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魔法使い、戦国の世に降臨す

「ありがとうございました。これからは、ドラゴンにおびえることなく、村の者も安心して暮らせます。本当にありがとうございました」

 村人を代表して村長が礼を言った。

「皆さんのお役に立てて何よりです。では、これで」

「もう、帰られるのですか。もう少しゆっくりしていってください」

「いえ、そうもしていられません。他にもモンスター討伐の依頼を受けているもので」

 魔法使いは一瞬にして消えた。転移魔法で瞬間移動したのだ。

 異空間を移動中、魔法使いは少女の声を聞いた。

「・・・どうかお助けください」

「この声は・・・?どこから・・・?」


「お頭、村中くまなく探して、金目の物は全部集めてまいりやした」

「そうか。では、足がつかんように、全員始末しろ」

 広場の一角に集められた人々。その周りを囲むお世辞にも善人とは言い難い、人相の悪い男達。

 盗賊に襲われた村人の命は、もはや風前の灯火だ。

「神様、どうかお助けください」

 一人の少女が手を合わせ、懸命に神に祈りを捧げた。

 盗賊が少女に刃を向けて、まさに斬りかかろうとしたとき、少女の前に一人の男が現れた。フードの付いた真っ黒なローブにマントの男。

 どこからともなく降って湧いたように現れた奇妙な風体の男に、肝が据わった盗賊といえど動揺を隠せないようだった。

「なんだ、てめえ。どっから現れやがった」

 首領らしき男が虚勢をはってどなった。

 黒ずくめの男は、ゆっくりと視線をめぐらせた。

「ここはどこだ?見たこともない服装の者たちだ。転移先指定を間違ったのか。いや、そんなはずはない」

 素早くかつ的確に自らが置かれた状況を分析、判断した。

「ここがどこであれ、この状況から察するに、お前たちが悪党であることに間違いはないようだな」

 落ち着きはらって男は言った。

「ふざけやがって。かまうこたあねえ。やっちまえー」

 盗賊が一斉に男に斬りかかった。男はひるむ様子もなく、手のひらを盗賊たちに向けた。

「フリップ」

 盗賊たちは弾かれたように後ろに吹き飛ばされた。

「なっ、何をしやがったんだ」

 何が起こったのか理解できず、ひどく狼狽える首領。手下たちも皆、尻餅をついたまま呆然としている。

「動くな。それ以上おかしなまねすると、こいつの命はねえぞ」

 首領が側にいた少女の喉元に刀をつきつけた。

「お前こそ、動くんじゃない。フリーズ」

「うっ」

 首領は身体の自由を奪われ動けなくなってしまった。

 首領の手から落ちた刀が、ふわりと浮かび、首領の目の前に突きつけられた。

「これ以上無駄な抵抗は、よしたほうが身のためだぞ。命が惜しかったら、今すぐ私の前から消えろ」

「リリース」

「おぼえてろ」

 拘束がとけた首領は、悪党お決まりの捨てぜりふを吐いて、一目散に逃げ出した。手下たちもあわて後を追った。

 村人の中から、年かさの男が進み出て、男に礼を言った。

「どこのどなたか存じませんが、危ういところをお助けくださり、ありがとうございました。わたしは、村の(おさ)をしておる甚兵衛(じんべえ)と申す者。村人を代表いたしまして感謝申し上げます。おかげで我ら一同命拾いしました」

 後ろにいた村人たちはみな、ひざまずいて頭を下げた。

「礼には及びません。当然のことをしたまでです」

 背を向けて立ち去ろうとする男に向かって甚兵衛があわてて声を掛けた。

「お待ちください。お見受けしたところ異国の方のようですが。といっても、風体から察するに、バテレンとは違うようだ。どこか行くあてがおありですか」

「確かに、ここはわたしがいた世界とは違うようだ。空間転移中に別の世界に引き込まれたらしい。わたしの特殊能力コミュニケーションスキルで問題なく会話できているが。行くあてか・・・」

 男は小声で呟いた。

「行く当てなどありません。わたし自身今後どうしたものか考えあぐねています」

「おお、それでは、是非わたしどもの村にお留まりください。先の盗賊どもが、いつまた仕返しにやってくるかもしれません。あなた様に居ていただけると安心です」

「この世界についての知識が全くない状況でうかつに行動するのはリスクが大きい。ここに滞在して、この世界についての情報を収集するのが得策かもしれん。よし!」

しばらく考えて男は言った。

「その申し出ありがたくお受けしましょう」

「おお」

 村人たちが、歓喜の声を上げた。

「そう言えば、まだお名前をうかがっておりませんでしたな」

「わたしの名はサイモン」

「さいもん様、たいしたおもてなしはできませんが、村人一同心から歓迎いたします。心ゆくまでごゆるりとお過ごしください。ところで、さいもん様。先ほどのあれは何だったのですか?」

「あれとは?」

「盗賊をはね飛ばしたり、刀が空を飛んだりしたあれでございます」

「ああ、そのことですか。物体移動魔法を使ったのです」

「ぶったい、いどう、まほう?」

「駆け出しの魔法使いでも使える初級魔法だから、見たことくらいあるでしょう」

 村人一同、さっぱりわけが分からないといった表情でお互いに顔を見合わせている。

「あのような摩訶不思議な術は、はじめて見ました。なあ皆の衆」

 甚兵衛が村人に同意を求めると、みな大きく頷いた。

「この世界には、魔法使いはいないのですか」

「まほう、つ、か、い?何ですかそれは?」

 当惑顔で甚兵衛がたずねた。

「私のように魔法を使える者です」

「さいもん様のような術を使える者が、今の世にいるかどうかは分かりません。昔、徳の高い修験者や道士が摩訶不思議な方術を使ったという言い伝えならありますが…。何しろ言い伝えなので真偽のほどは定かではありません」

「この世界には魔法を使える者はいないか。いたとしても、この村の住人たちは、その存在を知らないということらしい。まあ、わたしとしては、どちらでもかまわないが」

 サイモンは甚兵衛の家で世話になることにした。

 この国の慣例にならって、名の表記を「祭文」とした。元の世界に帰る手だてが見つかるまで、当分この世界に住む覚悟を決めたのだ。

二週間ほど経った。あれから盗賊たちは現れなかった。魔法で探査しても気配さえなかった。

 祭文が村に留まることを知った盗賊たちが、恐れをなして、どこか遠い所へ逃げ出したようだ。祭文は、自分が村に留まった甲斐があったと愁眉を開いた。

 そして、いつまでも甚兵衛の家でやっかいになるのは、心苦しいと、空き家を借りて住むことにした。


 そんなある日、一人の若武者が祭文の侘び住まいを訪れた。二人の邂逅が、後の歴史を大きく動かすことになるとは、この時の二人には思いもよらなかった。


 うららかな日和の昼下がり、祭文が庭で薪割りをしていると、奇妙な格好をした若武者が裸馬に乗ってやってきた。

 半袴で着物の袖の片方を外し、髪は茶せんのように無造作に結っている。腰には荒縄を巻き付け、ひょうたんや火打ち袋、手ぬぐいをぶら下げ、朱ざやの太刀をさしていた。

「そなた、ここの家の者か。すまぬが水を飲ませてもらえんか」

 祭文は若武者の方を一瞥しただけで、薪割りの手をとめることなく言った。

「水なら、そこの井戸から勝手にくんで飲んでください」



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