第1-5話「悪夢」
2082年 3月
まだまだ寒さの残る月末、防人は友人とVRゲームで遊んでいた。
昼過ぎ頃、遊び終わった防人は友人からお礼にと手のひらサイズの小さな箱を受け取る。
「これは何?」
「中見てみなよ」
「いいの?」
「ああ」
友人がうなずくのを見て彼は受け取った箱をゆっくりと開ける。
「…腕時計か」
「ああ、それもただの腕時計じゃないぞ」
「どっかのブランドものとか?」
「オーダーメイドだ」
「え?」
「針の奥で動く振り子は充電器の役割として働き、半永久的に動き止まることはないさらには電波を拾いつねに正確な時間を刻む」
正直友人が何を言っているのか防人には分からなかったが高いということだけは分かったので彼に時計を返す。
「僕はそんな高いものは受け取れないよなんと言うか壊したりしたら」
「いいからいいから受けとれ俺も同じやつ持ってるから」
「え、でも…」
「そんなことよりそろそろ俺の親が帰ってくるから」
「そうなのかお前の親って仕事が忙しくてめったに帰ってこないんだろ」
「あーだからなんというか」
(久しぶり帰ってくる親か…良くは分からないが色々と話したいこともあるんだろうな)
「分かった。じゃあ僕はそろそろ帰るよ」
「そうか…じゃ、これを…それから家は裏口から出てくれ」
「え、でも(いや無駄か。せっかくくれるって言っているしもらうことにするかな)でもどうして裏口からなのさ?」
「玄関とかで鉢合わせになったりしたら困るからな」
(親に僕のこと話してあるのかな…僕にとっても初対面の相手だし話すことになったら何て言えばわからないしな)
「じゃあそうさせてもらうよ」
「そうか…」
防人は玄関の靴を取り裏口から家に帰る。
「じゃあまたね」
「おう、じゃあな」
その時、手を振る友人の顔は少し寂しそうだった。
そしてこのあと起こる悲劇を僕はまだ知らなかった。
◇
「おお、腕に巻く部分も鉄…いやアルミか?どっちでもいいけど結構重いんだな」
その夜「少しだけ」と腕時計をつけて遊んでいるとばたんと玄関の扉が開く音を聞く。
(おかしいな…もう父さんも帰ってきてるはずだけどなまさか泥棒?)
防人は壁に立てかけてある金属バットを握りしめ廊下に出る。
ズダァン!ズダァン!ズダァン!ズダァン!
(これって…銃声?)
防人はすくんだ足を叩き、急いで階段を下りて玄関に向かう。
「父さん、母さん!!」
玄関では無惨に血だらけで倒れている両親と知らない黒ずくめの男が1人、立っていた。
「お前か…ターゲット確認捕縛します。」
もうそのときには男が何を言っているのか関係なく手に持つバットを両手で握り、思いっきり殴りかかる。
「うぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「甘い」
ズダァン!
一発の銃声が轟き、僕は意識を失った。