第3話 サワシロ
「この部屋何なんだ?物置か?」
「まあそんなところ。誰も来ないから安心していいよー」
サワシロに連れられてきた場所は、暗く、そして乾燥している退廃的な雰囲気を漂わせる部屋だった。
「……で、本当の俺って?」
「転生前のあなたのことだと思わせたんだとしたらごめんね?」
「違うのかよ?」
「違うよ。転生前のあなたがどうなったのかは私は知らない。そしてこれは確定ではないけど、多分元には戻れないよ。元のあなたの存在は、この世から消滅していると思う」
「なっ、消滅!?消滅ってどういうことだよ!!!」
「言葉通りだよ。存在したという痕跡ごと消滅している可能性が高い。
サワシロは窓を開けると、おもむろにタバコを取り出し、火をつけて言った。
「今までも、あなたのような転生者がこの塾、才拡塾に来ることはあったの。たまーにだけどね。私が働くようになる前からだから、創設当初からなのかな?20年近く前から、ここには転生者が来ている」
「……なんで転生者だって分かるんだ?」
「それはね……」
サワシロは煙を薄く吐き出し、ニヤッと笑ってこう言った。
「この塾から、全国1位の子が出ると、その子に転生して誰かがやってくるんだよ。不思議でしょ?」
「全国1位が出ると、そいつに転生してくる……?」
なんだそのクソルール。1位を取ったら自分の体に知らない大人が入ってくるって、ほとんど罰ゲームじゃねーか。
「うん。どうやらそういうことらしいんだ。すぐに分かるんだよね、問題が解けなくなるから」
「どういう理屈でそうなるんだ?全く理解が追い付かないんだが」
「それは知らない。そもそも転生なんて意味不明な出来事、理屈で理解しようとする方が間違っていると思うけど?」
「まあそれはそうなんだが……」
「それよりさー、あなた、転生してきたって割には落ち着いてない?もっと取り乱してたり、真っ青になる人の方が多いんだけどな、経験則で言うと」
「まあそれはあれだ、どうでもいい人生を歩んで来たってことだよ。今はむしろ、転生でやり直しチャンスを貰えたっていう喜びの方が大きい」
「やり直しチャンスねえ。本当にそんないいもんかな?この転生ってやつは」
携帯灰皿に吸殻を入れると、サワシロは2本目のタバコに火をつける。
「あなたが転生したサクマジンくんってね、教育虐待を受けてたのよ。それはもう苛烈な」
「教育虐待?無理やり勉強させられるみたいな、そういう話か?」
「そんな言葉では言い表せられないほど、ひどいものだったみたいよ。人格否定なんか当たり前。子供に接するというより、勉強機能付きのペットを躾けているみたいな状態だったらしいわ。まああくまで、聞いた話なんだけどね」
胸が冷える話だ。勉強ができる代わりにそんな環境を与えられるなんて、割に合わない。
「まだ小学生なのにそんな環境で……むごい話だな。……っておい、もしかして、俺は今からその家に帰らなきゃいけないのか!?」
「違うわよ。言ったでしょ?受けていたって。今はもう解放されているのよ」
「なんだ、良かった……。改心したってことか?親が」
「いいえ?放棄したのよ、育児を」
「じゃあなんだ、児童養護施設とかから通っているのか?この……サクマジンくんは」
「それも違う。家の塾が運営している寮で生活しているの。寮も勉強漬けの日々だけど、家にいる時より断然こっちの方が良いって、サクマくん言ってたわ」
「小学生の塾で寮まであるのかよ!?すげえな、力の入れようが」
「まあね。日本一のブランド塾にするのが塾長……父の夢だから、本気で力を入れているんでしょうね」
2本目の吸殻も携帯灰皿に押し込むと、サワシロは3本目に火をつけた。
「ずいぶんなチェーンスモーカーだな……。子供の前でそんなに吸うもんじゃないぜ?」
「子供って言っても中身はどうせ成人男性でしょ?気にしないわ、そんなこと」
「まあそうなんだが。それで、重要な部分について聞きたいんだが」
「なーに?」
「本当の俺に会わせてくれるって、どういう意味なんだ?あと、なんでお前は俺がタバコを吸って転生したことを知っているんだよ」
「会わせてあげるっていうのは……。うーん、そうね。やっぱまだやめとくことにするわ」
「なんでだよ!?焦らすなよ!今後の鍵になるかもしれない部分だろ!?」
「最初っから全部バラしても面白くないでしょ?」
「くそっ、気になるだろ!」
「まあそれは、次の授業でいい成績を残せたら教えてあげる」
「?まあいいけど……。それで?タバコの件は?」
「それも、次の授業でいい成績を残せたら教えてあげるわ」
「なんだよ成績成績って……。って、それは無理だろ?俺全然勉強できないんだよ。次の授業っていつだ?」
「明日よ」
「無理に決まってるだろ!!!」
「じゃあ決めた。次から数えて3回の授業で、一回でも70点以上を取れたら秘密を教えてあげる」
「……3回目って何日後だ?」
「5日後ね。土曜日」
「まあ……やれるだけやるよ。やるしかないしな」
「ええ、そうよ。やるしかないのよあなたは」
「なんだ?なんか含みのある言い方だな」
サワシロは、今日一番の笑顔でこう言った。
「4回連続で降級点を取ったら、寮から出されるのがこの塾の規則なのよ」
逃げ場は、もうどこにもなかった。
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