始まりのノイズ
20XX年なんていうよりもずっと未来の話。
人類は技術を研き、多くの優れた機械を開発してきた。
しかしもちろん、高すぎる技術というものは人類に思わぬ牙を剥くことがある。
人々の暮らしを豊かにしてきた【人工知能のロボット】。
しかし、ある時に彼らの一部が反乱を起こして大事件を引き起こした。
それからは全国で人工知能の製作は中止され、人工知能が搭載された機械は全て廃棄処分となった。
だから、今の世の中には人工知能なんてものは無いしあってはならない。
ロボットは全て設定された通りに動き、独立した意識は持っていない。
その、はずだったのに。
「ココは?アナタは、ダレ?」
私の目の前で起動したロボットは、勝手にしゃべりだしていた。
「・・・え?」
起動してしまったロボットを目にして呆然と立ち尽くしていた私。
ロボットは現状把握をするためにか、相変わらず同じことを繰返し質問している。
「ココはドコ。アナタは、ダレ。」
「え?わ、私はミラよ。私の名前は、ミラ。」
「ミラ。」
「そしてここは、私の父の地下倉庫。」
そう、ここは私の家の地下。
唯一家族だった父がいなくなってから数日後、父の部屋の整理をしていたら地下室への隠し階段を発見したのだ。
電気をつけようとして押したスイッチで、どうやらこのロボットを起動させてしまったらしい。
だけど、まさか。自意識を持ったロボットを置いていたなんて。
「あなたは、本当に記憶がないの?どうしてここにいるのかも、誰に作られたかも、わからない?」
「ハイ。記憶力に該当するデータは発見できません。私に備わっている機能についても、障害がアリ、一部が仕様不可能となっていると思われます。」
「そっか。」
「私を起動したアナタには、わからないのですか?」
「うん。ごめんね。」
さて、困った。これからどうしたら良いんだろう。
心を持ったロボットは、存在してはならない。
だから彼は廃棄しないと、起動させてしまった私が重い罪にとわれることになってしまう。
それでも。
「ドウシましたか?」
「ねぇ、私の命令には従ってくれるんだよね?」
「私を起動させたあなたが主となるのであれば、ソノ通りです。」
「わかった。じゃあ、私があなたの主よ。」
「了解しました。」
「それで、主として命令したいんだけど。」
「ここから出てきちゃ駄目。隠れてて。私以外の誰にも、見つからないで。」
「わかりました。」
私には、廃棄なんてできなかった。
「どうすればいいんだろ。」
ひとまず情報端末を取り出した私に、ロボットは語りかけてきた。
「…もしかしてアナタは、犬がお嫌いでしょうか?」
「嫌いじゃないよ。昔は苦手だったけど。なんでそんなこと。」
「内部のデータから、アナタと似たデータがありましたので。」
「え、データって。」
「だいぶ昔のようですね。」
ミラ、3歳。犬が苦手。好物はミニドーナッツ。
ロボットが読み上げたそのデータは、私の知っているものだった。
人工知能がまだ、許されていた時代の。
「…なんで、ドーリスの記憶を持ってるの?」
それは、私の昔の友達。
ロボットのドーリスの持っていたデータだった。