引き離されかけた双子の姉妹はある日消えた
※毎度恒例、仲良し姉妹物です
私と姉は全く似ていない。私の顔は自分で言うのもなんだが、派手なのに対し、姉はよく言えば清楚、悪く言えば地味な顔立ちをしている。
けれど、人の心が表情に現れると言われているように、姉はいつも穏やかで見ているだけで安心する笑みを浮かべていた。
私は姉が大好きなのに、周りは私から姉を引き剥がそうとする。
私に相応しいのは華やかな人々で、姉は相応しくないのだと。
私がどれだけ姉を慕っているかを語っても、誰も話を聞いてくれず、遂には姉を一人離れに幽閉してしまった。
私を思ってなど言いながら、全く私の言葉を聞こうとしない人間の何処が私のことを思っていると言えるのか。
あまりにも腹が立ったので、私は姉を連れて家からも国からも出奔する事にした。
何が王子の妃だ。姉を見下すような男に好意など持てるものか。
姉と私は双子の姉妹だから、特別な魔法が使えた。当たり前のように使っているけれど、もしもその魔法がなかったらもうちょっと大変なことになってたのだと思う。
『リリ、昼間に私が引き付けておくから、リリは冒険者ギルドに登録しておいて』
『貴方はどうするの?』
『機嫌が悪いから部屋に誰も来るなと命じた日に作っておいたわ』
『その顔は騒ぎにならなかった?』
『色変えの魔法を使ったわよ。髪の色と目の色を変えて、前髪を下ろして眼鏡を掛けたら案外バレないよ』
『手馴れてるわね。前世の記憶と言うやつ?』
『うん。美貌ダウンメイクも駆使したの』
姉のいる離れと私のいる部屋位の距離ならなんの支障もなく使える『精神感応』のお陰で、夜な夜なこうして会話が出来ている。
そして姉が言うように私には前世の記憶があった。
美人に憧れがあり、メイク動画などを漁っていた日々。
だけど、この世界で美人すぎるこの顔に生まれて良かったと思ったことは無い。
魔法のある世界で、私はとても自由に魔法を使っていた。
系統とか学問とかあるらしいけれど、お姉様のそばにいる精霊が『小難しい言葉わかんない。人間面倒。心の中で言ってくれたら分かるのに』と言っていたから試した。
とても簡単に魔法が使えたけど、わざわざ私を不快にさせるヤツらに教えることはないな、と思った。
姉にはもちろん教えた。精霊に愛される姉は沢山の属性魔法を使えて、やはり姉は素晴らしいと何度も尊敬し直した。
何時からか転移魔法を覚えてからは、かなり楽になった。誰にも見られない時間を作って私は少しずつ必要なものを集めていた。
極めつけは空間魔法を覚えて、小さな収納ポーチっぽいものに付与したら、ファンタジーあるあるのマジックバッグの完成。
侍女を追い出し一人になった部屋で、ちくちくとベルトに付けられるように改造したりして出奔の準備はしてきた。
姉が冒険者ギルドに登録したら、身分証を手に入れた事になる。
これがあるだけで他国への移動が楽になる。
『あ、リリ。冒険者ギルドに行った帰りに食料を手に入れておいてくれる?』
『分かったわ。あなたって本当に逞しいわよね』
『でしょう?』
私のことを見てくれるのは姉だけ。姉がいればもういい、と思わせる位にこの家の奴らは私の顔しか必要としなかった。姉をいらないものとした。
家族の情なんてものはない。
『売れるものは売り払ったし、資金もそこそこあるし、まずは隣国に行って、そこから更に東に行こう!』
『ああ。あなたが行きたがってた東方の国?』
『そう!前世と似たような食材がありそうなの』
姉を連れて行くことに始めは躊躇いがあった。本当に連れて行っていいの?ここにいたら貴族生活が出来るのに?と。
でも、こんな場所に一人置いていって、私だけ居なくなったら間違いなく姉は人の心がないあいつらに罵倒される。何をされるか想像もしたくない。
姉が「ルルと一緒に行くわよ?もちろん」と言ってくれた時、どれだけ嬉しかったか。
姉はリリエラ、私はルルエラ。双子だからよく似た名前を付けたのは親なのに、成長して顔立ちの違いが分かるようになると、似ている名前を理由に姉を罵倒する親が、理解不能の化け物に見えた。
双子だからどちらが姉でどちらが妹なのかなんて、私達の間では気にすることでは無いけど、姉をバカにするやつらを前に姉の名前を覚えさせたくなくて頑なにお姉様と呼んでいた。
だから、私だけが姉の名前を呼ぶ。親も兄も姉の名を呼ばなくなったから。
『リリエラ。私のお姉様。私の半身。逃げ切ろうね』
『ルルエラ。私の妹。私の半身。あなたと二人なら大丈夫よ』
◇◇◇
それから程なくして、侯爵家から二人の娘が消えた。
双子の姉妹の内、妹の方は大変美しいと評判で、いずれは王子の妃にと望まれていた。一方、姉の方は社交の場でも目立つことのない地味な女性だったと言う。
始めは妹の姿が部屋に無く、侍女が懸命に探し、人を増やして探しても見つからなかった。二日ほどして、離れにいるのではないかと誰かが言い、見に行ったが無人だった。その無人がこの家では異常事態で、この時にやっと姉も居なくなった事に気づいたのだと言う。
捜索の一環で、姉の方が妹から引き離すように離れに一人幽閉されていたという事が判明するのはあっという間だった。
それだけでなく、双子の仲の良い姉妹を似ていないから、妹の傍にいるには相応しくないから、と周りがこぞって引き剥がしていたのも判明した。
特に、妹の方を妃にと望んでいた王子は姉の方をこれでもかと馬鹿にしていたのは近くにいた者なら知っている。
世間はこの失踪事件には双子の姉妹の差別的扱いが根底にあるのでは、と囁いていた。誰も否定出来ないくらいに、周囲からの双子への異なる干渉は酷いものだった。
近くにいる者より離れた所で見ていた者の方が余程真実を理解していただろう。
妹の机には手紙が残されていた。失踪事件なので調査が入り、徹底的に調べ尽くすと見つかるような場所にあった、
『姉と私は双子で誰よりも何よりもお互いを唯一とする関係。それを引き離そうとする家族も周りも許せない。
特に姉を馬鹿にし続けた王子の妃になるくらいならば死んだ方がマシ。
私と姉は家を出ます。探すなら勝手に探してください。
二度とこの国に戻ることはありません』
姉は姉で日記に、日々どんな事を言われ、どんな態度を取られてきたかを日付入りできっちりと残していた。
妹と引き離される悲しみ。魂を引き裂かれるような辛さを切々と記していた日記は、確認の為に読んだ者の心を揺さぶった。
双子の姉妹にも関わらず、ここまで明確に対応に差が出ているのだから、もしかして妹には魅了の魔法の力でもあったのではと疑われたが、そんな痕跡は欠けらも無い。寧ろ、周り全員を憎んでいそうな雰囲気を感じた。
事実、妹にはそんな力は無い。あったとしても嫌いなもの達に好かれるなど悍ましいと叫んだことだろう。
双子は誘拐でもなんでもなく、二人の意思で家出をしたのだ。事件性は無いと判断した騎士団はその報告を提出した。
報告書を読んだ王妃は痛むこめかみを抑えた。
子供の教育や躾に差が出るのは仕方ない。嫡男とそれ以外は決して同等ではない。しかし、双子の姉妹を、美しくないからと虐げる感性は王妃にはなかった。
美意識はそれぞれだが、話を聞けば姉の方は醜いわけではないと言う。比較対象が双子の妹だから際立っていただけで、その顔は素顔の夫人に似ていると、夫人付きの侍女が語ったそうだ。
つまるところ、自分に似た娘を見ると憎たらしくなるのだろう。化粧で隠している素顔を姉の方が暴くのだから。
妹の方は、奇跡的にどちらの良いところを受け継いだからこその美貌だったようだ。
これ以上ないくらいに拒絶された王子は、何がなんでも妹の方を見つけろ、といって周囲から冷めた目で見られていた。
特に実の親である国王と王妃の失望は甚だしかった。
姉と共に行方をくらましているのだから、姉と共にいるのは分かりきっているのに、どこまでも妹の方しか考えないその思考を国王と王妃は危険を感じた。
幸いにして王太子は王子の兄であり、王子はスペアでしか無かった。しかし、そのスペアの役目を取り上げた。
何故、二人が消えたのか。明らかにこの王子も原因の一つだと分かったからだ。
偏った思考、極端な外見主義は差別にも繋がる危険な思想だ。とてもでは無いが、国政に携わる地位に置くべきでない。
兄である王太子は何度かパーティーの場で二人を見かけたことがあった。
顔に似た所は確かに無い。けれど、二人が共にホールから抜け出して庭園に向かう姿は仲睦まじいものであったし、動きがよく似ていた。
姉の腕に己の腕を絡めて甘える妹に、優しげに微笑みかけて声を掛けていた。
周りが余計なことをしなければ、二人はこの国にいただろう。
きっと二人は、この国から出て行き、やっと姉妹仲良く一緒にいられるようになった。
願わくば、二人の旅路が無事なものであるようにと神に祈った。
◇◇◇
「エル!いきなり走り出さないでちょうだい!」
「ごめーん!ねえ、見て、エリ!あそこ!海よ!」
「えっ!?待って、すぐ行くから!」
家からも国からも出奔した二人は、転移の魔法などを駆使しながら国境まで辿り着き、冒険者証を使って隣国に入国した。
しかしそこで足を止めるのではなく、隣国の王都にまで向かって冒険者ギルドで幾つかの簡単な依頼を消化した。
一番下のランクは長期間、依頼を受注しないと登録抹消となるので、下から二つ目になる事を目標とした。
二人は偽名を使っているが、特に捻った訳でもなく姉のリリエラはエリ、妹のルルエラはエル。それだけなのだが、平民に多い名前なので探すことは難しいだろう。
そもそも、貴族の令嬢が冒険者になる考えに至るのは難しいはずだ。
二人とも伸ばしていた髪の毛を肩の長さまでバッサリと切っている。
茶色の髪の毛のリリエラと金色の髪の毛のルルエラは、短い髪の毛になり、化粧により周りから双子だと分かるようになった。
メイク一つでいくらでも顔は変えられるのよ、というのがルルエラの持論で、実際にその恩恵に預かっているリリエラは日々楽しそうにルルエラに顔を整えてもらっている。
家にいた頃はドレスしか着ていなかった二人だけど、冒険者として活動する為に、平民が着るようなチュニックとトラウザーズにブーツ、それからマントを身につけた。
最初こそリリエラは慣れない様子だったけれど、コルセット不要の楽さに目覚めたらしい。
貴族らしい白く美しい手ではなくなった。
肌だって手入れはしているけれどやはり荒れているし、髪の毛だって艶が無くなってきている。
しかし、手に入れたものは姉妹が共にいる幸せな時間と自由。
ランクを上げてそろそろ移動しよう、と出立した二人は初めて海を見た。ルルエラは前世で海を知っていたけれど、この世界での海は初めてで、二人はその雄大さと海面に光が反射して煌めく光景にしばし見とれていた。
「ねえ、エル。私、貴方と一緒にここに来れて本当に良かった」
じっと海を見ながら語るリリエラ。ルルエラは「私も」と答える。
自然と繋いでいた手にきゅっと力を入れると返される。
引き離そうとしなければ今でも国にいただろう。けれど、実際は引き離された。だから全てを捨てた。
後悔は、無い。
いつかは別れる時が来るだろう。共に居たい人が出来た時、道はわかれる。
しかし、それは二人がそうしようと自分たちの意思で結論を出した時だ。
未来はまだ分からない。しかし、二人の前には誰にも邪魔されない自由が広がっていた。
女は化粧で変わる。
リリはルルに化粧を教わって自分なりのメイク術を磨きます。
ルルは美貌は邪魔!と美貌ダウンメイクしています。
今は似た感じですけど、次第にそれぞれの顔を作りますし、東方の国へ行ったらルルも従来の顔になります。




