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手をつないでて-2-

--桃side--


 スズモトと付き合いだして、3ヶ月ちょっと。

 付き合いだしたからと言って、それまでと何か変わるわけではなく。

 帰り道も、スズモトは、いつもカバンをオレの側に持っていて。つまり、手をつないで帰ることもなく。2人でどこかに遊びに行くわけでもなく。

 まわりに「付き合ってる認定」されただけで。

 見た目、これまでの3年間と何も変わらず、過ごしていた。そんな時だった。

 部活が終わってスズモトの教室に行くと、スズモトはいなかった。

 代わりに、阿部がいた。

「あ、モモ」

 教室の奥、窓辺の机に腰掛けていた阿部が片手を上げたので、教室の扉の前で、こちらも片手を上げて応える。

「阿部、何してんの? つーか、スズモト知らない?」

 言いながら、図書室かな、と予想する。スズモトは図書委員だ。当番は不定期に入ってくる上、スズモトも事前に言わないので、教室に行っても空振りのことがある。

「鈴本さんは図書室じゃない? ていうか、あたし、モモ待ってたんだー」

 ひょい、と阿部が机から降りる。

 阿部はちっさくて、何て言うか、気の置けない女子だ。

 まわりは阿部の見た目をカワイイと言うが、オレにはよくわからない。

 まぁかわいいか? て感じ。

「あ、そうなの? 何用?」

「ちょっとこっち来てよ」

 おいでおいで、と阿部が手招きする。

「オレ、スズモト迎えに行くからあんま時間ないんだけど」

「すぐ終わるから」

 阿部がそう言うので教室に入った。

 窓辺に近寄る。

「期末テストの張り紙、見た?」

 阿部が聞く。

「うん、見た」

 進学校ゆえ、テストの結果は、一学年三百人中、一番から五十番までの名前が廊下に張り出される。

 オレの名前はその張り紙には全く縁がなく、いつもスズモト何番だろうと見るくらいだが。

 えーと、この間、スズモトは確か、6番、だったか。

「あたし、4番だったんだー」

 阿部が嬉しそうに笑う。

「え、ほんと? すげぇ!」

 思わず声を上げた。

 オレの「すげぇ」基準は、スズモトだ。スズモトより上か、下か。

「阿部って頭良かったんだなー。意外ー」

「なにげにひどいね、モモ」

「だってお前って、あんま頭良さそうにみえねぇもん」

 スカート短いし。髪染めてるし。ピアスまでしてるし。

「わー、ひどー」

 言いながら、くしゃりと阿部が笑う。

 あー、こういうとこ、かわいいのか?

 男どもの言うことも一理あるかもなー、と呑気に思っていた。

 スズモトってこんな感じに笑わないしな。

 つーか、迎え、行かないと。

「話ってそれ? オレ、もー行っていい?」

 言ったら、阿部が弾かれたように顔を上げた。

「モモ、あたしと付き合わない?」

「は?」

 阿部を見下ろす。

 阿部は真剣な顔で。どうやら冗談ではなさそうだった。

「オレ、スズモトと付き合ってんだけど」

「知ってる」

「じゃ、なんで……」

「モモが好きだから。で、モモがあんまり報われてるように見えないから」

 報われてるように、見えない?

 その言い様に顔をしかめる。

 付き合いだしても、身体的距離は、これまでの3年間と何も変わらなくて。

 でも、最近、スズモトはオレに話しかけるときに、「モモ」と呼ぶようになった。

 「桃井」とか「あんた」とかではなく。

 まわりに人がいるときは相変わらず「桃井」だけど。

 オレは、まわりからは常々モモって呼ばれてる。

 スズモトは一番オレのそばにいたというのに、付き合うまでその呼び方をしなかった。

 付き合いを申し込む直前に、一度だけ「モモ」と呼ばれたことがあるけど、あのとき、スズモトは泣いてて。あれはたぶん、無意識で。

 最近は、意識して、ちゃんと、「モモ」って呼んでる。それは、スズモトにしちゃ大きな進歩。

 お前らが普通に何気なく使ってる呼び名を、スズモトが使うようになった。

 モモ、って呼んでくれる。

 オレは内心すっげぇ嬉しくて、でも嬉しいって言うとスズモトが即座にやめるだろうと予想がついたので、なんとか普通の顔をして、やりすごして。

 未だに、スズモトの呼ぶ「モモ」に慣れない。

 そんな段階だ。

 それを、報われてないって、言うのか?

 阿部がまっすぐにオレを見た。  

「あたしだったら、モモと手つなぐし、キスしたいし、その先だって、すぐ、するよ。鈴本さんってそういうの、許してなさそうだから。だからあたしにしない?」

 あー、呼び方うんぬんすっとばして、それか。

 オレは、スズモトにそういうものを求めているわけでは、ない。

 というのは、建前で。

 だけど、スズモトだから。

 少しずつしか進まないのはわかってて。

 オレはすぐに距離をつかみ損ねて、下手したら泣かせるから、決してこちらからは踏み込まないように気をつけている。

 うっかり触りそうになるのを、慎重に抑えている。

 正直、もどかしい。

 だけど、スズモトだから、なんとか、抑えてる。

 ぴしりとそれを見抜かれたようだった。

 言葉をなくしたオレに、阿部が追い打ちをかける。

「勉強だって、あたしが教えるよ」

 そりゃ、阿部はスズモト抜いたんだから、すげぇんだけど。

 けど。

 オレは何を求めてるのか、って話だ。

 すぐに手に入る体とか、勉強を教えてもらうこととか、では、なくて。

 かっこよくて静かなスズモトの世界が好きで。

 だからつまり。

 答えは、ひとつしかない。

「オレ、スズモトが好きだから。惚れてるから。ゴメン」

 ため息が混じる。

 阿部は、そういうんじゃないと思ってたんだけどな。

 気の置けない女子、が、警戒相手に変わる。

 スズモトに嫌がらせすんな、と、言うべきかどうか迷う。

 阿部は卑怯なことは、しなさそうだけど。

 オレが断った相手が、スズモトを呼び出してオレに近づくなとか言ったという話を、友達経由でたまに聞いていた。

 付き合いだしてから、そういう話はぱったりなくなって、安心してたんだけど。

 でも、これまでの話を聞くと、どうも、女って、信用できないというか……。

 阿部が俯いて、言った。

「モモがそうでも、鈴本さんはどうなの? 最近、仲良いよ。生徒会長と」

「生徒会長?」

 スズモトと生徒会長って、接点あるか?

 オレの疑問に、阿部が答える。

「数学クラス、一緒だから。仲良いよ、ふたり」

「仲良い、って……」

 スズモトと仲良い男なんか、見たことない。

 スズモトから、用もなく男に話しかけることが、そもそも、ない。

「今度、見ればいいよ」

 阿部が吐き捨てる。それから顔を上げて。

「ね、モモ。あたしと付き合って」

「いや、だから」

 オレはスズモトが好きなんだって、と繰り返そうとした途端、抱きつかれた。

 阿部はちっさくて、なんか全身柔らかくて。体の前面にくっついてくる初めての感触に、焦る。

「ちょっ……! 離れろって!」

 肩をつかんで引き離す。肩が華奢で、慌てて力を緩めた。

 こっちが手を離したところで、阿部の手がオレの顔の方に伸びてきたから、その手首をつかむ。

 阿部が、あ、という顔をした。

 え? と振り返ると、スズモトが教室から出ていくところだった。

 いつの間に。

 どこまで見られた!?

 つーか、この状況で何も言わずに行くか!?

 ちょっと待て!

 慌てて追いかけようとして、阿部に腕をつかまれる。

「モモ!」

「離せって!」

 突き飛ばしたら怪我させる。力加減がわからない。

「明日数学クラスあるから! それ見て決めてよ!」

 オレの腕に抱きついたまま、阿部が叫んだ。

「とにかく離せ。オレはお前のことそういう風にみれない」

 イライラと言った。スズモトに追いつけない。

「……ごめん」

 阿部がおとなしく離す。

 カバンの中で、ケータイが震える音がした。

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