第1-6話「役目」
「…ちゃん……防…いちゃん」
「防お兄ちゃん!」
「!!?…リリス」
「…寝ちゃってたよ」
「そうか…悪い悪い」
「ううん、いいの遊んでくれるときそばにいてくれたらそれで」
「そう…か(ちっ、あの嫌な夢…最近になってまた見るようになっちまった。)」
顔を片手で押さえているとリリスが心配そうに防人の顔を下から覗きこむ。
「防お兄ちゃん汗だく…大丈夫?」
「え?」
「お部屋…暑かった?」
「ううん、大丈夫だよ。部屋は別に暑くないよ」
「じゃあ何か怖い夢でも見たの?」
「え…と、どうしてそう思うのかな?」
「…私も怖い夢見たとき身体中が汗だくになっているから」
「…そうなのか(リリスが見る怖い夢どんなのだろう?苦しかった頃の死がいつも近くにいた頃だろうか。それとも何か別の…いや止めておこうこんなこと聞くのは可哀想だ)」
ダダダッ
(…?なんだか外が騒がしいな侵入者か?)
「ねぇ…もっと遊ぼう」
防人は無邪気に笑う彼女を見て心配させるわけにはいかないと腕時計で時間を確認する。
「(今2時か、安全も考えるとやっぱり)…リリス、そろそろ寝ようか」
「まだ…嫌。もっと遊ぼう…防お兄ちゃん」
「…でもそろそろ寝ないと明日、先生のお勉強で起きていられないよ」
「…でも」
「先生厳しい人なんだろ?」
「そうだけど…ちえ先生は優しい先生だよ」
「でも…教えてもらっているときに寝てたら怒られるだろ」
「…うんリリーも怖いって言ってた」
(それは初耳だな。あのリリーが怯えるってことはよっぽど怒ると怖いんだろうな)
防人は微笑むとリリスの頭を撫でながら優しく言う。
「そっか…ならそろそろ寝ないとな」
「うん…わかった」
「うん、よろしい。じゃあ片付けしようか」
リリスはまだまだ納得いかなそうだったが遊んでいたぬいぐるみなどを片付け始める。
防人も彼女を見守りながら片付けを手伝う。
(リリスはからだが弱く寝たきりの状態だったところこの子の父親である神矢さんが前の社長に頼んで開発中だった自己治療細胞「ナノマシン」を植え付け手術が行われたのが彼女が3歳の時、それが彼女の身体に馴染むまでに一年間細胞が焼けるように苦しみその際に生まれたもうひとつの人格が「リリー」らしい。彼女は体の弱く大人しいリリスとは性格が真逆で初めて出会ったときにはいきなりベッド下に隠してあったエアガンを撃たれたりしたな…最近は避けられるようになったからか全くしてこなくなったけど)
「防お兄ちゃん片付け終わったよー」
「あ、ああ」
ボーッと呆けていた防人はリリスの言葉でわれに返り、手に持っていた猫のぬいぐるみを棚の上におく。
彼は彼女に上から毛布をかけてやると「お休み」と頭を撫でてやる。
「…zzz」
しばらくしてリリスが眠るのを確認すると彼は静かに立ち上がり。電気を消して、外に出て行く。
「さてと」
防人は腰にある通信機の電源をONにして通信室に繋ぎ状況を確認する。
『氷雨隊長、何かあったんですか?』
『ん?お前は最近入ってきた新人か?』
『ええ、そうです。』
『お前、今まで何してた?今、侵入者が現れて忙しいんだぞ!』
『すいません。先程までリリスと遊んでいたものですから』
『リリス…ああ、神矢副社長の娘のことか。あそこは完全防音だからな…まぁとにかく今我々「氷雨隊」は現在侵入者を追っている。見つけ次第捕縛せよ!』
『了解、では僕…いえ私は武器を整えてきます。』
『わかった。出来る限り急げよ』
『は!』
通信を終え防人はすぐさま先程いた更衣室に置いてきたナイフ、と拳銃を取りに走り出す。
(あの後捕まっていた僕を助けてくれた神矢のためにも僕は…)
「侵入者は排除する。徹底的にな!」