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第5話 才能とは

「5日、か……」


 膨大な量のテキストと問題集を前に、俺は考える。考えて考えて考える。5日間で、難関中学の入試で70点以上を取る方法を。しかし、どう考えても不可能に思える。


「足りないな、なにもかも」


 そう思った瞬間、腹の底が冷える思いがした。

 俺は中卒だ。高校に入ったとはいえ留年が確定し中退しているし、そもそもその高校だって、お世辞にも進学校とは呼べないモノだった。なにより、もう高校入試から12年も経っているのだ。記憶もほぼない。


「それになあ……」


 中学受験の問題は、高校入試とかなり毛色が違う。正直全く知識がなかった俺は高校受験を経験した俺なら少しは解けるんじゃないかと最初は思ったんだが、まるで歯が立たなかった。

 率直に言うと、並みの高校の入試問題より、遥かに難しい。パターンとひらめきの両方を求められる。まるで時間が足りない。


「ただ、サワシロが無理難題をふっかけて心を折ろうとするやつにも思えないし、なにか突破口があるんだろうな……」


 ただ一つ確かなことは、ここから5日間、カンヅメになって勉強して、死に物狂いで吸収して、賭けに出る必要があるってことだ。


「見せてやるよ、凡人の意地ってやつをな」




 ---




「今日は4教科をそれぞれ50分で解いてもらって、採点が終わったら返却して解説するねー。じゃあ、国語始めまーす。スタート!」


 サワシロの声でテストが始まった。今の俺の全力を出す。この方法なら、俺でも70点以上取れるはずだ!

 ……でも、失敗したら?これが失敗したら、俺は虐待親の元に帰ることになり、そこでまた死ぬほど惨めな気持ちを味わうだろう。あの、逃げ続けていた日々と同じような思いを。

 ……だから!今は考えるな!失敗のことは!成功することだけを考えろ!


 信じるしかない。この5日間が、無駄じゃなかったってことを!




 ---




 授業終了後、サワシロが俺の部屋を訪ねてきた。


「テストお疲れ様。そして……まずはおめでとう。まさか、全教科で70点を超えてくるとは思わなかったわ。私としては、1教科でも超えていたら今回はセーフにしてあげようかなーと思っていたんだけど」

「舐めんなよ?落ちこぼれとはいえ、27年間も生きてきたんだ。12歳が受けるテストなんか、5日もあればそれくらい取れるんだよ」

「そうやって強がるのはいいけど、勉強、したんでしょう?死ぬほど」

「……まあ、それはそうなんだけど」


 勉強はした。死ぬほど。1日15時間は勉強しただろうから、ざっと計算して75時間は勉強したと思う。

 ただ、2日目に、正攻法で行っても無理だろうと考え、作戦を変更した。


「それと……答案を見るに、あなたはパターン問題に絞って点数を取りにいったでしょう?」

「……どうしてそう思った?」

「見ればすぐに分かるわよ。基礎・頻出に絞って満点を取り、計算も公式で解ける問題やひらめき、爆発力を求められない問題で点を取り切っている。配点まで計算したんでしょう?最初からわざと捨て問を作ることで、70点というボーダーから落ちないようにした」

「まあ、そうだね」

「理解して解いていないわよね?これはテスト特化の戦術。頻出パターンと公式だけを拾う、あなたがこの塾に残るためだけのやり方ってわけね」


 サワシロは窓を開けると、タバコを咥えて火をつけた。


「気持ち悪い。小学生の答案じゃないよ、あんなの」

「小学生じゃないしな。年の功ってやつだよ」

「……まあいいわ。次のテストは1週間後。今回のテストは入試問題からだったけど、次は校内模試よ。順位が出るから、そのつもりで」

「次も降級点取ったら寮を追い出されるのか?」

「校内模試にはそのシステムはない。ただ……順位が出るってことは、他の生徒から今のサクマジンがどの程度の存在なのか、見極められるってことよ」

「見極められる?」


 サワシロは細く煙を吐き出すと、薄く笑ってこう言った。


「気を付けなさい。この塾で舐められると、大変なことになるわよ」



 才能では勝てない。努力でも追いつけない。


 それなら……大人のやり方で、生き残る。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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