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爆弾幕の内弁当

作者: ぷよ夫

お題バトル作品“爆弾幕の内弁当”


・時計 ・設計図 ・嘘 ・好物 ・本棚


 できた。

 できたぞ、ぶわっはっはっは!

 苦節三十年、より正確に言えば三十一年と七ヶ月と三日。

 とうとう出来たのだ!

 ふむ、机の上にある爆弾型の時計を見るかぎり、間違いない。こいつは、千年先まで正確に時限爆弾の信管を起動させられる時計なのだ。

 わしが作ったんだから、間違いない。

「爺さん、なにニヤケてるのさ」

「黙れ小僧」

「いや、三十すぎの野郎を捕まえて小僧はありませんがな」

「じゃあ、おっさん」

「爺さんに、おっさん言われた……」

 一昨年あたりに飲み屋で知り合った若造が、なぜか俺の施設研究所に来ていた。

 最近は入り浸っているといっても過言ではない。

「で、あと幾ら投資すりゃいいのさ」

「もう少しだ」

「それは七十回くらい聞きましたが」

「これを見ても、まだそんなことを言うかね」

 わしは、本棚から設計図を引っ張り出し、借りた倉庫一杯の実物を見せ付けてやった。

「ええ、まあ」

「ふん。さしあたり、弁当を買ってきてくれ。最終テストの前に食っておきたい」

 いちいち喧しいので、弁当でも買いに行かせるとしよう。

 はす向かいの弁当屋は、味はいいのだが時間がかかるので有名だ。


 なーんすかね。

 二年前、駅前の居酒屋で昼間から焼酎カッ食ってた爺さんが居たんですよ。

 科学者だとかなんだとか、面白い話をしてるから、一杯おごってやったわけ。ネタならネタで面白い話を聞かせてくれたから、ネタ代としてさ。たった千円だけっすよ。

 そしたら、その爺さんマジなんすよ、大マジ。

 某国立大の博士号なんて持ってるの。工学なんとかの専門だとか。

 俺は経済学が専門だから、ちんぷんかんぷんだったけどね。

 でも、たいしたもんで、投資した分はそれなりにいいもの作って、俺の商売のたしになるわけ。爺さんときたら商売についてはカスなんで、お互い利害が一致してるのさ。

 ところが、最近になって気がついたんだけど、どうも裏で胡散臭い研究をやってる。

 時間軸がどうたら、磁力線がどうたら。

 さっぱりわからないけどさ。

 まあいいさ。

 爺さんの作るものは、半分くらいはいい稼ぎになるから。

 と思いながら戸をくぐた弁当屋、やたら時間かかる割には、たいして旨くないから困る。

 でもしょうがない。こんな倉庫街じゃ、ほかに店もないから。

「すんませーん、幕の内弁当ふたつ」

 俺は近所の弁当屋のカウンターから、爺さんの“好物”を頼んだ。 


 ぐぬぬ、思ったよりも充電に時間がかかる。

 やはり100Vの家庭用電源では、イマイチ安定しない。

 なんとか昇圧回路を作ってごまかしているが、時間はどうしてもかかる。

 ついでに、倉庫全体がホカホカしてきた。

 昇圧回路のおかげで無駄に電気を食い、その無駄はキッチリと熱エネルギーに化けている。おかしい、わしが作ったというのに。

 まあ、よい。時間をかければすむことだ。

 うぬ。

 ぐぅ。

 腹が減った。

「ただいま、爺さん。弁当買ってきましたよ」

「おお、すまんな。ちょうど食いたかった頃だ」

 充電にはマダ時間がかかる。飯を食って待つとしよう。

 弁当箱のふたを開け、ホカホカの弁当にありついた。

 同じホカホカでも、これは素晴らしいホカホカだ。

 そして一口。うむ、旨い。

 

 ……不味い。

 そして激辛。そこの時計みたいに、まるで爆弾だ。

 が、爺さんの機嫌を損ねてもしかたないので、旨そうに食うとしますよ。

 これが本物なら、一生遊んで暮らせるだけの金が入るはずだし、それなりに投資してきたんだからさ。

 おかげで、俺の眉毛は唾液の付けすぎででとろけそうになってるけど。

 何度も、設計図見たし、実物も作りはじめから何度も見てるが、なんだかさっぱりわからないのさ。本邦初にもほどがあるものだから。

 知り合いの設計屋にも見てもらったけど、「なにやってんの、これ?」って言われる始末さ。そして、眉毛に唾をもうヒト塗りしておいた。コケても死なないように。

 図面の端っこに“タイムマシン”とか書いてあるわけよ。眉唾とはこのことさ。

「ほれ、なにをぼーっとしておる。世紀の大実験の前に、ちゃんと食っとけ」

「はあ」

 この爺さんが作るもの、地味なもののほうが儲かるんだけどなあ。


 小僧、いや若造が弁当を食う様子が、なんだか不満そうだ。

 致し方ない。

 いくら旨いからと言っても、毎回同じ店の同じ献立では、な。いや、季節ごとに中身は変わっているはずだが。

 さて。

 わしのほうは、食い終わった。

 適当にペットボトルのお茶をカップに注いでぐいと飲む。

「よし、はじめるぞ」

「まだ食ってるんすけど」

「はよ食え」

 そしてしばし待つ。

「ごっそーさん」

「実験開始!」

「はえーっす!」

 だまれ。

 そして、スイッチオン。

 冷却システムのモーターが回りだし、きっちり充電されたバッテリーから電気が供給され始めた。

 あとは、時間の問題だ。


 なんともうるさい機械だなあ。

 近所迷惑にもほどがある、といいたいところだけど、だだっ広い倉庫街でちょっとばかり騒音をぶちまけても苦情なんて来ないさ。

「さあ、あと少しで起動するぞ」

「たのしみですねー」

 興奮気味の爺さんと、棒読みの俺。

「ほら、さん、にい、いち!」

 監視用のモニタが突然動き出し、画面に時刻が表示された。

「で、これからどうなるんすか」

「いいか、こいつはしっかりと水平に設置した状態で地磁気と、太陽や月、星の動きを観測し、そこから地球の自転状況を把握してだな」

 いやな予感がしてきた。

「現在の時刻を表示する装置じゃ」

「なんですとおおおおおお!!」

 コラオドロイタ。

「タイムマシンと言ったじゃろう。嘘はついておらん」

「これでいいじゃねーかっ!」

 ぱこっ!

 俺は、爆弾型時計を爺さんに投げつけた。

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