1-15「氷結」
リリーは通信室で氷雨と話していた。
「…つまり、お前の大事なお兄ちゃんが矢神に捕まってしまいGWに無理矢理乗せられそうだと?」
「ああ、そうだよ」
「…成る程、理解した」
それを聞いたリリーはぱっと表情を明るくする。
「理解したのは『ルナ』が動く事だ。お前の兄さんの事は知らないぞ」
「それ、どういう意味だ?」
「…顔を知らない」
「面識がないってことか」
「よく知ってるな。…まぁそういうことだだから助けはするがお前の兄さんの事は知らない」
「そうか…助けてくれるんなら、有難う」
氷雨はリリーの頭を数回なでた後、モニターに向かい、通信をA.Tに繋げる。
「…聞こえるか?」
『氷雨か、何の用だ?』
「今、話せる?」
『矢神が雇った奴らがどんどん涌き出るように出てきてうっとうしいが、まぁ話を聞くだけなら問題ないな』
「…じゃあ順を追って話す。まず『ルナ』っていうGWを知っているか?」
と突然 A.Tは真剣な顔になって少しの間、敵の相手をしてもらうようヒロに頼む。
『ルナ…今、そういったか?』
「うん」
『…了解した。ルナの場所はわかるか?』
「今から座標データを送る」
そんなころ調整を終えた矢神は
「よし、こんなところだろう」
失神している防人に頭をすっぽりと覆うヘルメット型のバイザーをはめたあと、彼の頬を叩き、起こす。
「あ、うっ……あ、おはようございます。ご主人」
よし、ひとまずは成功だな
そう思い、矢神はニヤリと微笑む。
「あの、何故私はこんなところで眠っていたのでしょうか?」
「あ、いや…そこは気にするな」
「わかりました。ご主人」
「さて、お前にはたのみたい仕事がある」
とパネルを操作して壁に外の様子を映し出す。
「今、私たちはこの白いハエに襲われて大変迷惑している。出撃してこいつらをはたき落としてこい」
「了解しました。しかしその前にご主人このGWには武装がないのですか?」
「ああ、そうだったな」
ピッーーガコン
壁が開き、奥に収納されたルナの武装がロボットアームによって
横向きに後ろ腰に黒い鞘に入った剣、右腕にサブマシンガン、左腕に白い先の尖った縦長の盾が取り付けられる。
防人は武装がしっかりと取り付けられていることを確認する。
「では、ハッチオープン」
天井が開き、外に立っている木々の木の葉が降ってくる。
その間に矢神はイスのベルトを締めて体を固定する。
「GWとのトレース完了。センサー起動…完了」
「よし、さっさと行ってこい」
「ウェポンズ・ギア『ルナ』…出撃します!」
防人は背中のジェットスラスターを吹かし、一瞬にして格納庫を飛び出す。
「…遠いな。まさか島の端の方とは」
A.Tは襲ってくるGWの群れを片付けたあと届いたデータを見ながら顔をしかめていた
『仕方ない、ここは隠すために造られてるんだから』
「そうだな、プロトタイプとは言えプラネットシリーズだ。とんでもない技術が詰まっている。確かに島の地下深くに隠すくらいしておかないと不味いよな」
『で、どうする?』
「さて…ん、どうやら俺たちがわざわざいく必要はなさそうだ」
『…来たのか?』
「ああ、すまない通信を切るぞ。」
『了解』
ピッ
「…でお前はさっきの奴か?」
A.Tは通信モニターを消し、背中の剣を抜きながら、目の前に飛んできた防人に問う。
「確かに、でも敗けを認めた気はない」
と、こちらもサブマシンガンを左手に持ち替え、背に取り付けられた剣を右手で抜いて構える。
「さて、俺としてはあんたと戦うのは遠慮したいのだが…どうも叶わなそうだな」
「それは当たり前のこと…ご主人の命令だ、お前を…殺す!」
防人は空を蹴って接近、A.Tに向かって剣を振り上げる。
「俺の生存フラグを有難う」
A.Tのニッと笑い、盾で剣の太刀筋をずらす。
「?なにを訳のわからない事を」
防人は身をひるがえし下向きに剣を振るう。
「ちっ」 ーさっきの時は通じたのにな
A.Tは盾を構えて防人の剣を防ぐ。
「ぐっ!」
「はぁ!!」
が圧倒的な力に押され、そのまま下に叩き付けられる。
ダダダダダダダダ!!
防人は左手のサブマシンガンの銃口をA.Tに向けて引き金を引く。
「A.T!!ーこのっ!」
ヒロは離れた所から手に持つライフルを構え
「邪魔をするな」
「なっ今の距離を一瞬にして…」
た瞬間に防人はヒロの目の前に移動、いつのまにか持ち変えていた左手の剣をさっと上げるとヒロの頭上に向けて一気に降り下ろす。
「ぐあ!」
ヒロはフィールドを張るがあっさりと割られ、両腕でかろうじて防ぐが地に叩き付けられる。
「ぐっ?……これで終わる」
防人は一瞬顔をしかめながら両腕で構えたサブマシンガンの引き金を
「させない」
ピキピキピキーーードカン
「ー!?」
しかし直前にマシンガンの銃口が凍り暴発する。
「攻撃?どこだ」
「…あんな化け物が部隊に…おどろいた」
そう言いながら氷雨は防人の背後に現れ、手を前に出す。
「発射」
彼が呟くと蒼いGW手首に取り付けられたチューブから白い気体が放出され、ルナのスラスタが凍り付き停止、氷雨のかかと落としによってピシッとヒビが入る。
地に叩き付けられた二人は氷雨の側まで飛んで移動する。
「二人とも思ったより無事そうだね。」
「たいちょー遅いですよ」
「……」
氷雨はなにも言わずに右手を前に向ける。
「あ、ちょっとそれをそっちに向けないで下さいよ凍っちゃいますから」
ヒロが降参のポーズをとっているとA.Tが間に割り込んでくる。
「お前らふざけている場合か?」
「悪い悪い」
「……」
「で、それが氷雨のGWなのか?」
「ああ、これの名前は…氷結。社長が設計してくれた僕の専用機で中枢も社長オリジナル」
「つまりそのGWはゼロ製か…その後ろのタンクがさっきの力か?」
「そう、中に入った特別な液体を放射して相手を直接凍らせて装甲ごと砕く」
そう言いながら氷雨は薄気味悪く微笑む。
「そうか…でもあいつは殺すなよ」
微笑む氷雨を見て『笑って人を殺せるタイプなのか』と思いつつA.Tは下でうずくまる防人を指差す。
「了解した…けどあいつなにやって」
「スラスタ冷却装置を停止」
防人が呟くと背の凍ったスラスタが解凍され、地面に小さなクレーターを作ったかと思うと一瞬にして3人の目の前に飛び上がる。
「な!」
「どいて、また凍らせれば問題はない」
氷雨はヒロの前に出て両手を前に、液体を放射する。




