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8話:惚れ惚れしてしまう

 推しは、またも何とも言えない表情となり、だが自分の隣へ座るようにと言った。

 ドキドキしながら隣に腰掛けると、これからの方針について彼は私に尋ねた。


 何を言われるのかと思ったら。

 今後のことね。


 そこで私は自分の考えを披露する。


「いくつかするべきことがあります。公爵邸の様子を見に行き、両親の支援を得られないか、模索を」「模索をしない方がいいでしょうね」


 エリダヌスがあっさり否定したが、それは想定内。

 やはりそこは無理か。

 心配する両親に会いたい気持ちもあったが……。


「偽装はしておきました。中央広場まで乗った馬車の御者に金を握らせ、高貴な令嬢を乗せたが、彼女は一人で南の国境へ向かうと言っていた。南へ向かう乗合馬車を探していたと酒場で話せと。これで君が南から隣国へ逃れようとしていると考え、捜索の目はそちらへ向けられることになるでしょう」


 これにはもうビックリ。

 既にそこからエリダヌスは動いていたなんて……!


「南部へ目が向けられても、生家である公爵邸に目を向けないわけがありません。見張りは必ずついている。近づくのは確実に命取りになります。止めた方がいいでしょう。ちなみに公爵邸の様子を見たいのは、金銭面の支援以外に、ご両親の様子を知りたいからでしょう」


「それはその通りです」


「新聞が様子を伝えてくれます。ひとまず新聞で情報を得るので我慢してください」


 それは最善だろう。仕方ない。

 ただ、犯人捜しにどれだけお金がかかるか分からなかった。今の持ち合わせが尽きると思うと……。


「公爵邸に行けないなら、着ていたドレスや宝飾品を売り払おうと思います」


「なるほど。それは一部賛成で、一部反対です」


「それは……」


「まずドレスは足がつくので焼却処分です。宝飾品は分解して宝石ごとに王都の中心部ではなく、郊外のお店で売る必要があります。分解は明日、道具を買いに行かせて、マルシクにやってもらうといいでしょう。彼は手先が器用そうに思えますので」


 これにはビックリ!

 何を隠そう、あのマルシク。

 趣味は刺繍なのだ!

 彼の実家は男三兄弟で、女子がいない。

 母親は残念に思い、幼いマルシクに刺繍を教えた。

 すると彼は意外にも刺繍にはまり、時間があると刺繍をしていたのだ。


 手先が器用。それは正解だった。


「暗号文の解読については、第一段階はあの辞書を使い、できました」


「えっ!?」


 そう言いながら解読と言う言葉に驚き、同時にルクルドのことを思い出し、心に傷みも感じていた。


「メリディアナ……いや今後は男性として呼ぶので、ミドルネームのリズを使った……リズベルトと呼びます」


「! あ、はい。ウェリントン団長のことは……?」


「わたし? そうですね。エリスと呼んでください」


 マルシクはマルクと呼ぶのでいいだろうとまとまった。


「宰相の息子であるルクルド令息が遺した暗号文は、一緒に手に入った辞書で、第一段階の暗号を解くことができました。次はしゅの教えが書かれた書物で、第二段階の暗号を解くことになります。通常、その書物は宿であれば置いてありますが、さすがに娼館にはないですからね。明日、図書館に足を運ぶ必要があるでしょう」


「なるほど。図書館には――」


「わたしが図書館へ向かいます。それとルクルド令息達に使われた矢のべインですが、あれはアンブローズ公爵家の私設騎士団のものではありませんでした。白羽に黒丸……いずれかの暗殺者ギルドのものでしょう。よってリズベルト様を逃すために、アンブローズ公爵が暗殺者ギルドを雇い、彼らを害したという疑いは、かけられないで済むはずです」


 これには安堵することになると同時に。

 そんなことまできっちり確認していた私の推しに……感動する。


「暗殺者ギルドを使ったということは、依頼主は貴族と見てまず間違いないでしょう。ただ、不思議なのは、動機が見当たらない。ルクルド令息が、無実を証明できる人間がいると告げたそうですが、距離的に射手いてには聞こえていないでしょう。つまりあのまま黒の塔へ連行されれば、無罪の証拠もないということで、相応な刑にすぐに処されていたはず。それなのにあえてあの場で君を害そうしたのか。理由が浮かびません。リズベルト様自身、何か思い当たることはありますか?」


 そう言われ、考えるが、全く思い当たらない。

 あえて捻りだすなら……。


「男爵令嬢ラーン・イングリスが、黒の塔へ収監され、そこで裁きを受ける私を待ちきれず、殺害するよう、命じたとか……」


「第二王子の婚約者になる身で、そんなリスクをおかさないでしょう。限りなく有罪にされる可能性が高いのですから、手を下さずとも自滅すると分かっているはず」


「そうですよね。そうなると……本当に、分かりません」

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