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第三話:【貴族帝都シンドリス】

選択:*【ランの証明】*(カクヨム)


物語が始まります…………。





---------------------------------------

「あらぁ。随分と……素敵なかおりに満ちているのねぇ」


 ――かおりという情景に触れたその一節の音吐おんとは、それこそ、はなかおり立つような声音こわねであった。


 ふと響いた声。


 その肉声を聴いただけで「その者の容姿は道理として美しい」と確信できる――それほどにあでやかな魅力の声は、しかし魅惑みわく的というより……えも言えぬ、蠱惑こわくに満ちていた。


私好わたしごのみの、良い薫り……」


 声にかれてうかがえば、そこには見込み通りの、《呑んだ息の止まるほどの》美しい姿が見えるだろう。


 扇情的な美の極致をかたどった、聖女を思わせる容姿は、至高の美しさがゆえに、威光のようにまばゆいでさえ見える。


 ――だが、不思議なことに。

 その声音こわねに、容姿に、ふと目を向ける者は誰一人としてない。


 そこには。

 一人の少女と連れ添って、()()()()()()()()()()()()()()()()()、特異な光景があるというのに。


「んん、やっぱり人間って、面白いわ――……」


 ――円形にそびえる七本の尖塔せんとうが描く城壁を、もし上空から観測できれば、その稜線りょうせんが、ほとんど完璧な円を描いていることが分かるだろう。


 円形の壁は外と内の()()()()()、巨大な二重丸を大地に描いていることにも。


 現在地は、外円がいえんの内側、南の外郭位置。

 奇妙な連れ添いは今、美しい石畳の道を歩んでいた。


「シンドリスは――」


 ふと、石畳の道を歩みながら、そらを歩く女性へ語りかけて、シェイナが言葉をつむいだ。


「広大な機構都市であるにも関わらず――()()()()()()()()()大都市なの」


 都市を見渡せば。

 確かに、点在してスラムが広がっている様子や、闇の巣食う薄暗い建物も見当たらず、ただ明るく、特筆もない、活気溢れる街並みが見渡せた。



 ここは【貴族帝都シンドリス】。

 スラムの存在しない例外点、広大な国土を誇る人間都市。



「スラムの存在しない国土。フフ、まるで人間の言うトンチね」


 少女の後ろで浮かび連れ添う女性は、品良く笑いながら言った。


 民人たみびとの暮らしにも、妙なところなど一見して見えてこない。

 ごく活気溢れた街並み。


「とてもかおり良く活気に溢れていて、素敵」

「……笑顔がいっぱいだね。望んでこの場所に住んでいる人たちが多いからかな」

「望んで住んでいる……?」

「広大な国土を誇るに珍しく、シンドリスの都市は国法においてたみの住所を定めてもいないの。つまり、どこの地区の出生であろうと、どこへだって自由に移住できるってことなの。――ただ一区域、円の中心部に広がる、【中枢階域リングゼロ】の領域を除いて」

「――あら。その奇妙な説明、前にも聞いたような気がする。もしかして来るのは何度目?」

「これで二度目の来訪だね」

「そうだったかしらー……」

「そして私たちは……隔絶された【中枢階域リングゼロ】の内地へおもむくことを目的に、シンドリスへ足を運んだ。【貴族階級】の、“さるお方”と会うために」

「――――思い出したっ」


 手を打つような、快活な声が上がった。


「【奴隷のいない隷属れいぞくの機能都市】ね! ええ、確かに、フフ、前にも来たことがあった!」

「…………」


 明るい街並み――しかしよく観察すれば。

 染みたような闇も、点々……点在して見える。


 全ての人が、活気に溢れて明るいわけでは、もちろんない。

 街にある人のうち、暗がりの地べたに座り込んでいるような人たちは、その瞳に闇をろしていた。


 他の都市でもありふれた光景。

 だが、よく見れば。そのような者たちは、奇妙なことに、――浮浪者というわけでも、なさそうだった。


 身なりはしっかりとしている者も多い。

 一見において清潔で、薄汚れてはいない者もどうしてか……まるで打ち捨てられたように、地べたで膝を抱えいる。


 生活水準は見目にも清潔な程度であるのに。――異様な光景だった。


「印章を見せろ」


 と、そのように生気を失った者の一人へ……まだ年端もかない、五つの歳をやっと超えたほどの幼子へ、巡回する二人の兵らが、声をかけた。


 冷たく、無機質な声だった。


 子供は、「こんにちは」と声をかけた。


 ――すぐさま、兵らはそれをとがめた。


 言葉が軽すぎるのだと。

 笑ってはいけないのだと。

 目線を高くしてはいけないのだと。


 幼子は震えて頷き、身分の証明である印章を兵らへ示した。


 兵らは頷き、再び、幼子の見せた態度についてを厳しく言及したのち、離れていった。


 ――――その様子を見守っていた、聖女のように美しい女性は。

 たまらないといったように、たくさんの笑いを表情に含んだ。


「――フフ、フフフ、フフフフフ。『望んでこの場所に住んでいる人たちが多いからかな』 ――嘘つきね、シェイナ。そのような理由が第一ではないでしょう?」

「――そうだね」


 シェイナは嘆息するでもなく、肯定をつむいだ。


「シンドリスは国法においてたみの住所を定めていないけれど……、でも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()は、都市を囲む城壁よりもなお堅牢な【規律】で定められている」


【貴族帝都】と聞けば。

 それはたとえば、特権階級の者が街中を闊歩かっぽするにおいて、たみが神へこうべを垂れるようにことごとく平伏する――、なんとなく、そのようなイメージをいだけるものであるが、シンドリスの街中に、特権階級と思われる姿は一つとしてない。


 代わりに、特権階級の意味から対極に扱われる者たちが、点在している。


()()()()()()()()()()()()()は、通りを歩けばそでを引かれてまで退かされる。この都市では、身につけるもの、発する声、仕草一つに、()()()()()()()が求められる、【特権階級の間逆に位置する者たち】が存在しているの。――でも、“在り方”に厳格をいられた人々は、必ずしも、生活に貧困しているというわけではない。人として生きてゆける水準の保証を都市からたまわることが叶うから……立場の厳格たる規律を、守る限りは」


 奴隷ではない、人にこき使われるようなことはないから。

 だが、()()使()()()()()()()()ない。

【人ではなく都市に隷属する】人間たち。



 街中のそらに、あでやかな笑い声が響いた。



けものを見て、強烈な優越感、それに連なる安心感を覚える人間などは、いない。だから人間のまま、底辺にさせる。フフ――。合理的なようで、狂っているわ。――ああ、人間って、本当に面白い!」


 人は明確な“下”を見れば不安を覚えない。

 ぎた不満をいだかない。

 噂に聞くような見えない遠くではなく、彼等かれらは都市に点々、存在している。

 すぐ隣に確かな“下”が見える。


 都市を見渡せば。

 確かに、点在してスラムが広がっている様子や、闇の巣食う薄暗い建物も見当たらず、ただ明るく、特筆もない、活気溢れる街並みが見渡せた。


 そらを歩く女性が、また、品良く笑い声を上げる。


「――――ああ、彼等かれらに力を貸して、この都市が混沌と狂乱にちる様子を、少し見てみたい。でも……この光景も素敵だわ……。知性があるのにどうしてか、いつでも、みずからで不幸を求めに行く、人間らしい人間の様子が良く見えて、ああ、本当に私好みの、素敵なかおりに満ちている――」


 かたとがめられた幼子の、うす気味悪いろうに固められたような表情へ、まるで動物が可愛らしい愛嬌あいきょうを見せたときに送るような視線を向けて。

 そらを歩く女性は、まばゆほがらかな笑顔を浮かべていた。


 ――彼女の“呼称”は【ラン】。

【ランの証明】。


心層郷しんそうきょうミルヴェ】にかつて存在した、【uL(ゥル)真実の信仰者たち】の儀式によって呼び出された、謎の高位存在。

紆余曲折あって、今はシェイナに連れ添い、旅のお供となっている。


 まだ歳幼い【環巡り(パスシアーズ)】が、ひとり世界を巡れる、その所以ゆえんの【奇跡】。


 彼女ランがもし本当に、この都市が狂乱にちる様子を心から望めば、相応しい力が授けられ、それは必ず実現されるだろう。


 彼女は愉快なことが大好きで、それは人間的感情で理解できることもあれば、到底できないこともある。


 しかし彼女が危険視されることは少ない。

 彼女の許可なく彼女を認識できる存在が、あまりに少ないから。


「ねえ【ラン】、お腹すいたから、ひとまず、ご飯にしよう。私、シンドリスのスープご飯が食べたいな」


環巡り(パスシアーズ)】として旅するに力は必要とはいえ、彼女を連れることは不都合を呼び込む結果になるかもしれないが――しかし。


 シェイナは慣れたように、彼女の異質な感慨へ、特に反応を示すところもない。


 遥かな地まで旅し、風土ふうどなる人々の住まう場所を渡り歩く【環巡り(パスシアーズ)】の少女にとって、理解できる感情には共感を、そして共感できない感性についてはそのまま受け入れることをむねとする考えは常日頃つねひごろであるため、上位存在【ランの証明】とも良い旅連れとして、程良い適当な距離感で付き合うことができていた。


「食事と街(めぐ)りのあとは、【貴族】への用事。――それにしても、そういえば、険呑けんのんな理由でここへ足を運んだのだったわね」


 ふと、のんびりとした声音こわねで【ラン】は、そのことに言及した。



「【世界が終わるその時】が近づいているなんて、改めて考えると、人間からしてみれば、随分と険呑よねぇ」



「まあ、そうなんだけど。でもなにはともあれ、まず、ご飯を食べに行こう。それからしばらく、シンドリスの都市を巡ろうよ」

「はぁい」


 険呑な話題を上げながらも、奇妙な連れ添いはまるで何事もないように、貴族帝都の景観を旅のの一滴に加えながら、都市の街並みを歩いていた。







――【世界が終わるその時】という案件は脇に置いておいて、まずは【貴族帝都シンドリス】をのんびり巡るシェイナと【ランの証明】。

さて、彼女らは軽い食事ののち、どこへ向かうだろうか。


・酒場

酒は飲まないシェイナと飲食とは無縁の【ランの証明】ですが、情報が集まる場でなんらかを知ることが叶うかもしれません。

あるいは、ふと知人と出会うことも、もしかしたらあるかもしれません。

*予告:【環巡り(パスシアーズ)】のフレンとの出会い*


・旅人登録所

環巡り(パスシアーズ)】として【貴族帝都シンドリス】を訪れたことを書面上で明確にしておくと、時々において利便的に物事が運ぶことがあります。

基本的に「しておいて損のあること」ではありませんが、【貴族帝都シンドリス】に訪れたことを広く知られくない場合は避けるべきでしょう。

*予告:【貴族帝都シンドリス】を訪れた【環巡り(パスシアーズ)】の噂話*


・宿屋

あとでもいい気がしますが、先に宿屋を確保しておくのもいい考えかもしれません。

宿屋においては、商人といった商業的旅人と出くわすことも多いでしょうし、あるいは……【環巡り(パスシアーズ)】と出会うこともあるでしょう。

*予告:【環巡り(パスシアーズ)】のカーラインとの出会い*


・市場

【貴族帝都シンドリス】の様子が、より詳細に見渡せるでしょう。

良いものがあれば買い、楽しみたいことがあれば体験し、あるいは、また軽食をいただくといった時間を過ごせます。

*予告:【貴族帝都シンドリス】の街並み*


・図書館

【貴族帝都シンドリス】は、書のを異邦者にも開いています。

なにか重要なことを知れるかもしれないし、あるいは、ふとした出会いもあるかもしれません。

*予告:少女エニタとの出会い*


・【中枢階域リングゼロ

適当な散策を終えたのち、過ぎて無駄な足は踏まずに、シェイナたちは【中枢階域リングゼロ】――貴族の住まう中心領域へと向かいます。

環巡り(パスシアーズ)】らしい振舞いを心掛けることで、なにか良いこともあるかも分かりません。

*予告:【貴族】レンスロット卿との出会い*


・その他

あなたが考えた場所。




”あなた”の選択を待っています――……。


コメントにて、次の選択肢をお待ちしております。

どうぞ、お気軽に選択のコメントをお願い致します。

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