道玄坂の暗雲 1
殺人事件が解決し、渋谷西警察署は日常に戻りました。
今回は神ノ木刑事視点です。
事件解決後、僕は家に帰ってバタンQだった。係長はこんなの序の口だなんて言ってたけど、刑事って仕事大変だなぁ…。ってヤバい遅刻じゃん、僕は慌てて家を後にした。
ぎりぎりの時間で刑事課に入ると、郡課長が人を連れて僕達のところにやってきた。
「え~、ちょっと聞いてくれ。強行犯係にもう一人刑事を配属させることになった。羽根田警部補だ。強行犯係長をやってもらう。だが慣れるまでは代理だ。え~こちらから、粟飯原警視…」
係長はタバコを持った手を上げた。
「そして、耀巡査部長…」
テルさんは新聞から目を離さない。
「芳形巡査…」
「よろしくお願いします」
ひかるさんはたって挨拶。そして僕の方を叩き、
「こちらは神ノ木警部補」
「よろしくお願いします」
僕もたって挨拶した。席は僕の向かい側になった。早速係長(は羽根田さんだから今度から課長代理って呼ぼう)のところに行って話をしている。
「今までこれだけの人員でやってたんですか?」
「あぁ、異動に定年退職が重なっちゃってね…」
課長代理の口調が少し重い、それもそのはず、それに殉職も重なったんだから・・・。
「そうですか、あの神ノ木さんって若い刑事、彼、警部補なんですか?」
「あぁ、キャリア組だ。しかしキャリアであろうと後輩は後輩。そこはわかるな?」
「えぇ、警察の現場知ってもらって俺達のために偉くなってもらわないと」
え?僕のこと話してる?
「でもな、昨日まであった殺人事件の被疑者逮捕したのこいつだからな」
すかさず僕はさえぎる
「ちょっと待ってください、あれは課長代理が見つけてテルさんが連れてきたから…」
「たしかにそうだ。でも手錠をかけたのはお前だろう?」
確かにそうだけど…楠管理官のサポートがなかったらどうなってたか。羽根田係長代理も、
「え?そうなの?もっと自信持っていいんじゃないか?」だってさ。
まぁでも、刑事としての自信ってこういう所から付くのかなって正直思った事件だった。
その時、パンツスーツのスラっとした女性が刑事課に入ってくるなり、
「粟飯原~~」
って言いながらこっちに来た。
「粟飯原お願い、今日管内パトロールするんだけど、誰か貸してくれない?今うち一人ロスに研修行ってるから人足りないのよ」
生活安全課も大変だなぁ…若者の街だからパトロールは必須なんだろうけど。
「俺は嫌だよ。ガキの相手なんざごめんだ」
テルさんはぴしゃり。するとその女性は、
「ところがどっこい今回の目的は大人なんですねぇ~!ってことで…ひかるちゃんにはいつも手伝ってもらってるから…そうだ!このボーヤ借りていい?」
え?僕?いくらなんでもそりゃないだろ…。しかし課長代理は、
「まぁ、今大した事件ないから神ノ木行って来い!刑事の現場は捜査だけじゃない、これもひとつの勉強だ」
「交渉成立、神ノ木君だっけ?あたしについてきて」
とまぁ、手を引かれて一つ下の階、生活安全課へと向かった。
生活安全課は部屋の雰囲気は刑事課と同じ、ただ違うのはスーツ姿の人が一人もいないことぐらいかな?
「課長~!強行犯係から一人借りてきましたぁ」
と一番奥にいる課長にその女性は報告。え?郡課長?どうして?
「あぁご苦労さん…ってなんで神ノ木君なんだ!彼はキャリアだぞ、何かあったらどうするつもりなんだ?」
そりゃ課長も驚くわな…僕も驚いたけど。
「それが、粟飯原が何事も勉強だって。大丈夫ですよ、あたしのサポートしてもらうだけですから」
「依藤君、くれぐれも危険のないようにな!」
そう言って課長はゴルフクラブを磨き始めた。
「あ、自己紹介遅れた。あたしは生活安全課の依藤、神ノ木君だっけ?今聴いたと思うけど、今日から暫くあたしのサポートしてもらうから。さ、行くよ」
と言われ依藤さんのアルファロメオに乗り込んだ。
車中聞きたいことがあったので聞いてみた。
「あの、郡課長って生活安全課の課長もやってるんですか?」
「そう、兼任。ウチの管内刑事課と生活安全課で職務が被ることが多いのよ。だから各課に課長代理がいるでしょ?あたしがうちの課長代理、そっちの課長代理は粟飯原」
なるほどなぁ、少年犯罪やら薬物が絡んでいたりするとそうなるよなぁ…ちょっとまてよ…
「あの、今粟飯原って言いましたよね?そんなに親しい関係なんですか?」
「え…?あぁ、粟飯原は大学と大学院の同級生。警察大学校も同期。一応あたしら準キャリアなのよね。普通一つの所轄に二人いるなんて無いから珍しい現場みたわね」
そういう事か…鬼の粟飯原に対してずいぶん馴れ馴れしい人だなぁって思ったけどそんな裏があったのか。
そんな話をしているうちに渋谷109前についた。
「今この時間センター街歩行者天国だから歩いて行くよ」
とのことで、駐車場に車を止めて歩くことにした。
生活安全課に手伝いで借り出されてしまいました。