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手をつないでて-1-

--鈴side--


 私とモモが付き合い始めたという噂は、付き合いの申し込みを受けた翌日、爆発的に校内に広まった。「桃井が中学の頃から鈴本さんに一方的に惚れていて、鈴本さんがついに落ちた」という、私の認識とは少々違う情報が必ず尾ひれについていた。

 移動教室のために廊下を歩けば、ほらあの人、あああの子、と下級生や上級生にまでささやかれていた。その尋常ではない広まりかたに身を竦ませつつ、噂を流した人物に心当たりがあった。

 おそらく、私を気遣って噂を流したのだということも、わかった。

 ――― 鈴本さんって桃井くんと付き合ってるの、云々。

 ――― 付き合ってないんだったら協力を、云々。

 ――― あんたなんか釣り合わないんだから桃井くんに近づかないでよ、云々。

 日常茶飯事だったそんな面倒事が、噂のおかげでぱったりなくなって、ずいぶん楽になった。

 その代わり、付き合い始めて2週間ぐらい経った頃から、ぽつりぽつりと嫌がらせが届き始めた。

 最初は、教室だった。

 移動教室から戻ってきたら、机の上に見慣れないプリントが一枚載っていた。

 英語の課題プリントだった。誰か置き間違えたのか―――そう思いながら持ち上げて、紙の後ろに透けている文字に気づいた。

 別れろ 暗い女

 透けてる文字は、反転してそう読めた。

 筆跡をごまかすような、角ばった文字だった。裏に、マジックで、大書きされている。

 明らかに私宛だった。

 その場で裏返して見るようなことはしなかった。

 辺りを見回すこともしなかった。

 自分のもののように、その場でそっと、プリントを机の中に仕舞った。

 私の席は、そのとき、教室のど真ん中だった。

 同じクラスの人か、違うクラスの人か、わからなかった。

 上級生や下級生が教室に入ってくればさすがに目立つ。

 だから、犯人は同学年の女子だろうということだけしかわからなかった。

 ただ、これから増えるだろうなと漠然と予想した。

 その予想は的中し、日に日に届く数が増えていった。

 最初は、数日おきに1通だったのが、ある時点から、一気に毎日数通に増えた。

 個人的な嫌がらせが、どうやら組織化したらしかった。

 相手は複数だった。筆跡をごまかしていたって、わかる。角ばった文字にも筆跡は表れる。

 入ってくる紙の種類も、プリントの裏紙から付箋、小さなメモと、バリエーションに富んでいた。

 私はその全てを、証拠品として、無言で保管した。

 ノートや教科書に落書きされたら嫌だな、と警戒していたが、そういうことはなかった。

 持ち物がなくなることもなかった。

 さすがに物損に及んだら、こっちも反撃する。先生たちに訴える。

 進学校なだけはある。みんなそこまで堕ちてはいない。バレて問題になるような、自分が不利になるようなことは、しない。あるのは、ただただ人目を忍んだ悪意だけ。匿名の罵詈雑言だけ。

 私が反撃しないギリギリのところで、彼女たちも嫌がらせを続けた。

 机に、靴箱に、更衣室に、移動先の教室に、図書当番のときの図書室カウンターに。

 どこにでもメモは紛れ込んできた。

 席替えがあっても、移動教室先でも、私の席は確実に把握されていた。

 クラスの中に犯人か共犯がいるのは間違いなかった。

 そしてメモの量からして、他のクラスの人たちが関わっていることも間違いなかった。

 犯人を特定するのは諦めた。

 私は、嫌がらせのことを誰にも言わなかった。

 下手に反応すれば炎上する。 

 だから、ただ、淡々と、嫌がらせメモを保管した。

 モモにだけは、絶対、気づかせない。隠し通す。それだけを決めた。

 その決意は、自分のためだった。

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