道玄坂の暗雲 6
ニュークラブ ミュールに向かった羽根田刑事と神ノ木君。
通報があったため向かっています。
今回は、神ノ木君視点です
課長代理と交代で署に戻った僕は、今度は羽根田係長代理と一緒に動く事に。
場所はさっき僕が通報を受けた「ミュール」というニュークラブ。
「何かあったら絶対しょっぴいてやる。裏が絶対あるからな、こういう店は」
どうやら羽根田さんはニュークラが嫌いらしい。
「どーしたんですか?そんなに息巻いて」
僕は訪ねてみた。
「あのね、ニュークラブなんて言っているけど所詮はキャバクラだ。」
「え?ミュールってキャバクラなんですか?すすきのに沢山ありましたけど僕は行ったことないです。」
そう、ニュークラとキャバクラじゃ意味が全然違う。僕は続けた
「キャバクラって言ったら、オサワリが出来るあれですよね?」
「え?違うよ。キャバクラって言うのは、ただ女の子が隣に座るだけだよ。」
「そうなんですかぁ?それじゃあ詐欺じゃないですか?」
「何が?」
「女の子が隣に座るだけだったらニュークラですよ。成人式の日に行きました。」
「そうなのか・・・神ノ木君は出身どこ?」
「生まれは北海道の森町で、大学時代は札幌にいました」
「あぁ、なるほど。北海道とこっちは呼び方が違うのさ」
そうなんだ・・・じゃあ僕の知ってるキャバクラは東京ではなんて言うんだ?
そう思いながら僕らは、ミュールに到着した。
通報通り、黒服の男がエレベーター前で張っていた。
羽根田さんが切り出す。
「あの〜ミュールってここでしょうか?」
すると、黒服が訪ねてきた。
「えぇ・・・そうですが、どなた様かのご紹介でしょうか?」
「いえ、そう言うのは無いのですが・・・。一応こういうもんでして」
そういうと羽根田さんが警察手帳を見せた。
「渋谷西署の羽根田と言います。」
僕も慌てて警察手帳を出す。
「同じく渋谷西署の神ノ木です」
すると階段から別の黒服が出てきて僕に襲いかかってきた。
「警察が何のようだぁ!」
手には鉄パイプを持っている。僕はすかさず持っていた特殊警棒で応戦した。
小手で鉄パイプを落とし、返し胴で鎮めた。。。警察大学校で学んだ剣道が役に立った。
ふと羽根田さんの方を見ると既に相手は気絶していた。
「一応俺、少林寺拳法四段だから」
へぇ・・・外神田署の事件の時取り押さえたのは聞いていたけど、ここまで鮮やかだったんだな。
「じゃあ神ノ木君、入らせてもらおう」
エレベーターで4階へ、ミュールの店内に入る。
「いらっしゃいませ」
店長らしい黒服が声をかけてきた。僕は訪ねてみた
「あの〜、したにいた人たち、倒れているんで手当てしてあげた方がいいですよ」
「え?あいつらが?またウチに嫌がらせしているのか・・・最近エレベーターの前でウチに来て頂けるお客様を妨害しているんです。おかげで商売にならなくて・・・いったいどなたが・・・。」
僕が警察手帳を出そうとしたら、羽根田さんが静止して言った。
「いやぁ、いきなり襲いかかってきたからぶっ倒しましたよ、奴ら当分はこないと思いますよ」
「そうですか、あなた達が・・・ありがとうございます。今回1セットだけサービスさせて頂きます、ご指名はございますか?」
「いえ、今回初めてなもので・・・。」
「かしこまりました。フリー2名様ご来店です」
僕たちは席に通された。しばらくして女の子が二人。「梓」って子と「アンナ」って子。
僕の隣に梓が、羽根田さんの隣にアンナが付いた。
アンナが羽根田さんに聞いてきた。
「おにいさん達、仕事何してるの?」
「え?僕ら?ITの下請けやってるよ。今日はコイツの歓迎会」
と言いながら僕に目配せする。そうか、刑事だとバレたら捜査しにくいか。僕も合わせる事にした。
「え・・・えぇ。そうなんです。半年前に北海道から出てきて、今の職場にお世話になってます」
したら梓が驚きながら
「えぇぇぇ、北海道なんですかぁ?あたしも北海道なんです。去年の春にこっちに来ました。室蘭の短大を出て、今専門学校に通ってます。」
え?僕より年下だったんだ・・・・まぁ、不思議ではないな。
羽根田さんが僕に尋ねてきた。
「神ノ木君、この町は皆が夢を持ってやってくる。そんな町なんだ。表向きは凄く華やかだよね?」
「えぇ・・・そうですねぇ、正直驚きました。すすきのも凄かったけどここはもっとですね?」
「そうだろう、そうだろう、でも、犯罪も多いんだよね。パトロールしている警官多いでしょ?」
「まぁ・・・そうですねぇ、ドンキの前に徒歩暴走族みたいなのが出たみたいですし」
こんな話をしていると、アンナが話しかけてきた。
「そうそう、去年この辺で殺人事件が起きたのよ、知らないと思うけど」
知らない訳が無い。ウチの管内で起きた事件だ。しかし、今は僕はIT関係(?)らしいので話を合わせる事にした。羽根田さんも話を合わせに行っている。
「あぁ、知ってる知ってる。新聞で見たよ。僕あの時秋葉原にいたんだけどさ、大騒ぎだったもん」
なるほど、外神田署管内でも何かやってたんだな・・・。
アンナは続ける。
「あの事件の後、ウチの女の子が一人飛んだのよね。」
僕が逆に訪ねた。
「飛んだ?ってどういう事ですか?」
「突然やめちゃったって事。ハルって名前なんだけどさ、こないだ潰れたクラブによく行ってたみたい。本名は知らない。」
梓が何かを思い出したように
「それ聞いた事あります、殺人事件の前後にいなくなったって。女の子が飛ぶってキャバクラではよくある事だから通報はしなかったみたいだけど」
羽根田さんが女の子達に尋ねた。
「へぇ〜、じゃあ連絡付かないんだ」
「うん、携帯番号変えちゃったみたい。お客も変なのが多かったからあたしとしてはせいせいしてるけど」
僕も納得しながら
「しかもその殺人事件の犯人は捕まっていないか・・・なんだか怖い話ですね。捜索願とかは出してないんですか?」
「出す訳無いじゃん。それに、刺青14カ所も入っているからすぐ分かるでしょ?」
刺青が14カ所・・・これは尋常じゃないな。羽根田さんも驚いている
「刺青が14カ所もあるの?よく働けたねぇ」
「あたしも変だとは思いましたよ。でも、よくわかんない」
時間が来たというので、女の子のドリンク代を割り勘し、店を後にした。
僕はぽつりとつぶやく
「思いがけない収穫でしたね・・・あの事件に絡んでいるかもしれないなんて」
これには羽根田さんも納得している。
「まぁまだきまった訳ではないし、捜索願も出ていない。捜すのはこんなんだろうな。一応明日報告入れよう。僕は当直だから署に戻るよ。君はどうする?」
「まだ電車ありますから帰ります。明日は僕非番ですので報告お願いいたします」
「分かった。大きな事件だと呼び出すから携帯は切らないでよ、それじゃお疲れ」
羽根田さんと別れて僕は帰路についた。
1年前の事件とミュールのハル。
何かつながりがあるのでしょうか?
お話はもうちょっと続きます。