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手をつないでて-last-

--生徒会長side--


「次やったら、実名公表するから」 

 警告書を配った日の放課後、ざわめく教室で、小柄な女子生徒にささやいた。

 女の子が振り向いて、こちらを睨み返す。

「証拠は?」

 おや、強気だこと。

 にこりと笑って、ケータイの動画を示す。

 鈴本さんの机にメモを置くとこが、ばっちり映ってた。

 女の子の顔が引きつる。

「動画、バックアップしてるし。はやいとこ諦めなよね。そのほうが自分のためだよ」

 さっさと釘をさして、教室を出る。

 他のクラスの数名にも同じことを告げて、ケータイから、捜査協力者とオブザーバーにメールを一斉送信する。

『S任務完了』

 途端に返信が来る。オブザーバーからだ。これまた全員に一斉送信されている。

『警告書見ました。途中経過も聞いてます。皆様お見事でした。 滝川くんへ>言いたいことがあればどうぞ。下校時刻まで図書室にいます』

 すべてお見通し、ですか。

 ため息ひとつついて、生徒会室へ向かった。一仕事終えたら、図書室へ行かねば。

 言いたいことが、山ほどある。



 下校時刻の30分前に図書室へ行けば、元・図書委員長の真野先輩は貸し出しカウンターで受験勉強をしていた。こちらに気づいて、ひらりと手を振った。

「お疲れさまー」

 にっこりとした笑みの下は悪魔だ、悪魔。

 その「お疲れさま」には、何重の意味が込められているのか。

「どうも」

 呟いて、真野先輩の隣に座る。

 今回の騒動の、発端はこの人だった。

 1ヶ月前、メールで、図書室への出頭命令を受けた。

 貸し出しカウンターの椅子に腰掛けた途端、目の前に、嫌がらせメモを2通、転がされて。

『今年の生徒会は、一体、何をやってるのかなぁ?』

 聞かれた。目が笑っていなかった。

『すみません』

 思わず謝った。

『誰への嫌がらせですか』

 俺の問いに、即座に答えが返ってくる。

『2-4の鈴本さん』

 頭に、おとなしい女子生徒を思い浮かべた。

 数学クラスで、同じだ。けど、誰かと話しているところをみたことがない。

 俺も話したことがなかった。

『どうするつもり? この子、図書委員でさ。俺、気に入ってるんだよね。さっさと片づけてほしいなぁ』

 のんびり聞かれて、必死にクラス編成を思い浮かべる。

『クラスの監視は学級委員の竹居。体育の時間と更衣室は2-3の沢野。数学クラスは俺でガードします。犯人を特定した段階で、生徒会名義の警告書、出します。再発防止は個別に……犯人に、釘刺します』

 ふぅん、とつまらなそうに真野先輩が呟く。

『下駄箱が抜けてるよ。あと鈴本さんが当番の時の図書室のカウンター。犯人の言い逃れ対策は?』

『犯行時の写真か動画、撮ります』

『あ、そう。まぁ合格。それで、警告書までどのくらい時間がかかるの?』

『……1ヶ月くらい、でしょうか』

『遅いなぁ。まぁ、鈴本さん強いから、そのくらいなら保つかな。じゃ、1ヶ月ね。がんばって。あ、複数犯っぽいから、取り逃しのないようにね』

 そんなやりとりをして始まった、今回の犯人捕獲作戦。生徒会任務のSランクと鈴本さんのイニシャルをかけて、S任務、と命名した。犯人が複数、というところから、どこからどう情報が漏れるかわからず、俺と竹居と沢野と、生徒会でも特に口の堅いやつ数人、最低限の人間で調べあげた。真野先輩はあくまでオブザーバーだ。今年の生徒会だけで片づけるべきことだった。

 なんとか犯行の証拠写真・動画まで撮って、警告できたのがやっと今日。

 約束の1ヶ月、の、2日前だった。 

「……どこまで、予想してました?」

「ん? どのコト?」

 無邪気そうな顔で、真野先輩はカウンターに頬杖つく。

「俺のこと、です。俺が鈴本さんに惚れること、予想してたでしょ?」

「うん。確率8割くらいかなーって思ってたよ」

「8割って」

 あまりの高確率に呆れる。

 それは、もはや予想の域を超えている。

「だって、滝川の好みの子だしね。生徒会って忙しいじゃない? 鈴本さんの静けさはさ、癒しだよね。あんな子がカノジョだったらなぁって、思うよねぇ。話してみて、普段無表情なあの子が笑うとこ見ちゃったら、欲しくなるだろうし。……で、結果、どうだった?」

 知ってるくせに。

 そう思いつつも、答える。

「先輩の予想通りですよ。目の前で桃井にかっさらわれました」

 真野先輩が楽しそうに笑う。

「犬、強いなぁ。伊達に何年も番犬やってないねぇ。でも実を言うとね、犬の圧勝は俺も予想外だった。犬は犬で、スペック高い子に言い寄られてたし、鈴本さんも犬を手放す気だったしね。だから、滝川にも勝機あるかなって思ってた」

 桃井のことを、真野先輩は犬と呼ぶ。

 確かにあれは番犬だ。そんでもって、土佐犬並に強い。

 鈴本さんは別れたって言ってたのに、成立してねぇと引き戻した。

 目の前であそこまで見せつけられたら完敗だ。

「俺が勝つ確率って、どのくらいだったんですか」

 あの場面を思い出して顔をしかめながら、聞く。番犬が教室に現れてから、鈴本さんの眼中に俺は全くいなかった。勝てる要素なんかどこにあったんだ。

「んー、5パーセントくらい?」

「……それは勝機があるって言いませんよ」

 先に言っておいて欲しかった。

 鈴本さんに直接告白しなかっただけまだましなのか。

 生徒会メンバーには大いにバレて、冷やかしのネタになっている。

 会長がんばったのにねぇ、なんて沢野に気の毒がられる始末だ。

 生徒会メンバーは結束が強いので、全校生徒にバレてないぶんだけまだいいが。 

「先輩も、実はけっこう好きですか? 鈴本さん」 

「ああ、うん。好きは好きだけどー。カオルとは比較にすらならないよね」

 堂々と惚気られてため息をつく。

「誰か、いい子紹介してくださいよ。俺の傷心を癒せる子」

「何言ってんの」

 肩を小突かれる。

「生徒会長ともあろう者が。自力で捕獲なさいな。ま、君の場合、案外近くにいるかもね」

 ふふん、と意味深な笑いを投げかけて、真野先輩は席を立つ。

「じゃ、俺、帰るから。戸締まりお願いね」

 逆らうすべもなく、ハイ、と答える。

「カオルー、帰ろー」

 真野先輩が、言いながら、図書室の奥で勉強しているカオル先輩に近づいていく。

 どうやら問題を解いているところを邪魔したようで、容赦なくお腹のあたりを拳で叩かれて、おとなしく隣に座ってた。

 あの悪魔を従えられるのって、ほんと、カオル先輩ぐらいだよな。

 悪魔にいじめられたら、カオル先輩に助けてもらおう。

 そんなことを思いながら2人を眺めていた。

 任務完了とともに失恋した、高校二年の初夏だった。 

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