あたたかい世界/桃side
--桃side--
部活の後、直行すると、スズモトは教室にいた。
オレはなんにも言わずに勝手に教室に入って、スズモトの前の椅子に座る。
スズモトも、なんにも言わずに、広げていた勉強道具を机にしまう。
視線は合わないまま。
「スズモト、泣いた?」
オレ、また泣かせた?
「あのね」
泣かせても、オレはそれでもスズモトがほしいと思った。
「オレ、スズモトが好き。恋愛の、好き」
お前は『好き』を安売りしすぎだ、と竹居にいわれたことがある。
だから信じてもらえないんじゃねぇの、と。
だけど、オレからはやっぱりこの言葉しか出てこない。
「オレはスズモトが好き。スズモトがほしい。さわりたい」
ぱたり。スズモトの目から涙が落ちる。
でもオレは、スズモトが泣いても退かないと決めた。
「ね。スズモトはどうしたい?」
ぱたり。また涙が落ちる。
スズモトが何かを言いかけて、やめる。
オレは待った。
スズモトがうつむいたまま、小さく言った。
「……モモの、あったかい世界に……行きたい」
オレの、世界?
オレはバカだから、スズモトの言ってることがわからない。
「オレの世界って、ほとんど、スズモトでできてるよ?」
言ってから気がついた。
「……あ、だから、あったかいのかも」
オレの言葉に、スズモトが、涙目で少し笑った。
それをみて、とてもきれいだ、と思った。
スズモトの世界は、その目と同じで、静かで澄んでいるんだろう。
対して、オレの世界、は―――。
スズモトが真ん中にいて、あとは騒がしくて馬鹿ばっかりやってて、スズモトがみたら呆れそうなところだ。
だけど、スズモトが、来たいというのなら。
それを、あったかいと、呼ぶのなら。
オレは、そっと、両手をスズモトの机の上に置いた。
手のひらを、天井にむけて。力を抜いて。
驚かさないように。これ以上泣かさないように。
「案内する。オレの世界」
だからこの手をとって。
「付き合って」
スズモトがためらって、それから、こくりと頷いて。
オレの手のひらに、そっと手を重ねた。
触れている手のあたたかさを、とても幸せだと、思った。




