正々堂々
剣崎はこの日のために九条からお金を借りて一本の槍の制作を一鉄に依頼していた。
『大笹穂槍』生涯 五十七戦無敗。数多の伝説を残した徳川四天王最強の武将『本多忠勝』が愛用していた武器である『蜻蛉切』が有名であろう。
広げた笹の葉のような形をした刃を持ち、刀身を限界まで彫ることで見た目ほど重たくはない。何よりも特徴的なのは、笹状にしたことにより生まれた切れ味で、刀をメインで使っていた剣崎には似合いの武器と言えるだろう。
対する鈴村の薙刀は、どこにでもあるような特段変化のない薙刀だ。「あくまで武器は武器、大事なのは己の実力だ」という気持ちが薙刀を構える鈴村の姿からひしひしと伝わってくる。
「悪いけど速攻で終わりにするよ」
鈴村が馬を走らせ薙刀を剣崎に向かって振るった。鈴村の攻撃を槍で受けた剣崎は体が仰け反り、一瞬だけ馬が体勢を崩した。
(ヤバッ……!)
鈴村の薙刀が剣崎に再び襲い掛かる。剣崎は崩れた体勢から、何とか鈴村の乗る馬を槍で切りつけることで攻撃を阻止した。
(そうだよな……本来なら一騎打ちを受ける必要なんてないのに鈴村さんは一騎打ちを受けてくれたんだ。ここで時間稼ぎに徹するのは鈴村さんに失礼だ。)
剣崎は覚悟を決めて、鈴村に向かい馬を走らせた。
「カッ!」武器の柄が何度もぶつかり合う。その激しい攻防を両陣営のプレイヤーたちは息を飲んで見守った。
(……ッ!この人、鎧での戦闘に慣れてる!)
当世具足戦国時代に用いられていた鎧の名称で、高い防御力と機動性を有した装備。その防御力から、目や首周り、脇の下や肩周り、それから関節部分のような鎧の隙間や守られていない箇所を狙わなくてはいけない。
鈴村は兜で遮られた狭い視界の中、攻撃の通る場所を的確に狙う。そして……。
「……ッ!」
何より厄介なのは時折放たれる薙刀による打撃。戦国時代では当世具足の防御力で刃が通りにくかったため、選ばれた主な攻撃方法は槍のような長物による打撃。
打撃による攻撃は頭に当たれば脳震盪を起こし、体に受けても体勢を崩し、急所を狙われる。
そんな、鎧での戦闘に慣れた相手に剣崎が戦えているのは、剣道を経験していたから。剣道よりも視界は狭くはあるものの、打突部位の決まっている剣道を習っていたお陰で、受けてはいけない箇所への防御は自然と体が動いてくれた。
打ち合えば打ち合うほど、実力の差は顕となり、結果に現れる。剣崎の鎧は何度も薙刀により打たれボロボロに、対して鈴村の鎧には目立った傷がなく、誰もが剣崎に勝ち目がないと考えた。
体力の限界がきたのか薙刀の一撃を受けた剣崎が再び体勢を崩す。
「終わりだ!」
鈴村が薙刀を上段に振りかぶった瞬間、剣崎は馬から滑り落ちながら鈴村の脇下を切りつけた。
「……体勢をくずしたのは、私の攻撃を誘うためだったのかい?」
人間にとって脇の下は神経や血管の集中した急所。それはmillionwarsでも同じで、脇の下を切りつけら鈴村は時間が経過すれば命を落とす。
剣崎は鈴村の問いかけに答える代わりに槍を構える。
「そうか……君は優しいんだな。」
槍を構える剣崎を見た鈴村は何かを理解したように、馬から降りて、片手で腰の刀を抜いて構えた。
自分と仲間のプライドのため挑む必要のない一騎打ち。協力関係の鬼塚に恨まれることになってでも仲間への侮辱を許さない姿に剣崎は鈴村に対して敬意の気持ちを抱いていた。
片腕を失ったことによる『出血死』による敗北ではなく、互いに正々堂々武器を構えて、どちらかが倒れるまで戦うという剣崎なりの感謝の表現方法。
大勢の仲間が見守る中、先に動いたのは剣崎。剣崎が鈴村に向けて槍を振り切る。
「……ッ!」
鈴村は満身創痍の体で槍の一撃を防がずに受けることで、がら空きになった剣崎の懐に入り込んだ。
(マズ……ッ!)
剣崎は槍から手を離して、鈴村の刀の一太刀を咄嗟に篭手で防ぎ、胴に蹴りを入れて鈴村を押し倒した。
「……何回、経験しても嫌な光景だな。」
剣崎は腰の刀を抜き、倒れた鈴村に上から突き刺した。
「「「ウォォォォォォォォ!!」」」
仲間の歓声が響き渡り、敵の顔が下を向く。剣崎は一騎打ちに勝つことにより、時間稼ぎだけではなく、敵味方の士気を変化させた。
この瞬間、御影、鬼塚の陣営は勝利が現実的なものではなくなり、連絡で状況を知らされた御影と鬼塚は落とし所を探っていた。
(……九条さんから連絡?)
同じく状況を聞かされた九条から勇に一つの指示が届いた。
「両陣営、止まれ!各陣営の指揮を任された者には連絡が届いているだろうが、城主同士の話し合いで落とし所を探るそうだ。つまり、一時停戦だ。」
戦場に導入した兵数十五万。戦闘による被害、七万を超える兵士と、それを生み出すための大量の資金。今回の戦いで最も被害の多かったのが九条の陣営だが、それは話し合いで九条が補ってくれると配下のプレイヤーは信じていた。
射手の湖の戦いは四本目の矢であった朱羅の部隊が到着する前に決着し、舞台は城主同士の話し合いに移るのであった。




