表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

父織田信秀の死と道三との会談

 信長に仕えて数年の間、祭文は各地に従魔を派遣し、情報を収集するとともに、情報操作により敵国内の人心を惑乱する活動を密かに行っていた。

 特に近隣の大名たちへの警戒は怠りなく、四六時中警戒に当たらせた。

 しかし、武田信玄の躑躅ケ崎館(つつじがさきやかた)に遣わした従魔との交信が途絶えた。

「この波動は!」

 この時、祭文はこの世界に来て初めて、魔力の波動を感知し、いやな予感が脳裏をよぎったのだった。


 このころ、信長の父信秀は美濃の斎藤道三と戦っていたが、1548年11月、道三との和睦が成立し、信長の(もり)役、平手政秀の働きで、信長を道三の婿とする縁組みがととのい、娘、帰蝶(濃姫)が輿入れしてきた。この時、信長15歳。この時代には珍しくない政略結婚であった。 

 帰蝶は、道三から信長方(尾張)の内情を探り、報告するように密命を受けていた。信長もそのことは重々承知の上での婚姻だった。


 1551年(天文20)3月、父織田信秀が流行病(はやりやまい)により急死した。享年42歳だった。

 葬儀は、信秀自身が建立した万松寺(ばんしょうじ)で執り行われた。

「殿、そのような出で立ちでは、家中の者に示しがつきません。むしろ物笑いの種になるばかりです」

 葬儀に向かおうとした信長を見た平手政秀が、その身なりを(いさ)めた。

 その時の信長の格好は、長柄(ながつか)の大刀と脇差(わきざし)をわら縄で巻き、髪は茶筅(ちゃせん)まげに巻き立て、(はかま)もはいていない、およそ葬儀の場には相応しくない装いであった。

「構わん。これが、わしの弔意の表し方だ」

 政秀の制止を無視し、信長はそのままの出で立ちで万松寺に向かった。

「祭文、斎場の様子はどうだ」

 道中、信長は隠蔽(いんぺい)魔法で気配を消して付き従う祭文に問いかけた。

「国中の僧侶を集め盛大に執り行われています。さらに旅の修行僧たちも多数参会しているようです」

 祭文は差し向けた従魔の目を通して見た葬儀場の現状と、入手した情報を信長に報告した。

「信行(信長の弟)たちの様子はどうだ」

「信行殿には柴田勝家殿、佐久間盛重殿の他おも立った家臣が付き従っております」

「役者は(そろ)ったようだな。舞台に不足無し。行くぞ」

 斎場に現れた信長を見た参列者たちは、厳粛な式典には、あまりにも常識はずれな出で立ちに驚きを隠せなかった。会場がざわついた。

 そんな周囲の状況など一切気にすることなく信長は、つかつかと祭壇の前に進んでいった。

 そして、抹香(まっこう)(わし)づかみにすると、仏前に投げかけ、きびすを返してさっさと立ち去ってしまった。

 そんな信長に参会者たちは、噂通りの大うつけ、礼をわきまえないおろか者だと口々にささやき合った。

 那古野城に戻った信長は、人払いをし祭文と密談した。

「して、祭文。葬儀に参列した者たちの様子はどうであった」

「従魔の情報とわたしが見聞したところによりますと、みな信長様をうつけ呼ばわりし、信行殿こそが、跡継ぎにふさわしいと話しておりました」

「やはり、そうか。早々に奴らは馬脚を(あらわ)すやもしれんな。監視を怠るでないぞ」

「その点につきましては、ご安心ください。不審な動きがあればすぐに知らせが届くようになっております。先ほどの話ですが、一人だけ、筑紫(つくし)から来た旅の僧が、信長様の才を見抜き、後に国持ちの大名となる方だと申しておりました」

「なんと、そのような(さと)い者がおったとは!おもしろい!そやつ、密偵として使えそうだ」

「そうおっしゃると思い、その者に従魔をつけて、いつでも居所が分かるようにしております」

「相変わらず抜け目のないやつよのう」

「おほめの言葉と受け取らせていただきます。ところで、家中の反乱分子をあぶり出すためとはいえ、信長様が、あそこまでの狂気を演じる必要があったのですか?」

「はじめは、あくまでも芝居のつもりであったのだが・・・。仏前に立ったとき、(こころざし)半ばで倒れた父の無念さを(おもんぱか)り、底知れぬ哀感を覚えたのだ。と同時に、父の死を現実として受け入れがたく、己の不甲斐なさと、この様な状況に置き去りにされたという怒りの感情が沸き上がった挙げ句の所行であった。

 だが、少々やりすぎたようだ。わっはっはっは」

 高笑いした信長の目は笑っていなかった。

 信長の真意をはかりかねる祭文だった。

 信長は、敢えてうつけを演じ、祭文に参列者の反応を密かに探らせていたのだ。


 1552年(天文21)4月、信秀の死後早速家中に動きがあった。

 信秀が目をかけていた、鳴海城主山口教継(のりつぐ)、息子教吉(のりよし)が、謀反を企て、今川義元の軍勢を手引きして、尾張領内に侵入させたのだ。

 祭文によってもたらされた情報により、山口親子の動静をつかんだ信長は、即座に軍勢800を率いて出陣した。対する教吉勢は1500。赤塚で戦闘の火ぶたが切られた。

 両軍入り乱れての混戦が数時間におよんだが、決着がつかず、信長は、その日のうちに帰陣した。戦闘が長期化すれば、今川軍が大挙して押し寄せてくることを看取(かんしゅ)していたからだ。祭文が今川方の動静を探っていたことが功を奏したのだ。

 以後、祭文は戦略上重要な役割を担うようになり、信長が覇業を成し遂げるために不可欠な存在となっていった。


 1553年(天文22)平手政秀が、自宅で切腹した。信長の奇行を(いさ)めるためだとされているが、詳細は不明である。

「政秀は実直すぎた。その上、わしの深謀遠慮(しんぼうえんりょ)に思いを巡らせることができなかった大ばか者よ」

 政秀を罵倒(ばとう)する信長であったが、その顔には悲痛な表情が浮かんでいた。

 この年、信長は義父、斎藤道三の申し入れにより、美濃の正徳寺で会見することになった。うつけ者と評判の信長が、本当にうつけ者かどうか、その真偽を確かめるために道三が対面を望んだのだった。

「祭文、道三の動静はつかんでいるか?」

「はい、詳細に」

「して、道三のねらいは何だ?まさか、わしの暗殺をたくらんでいるのではあるまいな」

「心配には及びません。そのような気配は全くありません。道三の目的は、信長様の器量を直接自分の目で確かめることにあるようです」

「それなら案ずることはないな」

「従魔の報告によりますと、道三は会見に先立ち、町はずれの小家に隠れ、我らの行列を密かに偵察する手はずを整えているとのことです」

「そうか。それならこちらも、道三に一泡ふかしてやろう」

 信長は薄笑いを浮かべていた。祭文の話を聞いて、信長は何か思いついたようだ。

「と、いいますと?」

 信長が祭文に計画を話した。

 会見当日、道三が盗み見た信長の風体は、髪は茶筅(ちゃせん)まげ、もえぎ色の平打ちひもでまげの元を巻き、湯かたびらの方袖をはずし、金銀飾りの太刀、脇差しの二つとも長い(つか)をわらなわで巻き、太い麻縄を腕輪にして、腰のまわりには、猿回しのように、火打ち袋、ひょうたん七つ八つをぶらさげ、虎皮と(ひょう)皮を四色に染め分けた半袴(はんばかま)をはいていた。公式の会見の席には場違いな格好であった。

 しかし、会見の席では髪は結い直され、長袴(ながばかま)をはいた正装に改められていた。短時間での信長の変貌ぶりに、道三は己の目を疑った。

 なぜそんなことが出来たのか?実際の信長は、会見の席と同じ正装だったのだが、道三は祭文の魔法で幻影を見せられていたのだった。

 会見後、稲葉山城への帰路。道三の家臣が、信長は噂通りのばか者だと言った。だが、信長の力量を見抜いた道三は「噂とは違い、うつけなどではない。油断ならないやつだ。残念だが、わしの息子たちが、必ず信長の家来になる日が来るだろう」と言った。

 道三のこの言葉が、十数年後別の形で現実となるのだった。


 参考文献

「現代語訳 信長公記」 大田牛一著 中川太古訳 KADOKAWA

「織田信長の生涯」 風巻絃一 三笠書房

「戦国グラフィティ 織田信長」井上宗和監修 講談社

「週刊 日本の100人 第1号 織田信長」 デアゴスティーニ・ジャパン

「隔週刊 戦国の100人 第1号 織田信長」 デアゴスティーニ・ジャパン

「図解 天下統一を目指した信長・秀吉・家康の知略」 河合敦監修 永岡書店

「学習漫画 日本の伝記 織田信長」 永原慶二監修 集英社

「学習漫画 日本の伝記 豊臣秀吉」 永原慶二監修 集英社

「信長・秀吉・家康り戦略戦術」 佐々克明 三笠書房

「学校では教えてくれない戦国史の授業」井沢元彦 PHP文庫


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ