第1話 タバコ転生
27歳、高校中退フリーター。
努力から逃げ続けた人生の末、俺は謎のタバコを吸い――
目を覚ますと、全国模試一位の天才小学生になっていた。
だが、喜びは一瞬で消える。
そこは異世界ではなく、現代日本。
そして舞台は、学力だけが価値を持つ名門進学塾。
周囲は一日十数時間勉強する天才だらけ。
中身が凡人の俺は、初日から問題すら解けない。
才能では勝てない。
努力でも追いつけない。
それでも――
大人の知恵と、負け犬の執念で生き残ってみせる。
これは、
天才に転生した落ちこぼれが、
努力の世界で足掻く現代転生譚。
「起きたー? 授業始まってるよ」
耳元で声がした。
反射的に目を開けると、そこはコンビニのバックヤードでも、見慣れたアパートの天井でもなかった。
黒板。
ずらりと並ぶ机。
そして、目の前には――スーツ姿の黒髪ロングの女性。
「……は?」
思考が、完全に停止する。
「また居眠り? 全国模試一位なのに、ずいぶん余裕だね」
全国。
模試。
一位?
意味が分からず、反射的に自分の体を見下ろした。
短い腕。
小さな手。
床に届いていない足。
――子供、だ。
「……夢、か?」
そう呟いた瞬間、女性が呆れたように笑った。
「夢なら、算数の入試問題は解けないでしょ。ほら、目を覚まして。授業、始めるよ」
黒板に書かれた文字を見て、俺は息を呑んだ。
【慶作学園中 算数 過去問】
中学、入試?
ありえない。
俺は――。
数時間前まで、27歳の高校中退フリーターだった。
コンビニのバイトで最低限の金を稼ぎ、未来なんて考えないように生きていた。
人生に詰んで、どうでもよくなって、
朝、アパートの隣人からもらった、見慣れない海外のタバコを吸った。
それだけだ。
それだけのはずだった。
なのに今、俺は――
名門進学塾の教室で、「天才小学生」として座っている。
「じゃあ始めるよー。制限時間五十分。途中退席なし」
教室が一斉に静まり返る。
シャーペンの音が、やけに大きく聞こえた。
……待て。
待て待て待て。
俺、勉強なんて、最後に真面目にやったのいつだ?
問題用紙に目を落とした瞬間、血の気が引いた。
読める。
日本語だ。
なのに、意味が分からない。
図形?
比?
場合の数?
なにこれ。
異世界語か?
「……っ」
周囲の生徒たちは、迷いなくペンを走らせている。
まるで、これが簡単な作業であるかのように。
(おい……冗談だろ)
俺は、努力という言葉から逃げ続けて生きてきた人間だ。
高校は留年確定で中退。
そのままフリーター。
そんな俺が、なぜ。
「えーっと、サクマくん。大問一、答え言える?」
名前を呼ばれて、心臓が跳ねた。
サクマ?
……ああ、俺の今の名前、か。
「……すみません。分かりません」
そう答えた瞬間、教室がざわついた。
「えっ?」
「ジンくんが?」
「全国模試一位のサクマくんが?」
……全国模試一位?
こいつ、そんなバケモノだったのかよ。
女性――いや、先生は、俺をじっと見つめてから、軽く肩をすくめた。
「まあ、そんな日もあるよね。じゃあ、ヤマグチさんお願い」
授業は何事もなかったかのように進んでいった。
俺一人を置き去りにして。
――異世界転生じゃない。
――魔法もチートもない。
あるのは、
勉強が全ての世界と、
天才として生きてきた小学生の体。
そして中身は、
努力から逃げ続けた、27歳の負け犬だ。
(……最高じゃねえか)
なろう小説みたいな展開だ。
人生やり直し。
小学生から、今度こそ勝ち組ルート。
……そのはずだった。
だが、この時の俺はまだ知らなかった。
ここは、現代。
そして、この場所は――
学力だけで人の価値が決まる、地獄だということを。
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