商人の護衛
「鈴木さんか……話しかけたくないな……。」
剣崎と駿は鈴木という天鷲城 配下のプレイヤーを護衛するため、鯨波という港町に来ていた。鯨波などのmillionwarsに存在する港町はプレイヤー所有の場所でないこともあり、多くのプレイヤーやNPCが利用している。
「剣崎、この中からどうやって、その鈴木さん探すんだ?」
「さっきも言ったろ、一番目立つ人。それが鈴木さんだ。……見つけた。」
赤い髪の毛に体中に身につけた装飾品、鈴木は間違いなくこの町で一番目立っていた。剣崎は駿を連れ人をかき分けながら鈴木のいる場所へと向かった。
「鈴木さん、迎えに来ました。今度は何買ったんです?」
「うーん……内緒。そこの彼は新人さん?はじめまして、僕の名前は鈴木。よくいる苗字だから、よく心配されるけど、安心してね、本名じゃないから。この名前だと外交の人に受けがいいんだ。」
鈴木との自己紹介を終え。剣崎と駿は町の外に待たせている兵士百人と大量の荷物を乗せた馬車を操る鈴木と共に天鷲城へと向かった。
「鈴木さん。今回、交流島ではどんなものが売られてました?」
「まぁまぁの品揃えだったよ。レア武器は少なかったけど実用性のある武器が多かったね。お陰で売った武器のお金全部使っちゃったよ。」
交流島とは港から船で十分間移動すると出現するしまであり。この島には全てのサーバーからプレイヤーが武器の取引をしに集まる。
「止まれ!」
馬車の中で剣崎、駿、鈴木が話しに夢中になっていると、周囲を大量のプレイヤーに囲まれていた。
「お前たちには、馬車を置いていってもらう。」
このmillionwarsの世界には【ハイエナ】プレイヤーたちの作った盗賊の集まる組織が存在している。あくまでプレイヤーが勝手に名乗っているだけの為、特別な機能がある訳では無いが、城とは違い人数に制限がないため侮れない存在になっている。
「剣崎くん、駿くん。この買ってきた武器の出番だ。俺が合図したら、君たちは兵士数人を使って後ろの馬に乗っている盗賊の相手をしてくれないか?僕は残りの兵士に命令して残りの相手をするから。」
そう言うと鈴木は馬車から飛び出し、馬車から離れた場所で道を塞ぐように立っている盗賊と会話を始めた。
「なぁ!取引しないか?」
「取引できる状況だと思ってんのか?」
「まぁ聞け。こっちは騎馬百人とプレイヤー三人。っでそっちは、ざっと二百人ってところか?この人数で戦ってもお互い損失のがデカイだろ?」
「……それで?」
「お前たちの所にNPC五十人を使って馬車の武器を運ばせる。だから残りのNPC兵士と俺たちプレイヤーは見逃してくれないか?」
「……わかった、その条件を飲もう。残りのプレイヤーは見逃すがお前は残れ。どうもお前は信用できない。」
「あぁ、わかった。じゃあ先にプレイヤー二人と兵士五十人を通すから道を開けてくれ。」
兵士五十人は馬を下り馬車へと向かい。馬車から降りた、剣崎と駿は残った馬に乗り盗賊たちの間を通り抜けた。
「俺は約束通り見逃してやったぞ。さぁ武器を頂こうか。」
「……わかった。今から兵士に持っていかせる。」
「いや、持ってくる必要はない。馬車ごと頂く。」
「それじゃ話が違うじゃないか!」
「先に仲間を逃がした自分を恨むんだな。」
そう言い終えると二百人の盗賊が一斉に馬車へ向かい突撃をしかけた。
「……まぁ、こうなるって、わかってたんだけどね。はーい天鷲城兵士のみんな〜武器は持ったね。そしたら馬車を囲んで武器を構えよっか。」
鈴木の命令に忠実に兵士たちは馬車を取り囲み、クロスボウにレバーのようなものがついた武器を構えた。
「それじゃあ敵が射程に入ったら連続して矢を放ってね。」
盗賊はスピードを落とすことなく馬車に近づき射程に入った。
「……グッ!」
鈴木が兵士に持たせた武器は諸葛連弩。連弩を諸葛孔明が改良したもので、レバーの操作により矢を連続して放つことができるようになっている。
「いや〜流石はNPC。使い方を教えなくても扱えるんだから便利なんもんだ。」
矢の射出は十五秒間続き、盗賊たちは倒れてこそないものの深手を負ってしまっていた。
「お前ら!敵は目の前だ!矢を装填される前に一気に攻め……」
盗賊を指揮していた男の首が言葉を言い終える間もなく地面に落ちた。
「敵は他人のものを奪い取るような外道だ!一人も生かして返すな!」
そこには剣崎と駿そしてNPC兵士五十人の姿があった。盗賊たちはリーダーを失ったからか怪我を負ったからか分からないが統率がとれなくなっており、騎馬で一掃するのに時間はかからなかった。
「いや〜、助かったよ!ありがとね剣崎くん。」
「……別にいいですけど。なんでわざわざ俺たちを一度逃がすようなことしたんですか?あの程度の人数なら簡単に勝てたと思うんですが。」
「だって君たちが戦ったら、連弩を試すまもなく、終わっちゃうじゃない。それに、もし僕たちがやられるようなことになっても君たちが持ち帰ってくれれば武器も無事だしね。」
「……はぁ、まぁいいですけど。とりあえず早く帰りましょう。俺たち明日も学校なんですから……。」
「ちょっと待って!まさか、こいつらの装備持ち帰らないつもり!?そんなもったいないこと僕にはできない!ということでNPCのみんな〜、死体漁りの時間だ!」
結局、剣崎たちは鈴木に従い装備の回収を行い、翌日学校に遅刻した。一方、鈴木は九条に叱られ、仕事に対する報酬を減らされ、かなりの反省をすることになった。