セルリアンタワー殺人事件 3
神ノ木刑事にとってはじめての捜査です。
というわけで今回は神ノ木君視点です。
捜査会議が終わり刑事課に戻ってきた僕はハッキリ言って地に足がつかない状態だった。
テルさんからは「不謹慎だ!」って怒られちゃったけど、捜査ができるうれしさからかな?
その反面、不安の方が大きいのも事実、あんまり最前線も怖いなって。それはそれで今度は係長に怒られそうだ。
暫く捜査資料に目を通していると、郡課長が戻ってきた。
「え~、捜査の割り振り決まりました。粟飯原君とテルさんは害者周辺の聞き込みお願いします」
お…聞き込みか…いよいよ刑事らしくなってきた。
「芳形君は捜査本部で情報要員」
どういう意味かと思ったらお留守番らしい。ひかるさんふくれっ面になってた。
「で、神ノ木君は管理官と目撃者のところに行って」
「えぇ?僕がですか?それなら僕じゃなくてひかるさんのほうが…」
これには驚いた。刑事になって二日目の僕が何故…
「管理官のご指名、キミの車に乗ってもらうから」
あ、要するに運転手ね…
「お偉いさんの相手ってまだ苦手なのよね、あたしじゃなくてよかった」
何?このひかるさんの変わり用は…思わず、
「ひかるさん酷い…」
って言っちゃった。
管理官が出発するというので僕は車を出して、管理官を後部座席に乗せて目撃者の会社に向かった。
警備会社KEISOは署から程遠くない高樹町。高速乗るまでもない。10分足らずで着いた。
受付で警察手帳を出す。
「警視庁捜査一課の楠です」
「渋谷西署の神ノ木です」
「今回の殺人事件の目撃者である小幡さんにお話を伺いたいのですが・・・」
応接室に入ると既に本庁の刑事が4名、目撃者を取り囲んでいた。
目撃者、小幡さんは見たところ60代半ば。小柄な女性だ。
「あなたのタイムカードを拝見すると死亡推定時刻はビル内にいた事になります。」
「他に目撃者がいないということはあなたは一人でビルにいたのですか?」
「犯人の侵入経路は、一般の人でも出入りできるような場所だったのですか?」
本庁の刑事は次々とまくし立てる。その刑事たちに管理官が一喝する。
「君達、いい加減にしたまえ!それでは取り調べではないか?」
刑事たちも反論する。
「しかし、他に目撃者がいないのです。犯人の可能性だってあるんです」
管理官も負けちゃいない。
「そうやすやすと犯人と決め付けるな!その証拠はどこにあるんだ!それにだ、私は他の目撃者を見つけることを命じたはずだ!こんなところで何をしている!」
これには言い返せない。そそくさとその場を退散していったんだけど、いちばんうしろにいた刑事が吐き捨てた言葉を僕は聞き逃さなかった。
「こんな甘っちょろいことで事件が解決するとでも思っているのか、田舎者の小僧が…」
管理官は小幡さんに向き直って話を始めた。
「失礼いたしました。警視庁捜査一課の楠です。ゆっくりでかまいませんので事件のあったときのこと、話していただけますか?」
で、ようやく口を開いたかと思いきや…
「わたしゃああの時はいつもの人が風で休んでて代理でいったんだよぉ。はじめての場所だから避難口とか搬入口とかを確認していたわけサ、あんな時間だから大体の会社のお部屋は鍵がかかっているわけよ。でも社長室だけは開いてたからおかしいなぁと思って覗いたら人が寝てるじゃないのさ。呼んでも起きないから電気を付けたら喉から血が出てるじゃないのさ。わたしゃあ慌てたねぇ、すぐ卓上の電話機から110番通報したってわけなのよ」
は…早口だ…
「それがなんなんだい、いまどきの刑事ってのは目撃しただけで犯人扱いするのかい?そりゃあたしかに若い頃は武蔵野小町なんて言われてモテたもんよ。でも時っていうのは残酷ね、もう誰も見向きもしないじゃくぁwせdrftgyふじこlp」
愚痴になってきちゃった。管理官を見たら眉間にシワが寄っちゃってる…
ひと通り聞いたところで一礼をし、警備会社を後にした。
「結局、何の情報も得られませんでしたね…」
「まぁな。しかし見たろ、あの刑事たちを。本庁の刑事というだけでプライドばかり高く何をしてもいいと思っている。何とかして自分の手柄にしようと必死なんだ。あれをキミに見せられただけでも良かった。これが刑事の現実なんだってな」
「そうだったんですか・・・それで僕を運転手に?」
「あぁ、知っていると思うが捜査一課はノンキャリアの牙城だ。我々キャリアをよく思っていない連中もいる。嫌がらせも当然うけた。そんなことだから私が管理官になってから検挙率は下がる一方だ。だからな、警察機構を変えたいんだ。皆で協力しあって開かれた捜査をしたいんだ。」
管理官はキャリアとしての使命を持って管理官に志願したんだな。やっぱりすごいやこの人は。
「そう、ですか…昔の刑事ドラマで『正しいことをしたかったら、偉くなれ』てあった気がします」
管理官は頷きながらこう言った。
「その通りだ。組織を変えることは、中から変えていかないといけないんだ。それは我々キャリアの仕事だ。私はこのことを副総監から教わった」
副総監…僕や管理官と同じ北大出身で、上まで上り詰めた人だ。僕はまだお会いしたことはない。管理官は続けた。
「君も北大出身だったな…東大閥はもはや都市伝説、我々で新しい警察を作っていこう」
そう話しているうちに、警察署に到着。管理官は特捜本部へと向かい、僕は刑事課に戻った。
警備員=マシンガントークってどっかで見たことあるって言わないのっっ!
しっかし長くなったなぁ…