レベル0 王宮は1LDK
春の朝の木漏れ日というイメージはとても爽やかで新しい匂いを感じさせる素敵なものと連想しがちだ。
しかし、今の俺にとっては憂鬱を引き起こす忌々しい存在である。
けたたましく鳴った時計を手探りに止める。
まだ眠い。すこし目を閉じ寝返りを打つとベッドはギシャギシャッと楽しそうに歌った。
こういう時に俺は思い出す。高1の輝いた日々を。
あの懐かしい王宮のフカフカの高級ダブルベッドは、一人暮らしの1LDKによく馴染むベッドと布団(毛布をつけてたった19800円)に成り果てて、豪華なメイドたちが作るブレークファストは爆発したてのようなトーストへ変貌を遂げた。
いや待て待て。ベッド、朝飯だけではない!時計もだ。あの頃はこの不快なジリジリではなく、世界を救った勇者の特典として、勝ち得たエルフたちが歌う風のような歌でよく目を覚ましたもんだ。今じゃこれも折り込みチラシに載っていた、ただの、ただの98円税別の時計だ。
ぐぬぬぬ。何故だ大体こういった物語は向こうに行ったらそれっきりじゃないのか!?魔王も倒したし、王様から「ほっほっほ!流石勇者じゃ姫と結婚してくれ!」って言われたのにコレかよっ!!
そして何より衝撃的だったのは、大賢者から伝授してもらった最大呪文を回転寿司のようにポンポン繰り出し、オマケにビッグバンほどの爆発を起こすことができた俺の魔力。
ドラゴンの一撃を指一本で止め、魔王を手加減ナメプできたおれの肉体。
この天才レベル99の力が現世にもどってから何一つ残ってなかったということだ。
そう俺はただのしがない高校生に戻ってしまった。
だからこんな自己紹介になる。
俺はレベル99だった高校生、山村光太郎。今は魔術書アルデバランの代わりに「本当の馬鹿でも分かる数学」
を持ってるぜってな。