランボルギーニ、等々と称され皆に親しまれている。まあ比較される男友達(まあ俺なのだが)にとって嫉妬の対象となることは仕方がないだろう。
だが、彼は鼻に付くようなやつじゃない。その理由としては、彼は誰にでも優しく皆が思うほどのイケメンだからだ。またこれが本当の理由なのだが、俺が元勇者だということを信じてくれてるからだ。
「どうやら何か楽しいことでもあったのですか?随分とご機嫌ですが」
「まあ楽しいと言ったらそうだな。やっと俺の情熱の傾け所を見つけたよ」
「ほほう。とい言いますと?」
「聞いて驚け。俺はこっちの世界でもレベル99になると決めたんだ。これが俺の目標、いや!天命だと言っても過言ではない!」
光源氏は輝く目を大きく見開き、驚いた素振りをみせた。
「そうなんですか。協力できることがあればいつでもお力添え致しますよ」
小馬鹿にしたかのような物言いだ。すこし腹が立つ。
「まぁ、光源氏を超える日が来るのもそう遠くはないさ」
くくっと彼は笑う。
「ええ。光太郎さんが天のように輝くのを楽しみにしてますよ」
存分に皮肉染みたことを言ったつもりだったが軽く受け流された。
もう悪口の一つ、二つ言おうとしたが始業のチャイムがそれを阻んだ。
数学の時間が始まる。
授業の内容は全くわからないので目を閉じてレベル上げの力を貯めることにした。