好き-5-
--鈴side--
生徒会室で部活予算用の表を作っていた。間違っているところがないかチェックして、会計係の水原さんにも見てもらって、完成させた。
夜7時になって生徒会長が全員に集合をかける。
私はフリーのアシスタントだからその輪に加わるわけではないんだけど、はっとして振り返る。
―――モモが、いない。
サッカー部は部活時間の延長届けが出てるだろうか。決済は会長だ。
だけど、忙しい会長にこんな私的なことを聞けずに、あわててカバンから携帯電話を取り出した。
ミーティングとか、試合前の練習時間延長で迎えが遅くなるときは、モモはメールを入れてくれてた。
メールも、ない。
生徒会室を出てすぐ、廊下にもモモはいなくて、教室と図書室を、みてまわる。教室は消灯済みで誰もいない。図書室にはもう鍵がかかっていた。
どこに―――。
他の場所を思い浮かべようとして、気が付いた。
―――も、いいや。じゃ。
昨日のモモのセリフ。「また明日」っていう一言がなかった。
ずっと毎日言ってた言葉が消えてた。
携帯から電話をかけた。
モモ、出ない。
なんで。
図書室の前で立ちつくした。もしかしてすれ違ったのかもしれない。生徒会室に引き返す。
モモはいなかった。生徒会長が、部屋の鍵を閉めているところだった。今日の生徒会はもう終わりなのか、だったら。
「アキラくん、あの」
サッカー部、時間延長届け出てた?
聞こうとして、先に聞かれた。
「ひとり?」
「うん。あの」
「これ返してくるから、ちょっと待ってて」
鍵を私に示して、会長が真向かいの職員室に入っていく。
すぐ戻ってきて言った。
「鈴本さんて、JRだよね?」
うちの高校の生徒たちはJRか地下鉄、どちらかで通っている。
「うん、あの、今日」
「一緒、帰ろ」
「え」
会長を見上げた。
「部活予算用の表、完成したって水原に聞いたから。その話もしたいし」
「あ、ええと……」
このひとは生徒会長なのだった。
帰りがてら仕事の話をするのも当たり前。だけど、もしまだ学校内にモモがいたら。
「あの。今日、サッカー部、時間延長届け出てた?」
聞くと、会長が眉をひそめる。
「出てないよ。桃井くんが行方不明?」
「え、と」
「遅くなるし、帰ろ」
促されて、歩き出した。
校舎を出て、校門を目指す。たくさんの人の中に見知った顔を見つけて、声をかけた。
「あ、あの、横田くん」
男子の集団で帰っていた一人が振り向く。モモと同じサッカー部の人。
「あれ」
私の隣にいる会長をみて怪訝そうな表情を浮かべた。
「鈴本さん、モモと一緒じゃないの?」
その言葉に怯む。
「あの、今日、桃井、何かあった? ケガ、とか」
「や、全然。俺、グラウンド整備の係りだったから遅いだけで、あいつは普通に帰ったはず」
「あ、そう、なんだ」
「ケンカ? 珍しいね」
不思議そうに聞かれて不意を衝かれる。
ケンカ?
昨日のが?
―――も、いいや。じゃ。
あれが、ケンカ?
言い争いもなにもしていないのに。
なにも言えなくなった私を困ったようにみて、横田くんが呟いた。
「ケンカ中だったら余計に、他の人と帰ったりしないほうが、いいと思うけど……。まぁ、会長とは仕事かもだけど」
「あ、うん。仕事の話で。あの、桃井、なんか言ってた? 用事、とか」
「いや、別に」
首を振って、じゃ、って横田くんが離れていく。
用事でもなくて、ケガでもなくて。
も、いいや。って、なにが?
なにが「もういい」の?
突然放り出されたようで、途方に暮れた。
会長と仕事の話をしながら駅まで一緒に帰った。
隣を歩く人が違うことに違和感を感じながら、それでも会長との話は尽きなくて、会長と普通に話せる自分に驚いていた。




