表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/28

好き-1-

--桃side--


 部活後に迎えに行けば、教室にも図書室にもスズモトはいなかった。

 残った候補は、生徒会室。

「あー、もう……」

 重苦しい気分がつい口に出た。

 行きたくない、あんなとこ。

 けど、あいつがいるとこにスズモトが出入りしてるってことのほうが重要で、迎えに行かないという選択肢は最初からない。

 図書室の扉を乱暴に閉めて、生徒会室まで走った。



 生徒会室の扉を開けると、スズモトは入り口に背を向けて、ノートパソコンに向かっていた。

 背中から漂う、ぴりりとした気配。集中している。

 声をかけられず、壁に寄りかかった。

 無言で、身じろぎもせずパソコンの画面を睨んでいたスズモトが、ふと気づいたように手を動かす。

 画面に映ってる、あれって、表?

 表、作ってんの?

 スズモトの指がキーボードを叩いて、何かを打ち込んだ。それから別のファイルを立ち上げた。

 画面全部をコピーして、もとのファイルに張り付ける。

 何かのボタンを押した。そしたら、自動で何度も画面が切り替わって、ただの数字の羅列が、色つき罫線つきの表とグラフに置き換わった。

 ふ、とスズモトの気がゆるむ。

 なんかうまくいったんだな。 

 かっこいー。

 へぇ、と、斜め後ろから眺めていた。

 「スズちゃんが生徒会を手伝ってくれてほんと助かる」というのは、同じクラスの沢野から何度も力説されていた。

 そりゃそうだろな。

 だって、スズモトだ。

「水原さん」

 パイプ椅子に座ったまま、スズモトが呼ぶ。

 呼ばれた女子が寄ってきて、画面をのぞき込んだ。スズモトがさっきの操作を繰り返す。水原が、おおっ、と声をあげる。

「自動変換!? うーわ、助かるぅ!」

「一応、形だけ。ミスがないか、これからチェックするね」

「うん、いやでも、すっごい効率上がるよぉ! ていうか作るの早っ! ちょっと沢ちゃん、見てこれ!」

 水原が沢野を呼ぶ。

「んー?」

 書類片手に寄ってきた沢野がオレに気づいた。

「スズちゃん、お迎え来てるよ」

 そこでようやくスズモトがオレを振り返った。

 あ、という顔をする。

「もう少し、かかる」

 呟くように、短く言った。

「うん」

 オレは頷いた。カバンから英単語帳を取り出してスズモトに見せると、スズモトは、ふわっと笑ってパソコンに向き直った。

 生徒会室の時計を見る。夜7時5分。

 部活は片づけ着替え含めて一律夜7時までと決められているが、試合前等に限り夜8時までの延長が許される。

 延長申請時の届け出先は生徒会長だ。そして人手不足の生徒会は常に臨戦態勢で、会長自ら生徒会活動の延長申請を出し続けているらしい。

 生徒会メンバー5,6人が、生徒会室に入ってきた。

 ぱんぱん、手をたたいて、会長が部屋の真ん中で声を張り上げる。

「はい、集合!」

 全員が立ち上がり、集まって輪を作る。総勢十数名。

「今日中の仕事、終わってない人は?」

 会長の呼びかけに、男子が二人手を挙げた。順に終わっていない内容を述べる。

 文化祭の予算集計がうんたら、議事録がうんたら。

「オッケー、そしたら予算は俺が入る、議事録は沢野がフォロー。他に間に合わなさそうなのは?」

 女子が3人手を挙げる。

 三年生の卒業文集用のインタビュー要員が足りない、体育祭の演目決め、云々。

 まだ7月の半ばだ。文集なんか来年の3月に出るのに、もう準備してるのか。

「よし、文集は棚上げ。体育祭優先! ひとまず梅野は体育祭側に入って」

 指示された女子が頷く。

「他、危ないのは?」

 生徒会長がみんなの顔を見回す。大丈夫という意味なのか、各自頷く。

「そしたら、今日は解散! 俺と沢野、三浦、黒石のみ残り。おつかれ!」

 お疲れさまでしたぁ、と全員が頭を下げる。

 4人を残して、他のやつらは、さっさと帰り支度をしだす。

「会長、みてこれ、すごいよぉ!」

 生徒会室の奥に行きかけた会長を、水原が、はしゃいだ声で呼び止める。

「ん?」

 会長が、水原と一緒にスズモトの前のノートパソコンをのぞき込む。

 スズモトがパソコンを操作する。

「さすが、鈴本さん。これでだいぶ効率良くなる」

 会長が優しく笑って、ぽん、とスズモトの頭をなでた。

 それは単に誉めただけ、かもしれないけど、オレには―――。

 スズモトが会長を見上げた。

「でも、アキラくん。これ仮のだから、チェックはまだ」

「うん。けど、鈴本さん作だし期待してる。これ、お礼」

 会長がズボンのポケットを探って、キャラメルをスズモトの手のひらに落とした。

「ありがとう」

 スズモトがお礼を言って、ふんわり笑う。そんなスズモトに会長も笑い返して、また、ぽん、とスズモトの頭をなでた。それから表情を引き締めて、

「黒石、予算!」

 言いながら、部屋の奥に去っていった。

 英単語なんか全然頭に入ってこなくて、オレはそんなふたりのやりとりを見てた。

 スズモトも、お菓子もらうの慣れてるんだな、とか。

 アキラくんって、名前で呼んでるんだ、とか。

 だけど、スズモトに友達ができて良かった、とか。

 いろんなことがありすぎて、言葉にならない。

 これだから、生徒会室には来たくない。

 その思いだけが、ますます募るばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ