渋谷の九龍城砦 5
神ノ木君と羽根田刑事が内偵の指示を受けた時、生活安全課に首を突っ込んでいた人もいます。
今回は、ひかるさん視点です。
佐波さんが女子大生取り調べするから女性が必要らしく、あたしは生活安全課に駆り出されている。
本来なら依藤さんが取り調べをするはずだったんだけど、トラブルがあって刑事課に呼び出されてるらしい。
女子大生の名前は、「木下正美」。お金はもらっていないというので逮捕も出来ず、釈放した。
なんか少女売春がどうだと言っていたから生活安全課の追っていた組織かと思っていたけど違うみたい。
佐波さんと残念がっていると依藤さんが戻ってきた。
「あ、ひかるちゃんありがとね。で、どうだった?」
「お金もらってない自由恋愛だっていうから帰しちゃいました。所持金見たら1万円しかありませんでしたし。」
しかし依藤さんはなにか突っかかる所があるみたいで、
「その子の名前、聞いた?」
佐波さんが慌てて、
「木下正美、19歳です。持っていた学生証で確認が取れました」
「ふ~む・・・何か引っかかるのよねぇ・・・」
「しかしボス、19歳だったら少女売春になりませんよね?」
佐波さんが不審がって尋ねる。まぁ、売春じゃないなら18歳以上だから条例には抵触してないけど。
この事件なんか裏があるのかしら。
あたしもなんか怪しいと感じたので、依藤さんに聞いてみた。
「あの・・・この事件、もしかして別件逮捕だったんですか?」
別件逮捕とは、本件取調べ目的で、逮捕の要件を満たす他の事件について被疑者を逮捕すること。またはそのための手法のこと。だけど逮捕してないよのね・・・。
佐波さんもなにか感づいたみたい。
「もしかして、あの九龍城砦ですか?」
九龍城砦?聞いたことがある。道玄坂の南側に位置するあの大きなマンションのことだ。付近を通ったことはあるけど中に入ったことはない。
よりフジさんは眉間にシワを寄せて不機嫌な顔、そこに、テルさんが入ってきた。
「おいおい・・・勝手に犯人と決め付けんじゃねぇよ・・・」
依藤さんが驚いてテルさんに突っかかる
「どういうことですか?」
「まぁまぁ落ち着けって・・・さっきまでな、そこの大学に行って事情を聞いてきた。その子は、普通の女子大生だ。サッカー部に在籍してるとよ、それも選手でだ。佐波、そいつは平良とどこで知り合ったか言ってたか?」
「えぇ、SNSで知り合ったとか言ってました。恐らく本名は名乗っておりません」
「そうだろうなぁ・・・SNSのやり取りも見させてもらったが怪しいところは1つもない。女子大の大学生だ。男っ気なしで寂しかったんだろうよ」
確かに女子大だと出会いの機会はぐっと減る。あたしも女子大だったからそこらへんはわかる。高3の時振られてからこの歳まで彼氏なしだもんなぁ・・・
テルさんは依藤さんに向き直り、諭すように、
「今夜、ウチの課長代理と九龍城砦に行ってくるよ。何かつかめるかもしれん。あんたらは顔が割れてるから都合がわるいだろう。首突っ込んじまった侘びだな」
依藤さん、すぐ期限を直したみたいで、
「本当ですか?助かります。あたしが行くと連中逃げ足だけは早いんだから・・・」
こっちの事件の方は解決したので、あたしとテルさんは刑事課に戻った。
女子大生の方はぜんぜん問題なかったそうです。
しかし何故、平良が殺されたのでしょうか・・・
次回、テルさんと粟飯原さんが乗り込みます。