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石の記憶 外伝 トムくん奮闘記 その19


結婚式の日――お待ちなさい


「お待ちなさい」

その瞬間だった。

老紳士の姿を見たキャサリンが、小さく呟いた。

「……お父様……」

顔から血の気が引いていく。

「まさか……そんな……今になって……」

その様子を察したヒロが、すぐに妻を抱き寄せた。

キャサリンは夫の胸元に身を寄せながら、震える声で呟き続ける。

「どうして……今さら……」

そんな母の気配を感じ取ったトムが、すっと前に出た。

母と、そして妻となったばかりのクリスティンを守るように、二人の前に立つ。

「誰だ? じいさん?」

老紳士はトムを見つめた。

そして、重い口を開く。

「私は……お前の祖父だ」

「……は?」

「事情があって、今まで名乗ることができなかった」

トムは眉をひそめた。

「嘘だ」

即答だった。

「じいちゃんとばあちゃんは、俺が赤ん坊の頃に相次いで亡くなった」

老紳士は苦しそうに目を伏せる。

「いや……それは違う」

その言葉を聞いた瞬間、キャサリンが声を上げた。

「なんで……」

震える声だった。

「なんで今さら……私たちを追い出しておいて……」

トムは母の言葉を聞き、老紳士へ向き直った。

「誰だか知らんけど、じいさん」

声は低かった。

「母さんを追い出したのか?」

老紳士は答えない。

「なぜだ?」

トムが一歩踏み出す。

「質問に答えてもらおうか?」

老紳士は言葉に詰まりながら、ようやく口を開いた。

「それは……お前が……有色の男と……」

その瞬間。

トムの表情が変わった。

「……まさか」

怒りが声に滲む。

「じいさん、父さんと結婚したから追い出したのか?」

老紳士は何も答えられない。

「高貴な白人様から見たら――」

トムの声が震える。

「有色人種の俺たちは、猿以下だもんな」

「トム……」

クリスティンが心配そうに彼の腕に触れようとする。

だが、トムは目の前の老紳士から視線を逸らさなかった。

「許せない。この――」

その言葉を遮るように、女性の声が響いた。

「お待ちなさい」

静かな声だった。

だが、その一言だけで、教会の空気が変わった。

人々が一斉に振り返る。

そこに、一人の女性が立ち上がっていた。

かつてはさぞ美しかったであろう、整った顔立ち。

後ろでまとめられた白髪。

そして、白い肌によく映える淡い色のサマードレス。

シモンズ牧師の母。

そして、シモンズ家の長――

ミルドレッド・シモンズだった。

フレッドが小さく呟く。

「ミルドレッド……いや、ミリー」

その眼差しは、老紳士へ向けられていた。

思いのほか、優しかった。

ミルドレッドはゆっくりと老紳士の前へ歩み出る。

「あなたですね」

静かな声だった。

「息子に懺悔を求めたのは」

老紳士が顔を上げる。

「……ハーパーさん、でしたね」

「……そうです」

「では」

ミルドレッドは穏やかに尋ねた。

「どの辺を探したのですか?」

「……オハイオと、その周辺の州を」

「そうですか」

ミルドレッドは頷いた。

「私はオハイオに土地を持っていました」

「アメリカがどれほど広いか。そして、州ごとに法律まで違う」

ミルドレッドの声には、責める響きはなかった。

ただ、事実を確認するような静かな口調だった。

「探すのがどれほど困難だったか……」

そこで一度、老紳士の目をまっすぐ見つめる。

「お分かりでしょう?」

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