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鳴海のスカウト活動(外伝)



「なぁ婆さん。ここらで何か変わったこととかなかったか?なんでもいいんだが。」


 猪ケ倉城攻城よりも一週間ほど前の話。鳴海はレアNPCの情報を手に入れた城主 九条に頼まれ、とある小さな村へとやって来ていた。

「変わったことかい?変わったことと言っても、こんな田舎じゃそうそう変わったことなんて……あっそういえば旦那が変な話をしてたね。」


「なんて言ってた?」


「旦那が山に山菜を取りにいってた時の話なんだけどね。旦那の話だと熊の骨だけが綺麗に残っててね。熊を食べるほどの巨大な生き物がいるんじゃないかって。少し前に村中が大騒ぎしてたような。」


「それだ婆さん!その山の場所を教えてくれ。」


「構わないけど、もし行くっていうなら気をつけなよ。熊よりも強いなんて普通の人じゃ手も足もでないんだから。」


「大丈夫だ婆さん。教えてくれてありがとな!」


 鳴海は村のお婆さんから情報を手に入れると、すぐに話にでてきた山へと向かった。


「リアルに越したことはないんだが、無視まで再現する必要なんてあるのかね?」


 鳴海は山に入り、虫に嫌気がさしながらもレアNPCを探した。


「おっあったあった!これが噂の熊の骨か……確かにこりゃデケェ……。」


 熊の骨を見つけ独り言をしていると、枝の揺れる音が聞こえた。鳴海が振り返り確認すると、百八十センチ以上あるであろう大柄な僧兵がそこに立っていた。

「これ、あんたがやったのか?」


「いかにも。私が殺め私が食した。」


「へ〜。僧兵も肉を食うんだな。」


「勘違いするな。私は寺を追放され山に隠れることしかできない軟弱者だ。今更五戒を守る必要がどこにある。」


「ふ〜ん。まぁお前の事情はどうでもいいんだ。俺の仕事はお前を九条さんの前に連れていくこと、大人しく着いてきくれると助かるんだが……。」


「私を連れていきどうするつもりだ?」


「仲間にするんじゃねぇか?俺はよく知らねぇけど。」


「なるほどつまり勧誘か、悪くない……悪くないが、私を仲間にしたければ力を示せ。私は私よりも強きものの下にしかつかぬ!」


「それは俺が戦ってもいいのか?」


「むろん。配下の強さは城主の強さ。貴様が勝てば、その九条とやらの前に大人しくついて行こう。」


「俺は結衣さんみたく戦うのが極端に好きな訳じゃないんだけどな……九条さんのためだ!人肌脱ぎますか!」


 鳴海と僧兵は武器を構えた。鳴海は管槍という柄に管を通した槍を使っていた。管の中で槍を走らせることにより摩擦が軽減した影響は大きく、素早い刺突を可能にしている。


 一方、僧兵の武器は薙刀。長さは体の大きな僧兵に合わせて作られており、鳴海の武器よりも少しリーチがある。体の大きさと薙刀の長さも相まって振り回されるだけでもかなり厄介であろうことがわかる。


 鳴海は穂先が少し下を向くように構え、相手との間合いを詰めた。

「シュッ!」


 自身の間合いに入ると、一歩で懐に飛び込み相手を殺してしまわないように狙い済ました一撃を僧兵へと与えた。

「っな!」


 鳴海の槍は見事に僧兵の肩に突き刺さるが、僧兵は痛みに怯むことなく薙刀を振り下ろした。鳴海は突き刺さった槍を引き抜くことができず、槍を捨てギリギリのところで僧兵の攻撃を回避した。

「先程の刺突には驚かされた。突きに来たところに振り下ろそうと思っていたのだが、想像以上の速さで振り下ろすのが遅れてしまった。あの刺突を二度繰り出されては厄介だ。悪いがこの槍は折らせてもらう。」


「あっ!おいやめろ!」


 僧兵は鳴海の槍を肩から引き抜くと二つにへし折ってしまった。

「この野郎!その槍、高かったんだぞ!」


「戦闘中に武器を失ったくらいで取り乱すようでは、真の強者とは呼べんな。」


「言ってくれるじゃねぇか……確かに武器に頼りすぎてたのかもしれねぇな。だったら俺はコイツでいかせてもらうぜ。」


 鳴海は握り拳を僧兵に突きつけた。

「腰の脇差を抜かず徒手空拳で私と戦うというのか……私を侮っているのか?」


「悪いが本職はこっちでね。舐めてかかると痛い目見るぜ。」


「そうか……それは楽しみだ。」


 二人は再び間合いを測りジワジワと距離を縮めた。先に動いたのはやはり鳴海だった。槍の時よりも素早い動きで僧兵との距離を詰める。だが今度の僧兵は油断をしていなかった。鳴海が薙刀の間合いに入ったタイミングで渾身の胴打ちを繰り出した。


 だが、あまりに完璧なタイミングの胴打ちを鳴海はいとも簡単に躱してしまった。鳴海の本職はボクサー。鳴海は薙刀の動きではなく拳にのみ意識を集中させ、ベストなタイミングでスウェーバックという技術を使い回避した。


 だがタイミングを測ることができても間合いを完璧に図ることはできなかった。だから鳴海は信じた。僧兵が完璧なタイミングで攻撃してくることを。


 躱した鳴海は距離をさらに縮める。だが薙刀の攻撃は単発ではない、すかさず僧兵は手の中で柄を滑らせ石突のある刃の逆側を使い鳴海を襲った。

「それは結衣さんで何度も見た!」


 鳴海は幾度も重ねた結衣との戦闘により、僧兵の次の手を読むことができ容易に躱すことができた。そして距離をさらに縮め素手の届く距離まで鳴海は近づいた。鳴海は体をひねり渾身の力で左でみぞおち、右で僧兵の脇腹に拳を叩き込んだ。

「グッ……!!」


 グローブのはめられていない拳は僧兵の体に深く大きな衝撃を与えた。槍で肩を貫かれても怯まなかった大男が、たった二発の打撃で呼吸困難と痛みにより、武器を手放し膝をついた。

「俺の勝ちでいいな?」


「……あぁ、見事だ。約束通りお前に従おう。だが、その前にお前の名前を聞かせてくれ。」


「俺か?俺は鳴海!天鷲城 最速の部隊を率いる鳴海隊の隊長だ!」


「鳴海か……私の名前は本泉寺 誠央さねなか。鳴海よお前はなぜ、その九条とやらの配下に加わった?」


「配下になった理由?あまり考えたことなかったけど、強いて言うなら自由だから!俺は愛馬に乗って旅するのが好きでね。城に戻らないことが多いんだけど、九条さんはお前みたいなやつを探すという名目で、俺の勝手な行動を許してくれるんだ。」


「人の上に立つのにもかかわらず、支配するではなく自由か……少々変わった男のようだな。」


「そうか?まぁ他の城主とは違うって意味では変わってるかもな。けどいい人だぜ?」


「それはお前の顔を見れば分かる。では、私は早速お前の言う天鷲城へ向かおうと思う。」


「そうか、じゃあ俺は先に城で待ってるからな。」


 二人の出会いから三日後、荒熊法師は無事、天鷲城へと辿り着き、正式に九条の配下として加わり猪ケ倉城攻城の際に城の留守を任されるなど防衛面でかなりの活躍を果たした。


 

 


 

 

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