好き-last-
--鈴side--
「会長」
放課後、生徒会室で、机の横を通りすぎようとした人を呼んだ。
それだけで、生徒会長は察したようだった。立ち止まり、私を見て笑った。
「桃井くんが、名前で呼んじゃだめだって?」
私は会長を見上げた。
「うん。あの……滝川くん、のほうがいい?」
「んー、鈴本さんの好きな方で呼んで」
好きなほう。
どっちだろ。
もし自分だったら。書記、とか会計、とか呼ばれるのはきっとあんまり嬉しくない。
「じゃぁ、滝川くん。なるべくちゃんと発音するね」
瀧山くんと混ざらないように。
会長が苦笑いを浮かべた。初めて見る表情だった。
「ありがと」
いつもみたいに私の頭をなでようとして、寸前で止めた。
「これもダメ?」
手を浮かせたまま、いたずらっぽく聞かれて、こくりと頷いた。一応、言っておくことにする。
「あと、お菓子も、だめ」
会長が吹き出す。
「桃井くん、けっこう束縛魔だね。了解しましたよ」
浮いた手で、会長はパソコンの画面を指さした。
「悪いけど、それのマニュアル作りもよろしくね、鈴本さん」
優しい声はいつも通り。けれど、少しだけ、事務的になったようだった。
「うん」
返事をして、私は仕事にとりかかる。
モモって束縛魔?
基準はよくわからないけど。
好きって言っちゃったなぁ。
迎えに来たら、どういう顔をして会えばいいんだろ。悩んで、顔が火照った。
夜7時過ぎに、モモが迎えに来た。
私はそれまでにマニュアルも作り終わっていて、会計担当の数人に使い方を説明しているところだった。
モモは私の仕事が終わるまで、生徒会室の壁に寄りかかって、英単語帳を眺めていた。
「終わった。帰る」
短く告げて、生徒会室を出る。
「うん」
モモも、一言だけ答える。
ふたりで校舎を出て、校門に向かう。
その途中で、モモが言った。
「あのさ、スズモトさ。カバン、逆の手で持って」
「え」
「いいから」
不思議に思いつつ、右手から左手にカバンを移す。
と、空いた手をつかまれた。モモの方にある手。
「ちょ、っと」
びっくりして手を引こうとする。
「いいの」
いいの、て。まわりみんないるのに。
「よ、よくないよ」
「いいんだよ。付き合ってんだから」
強引に言い張るモモを見上げる。
いつも、私が嫌な素振りすれば、すぐ退くのに。
困ってたら、モモが手を放した。
「スズちゃんがヤなら、しない」
モモの顔が少しだけ赤く見えた。
日焼けと夕焼けのせいかもしれないけど、たぶん、そうじゃないから。
「ヤじゃない、よ」
呟いて、もっと赤くなればいいのに、なんて思って、モモの手を眺めた。
ええい、と自分の手を伸ばす。
簡単に、モモの手を捕まえた。そのことにびっくりする。
モモが驚いたように私を見た。
「す、スズちゃん。いきなりはナシじゃん、オレの心臓がやばい」
私は慌てて手を放す。と、すぐに、モモの手に捕まった。
「えーと、んーと、ありがと」
そう言ったモモの顔がさっきより赤くて、たぶん私も赤くて、でももう、いいや、って。
モモにだけ聞こえるように、こっそり呟いた。
「好き、だよ」
一度言ってしまえば、意外と簡単だった。
モモがいつも私のことを好きだって言う理由がわかった気がした。
思いを伝えるのは、気持ちがいいのだ。
うわ、とモモがカバンを持った手で顔を覆う。
「スズちゃん……それ言う? 今、言う? 初日で2回目いく?」
うろたえる様子があまりにかわいいから。
3回目言ってしまおうかな、なんて思いながら、でも、どうやら、モモにとっては衝撃が大きいようなので。
今度はいつ言おうかな、と、くすりと笑った。
「英単語、いくつ覚えたの?」
「ちょっと」
「ちょっと、っていくつ?」
「何個か」
後ろめたいときのモモは往生際が悪い。これはさっぱり覚えてないな。クイズ形式に切り替える。
「じゃ、『注目すべき。著しい。目立つ』の、つづり言って」
「えーと、えーと……r、e、m、a……」
会話はいつも通り。中学の頃から一緒。モモが話さないなら、勉強の話。
だけど、手がつながってて、あったかくて。
幸せだな、と、隣のモモを見上げた。
<完>
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