3話:推しを●●します
「ウェリントン団長。私に協力いただけないなら、あなたの秘密を公にします」
推しは片眉をくいっとあげた。それは「何?」を物語っている。
「あなたの出自の秘密です。本当は公爵家の嫡男などではないですよね?」
これを聞いた推しの表情に変化はない。
感情すら完璧にコントロールできる。
それが王立騎士団ルミナスの団長、エリダヌス・ロイド・ウェリントンだ。
「あなたは戦争孤児で、ウェリントン公爵に戦地で拾われました。なぜあなたを拾ったのか? なぜならあなたは、多くの大人が憐れに命を散らした中、短剣一本で生き延びたからです。その剣の腕を買われ、公爵家に迎え入れられた」
推しは無言で話を聞いていた。だがその全身からは、私を拒む氷壁のようなオーラが漂っている。完璧に嫌われたと自覚できるが、でもこうするしかない。
「出自のよく分からない子供を公爵家に、例え養子でも迎え入れるなんて、血統を重んじるこの世界では許されないこと。でも星があなたに味方をしました。ウェリントン公爵夫人には死産の過去があった。そこからこんな作り話を公爵は思いついたのです」
そこで一息いれた私は、一気に話し出す。
「実は元気な男児を出産していた。ところが侍女が金銭目当てで赤ん坊を連れ去った。金を払い、取り戻そうとしたところ……。侍女は突然、消息不明に。本来、赤ん坊をさらわれたことを話すべきだったが、それを話せば公爵夫人は発狂するかもしれない。そこで元々死産とすれば、あきらめもつく。医療設備も整わないこの世界では、死産も多かった。赤ん坊がさらわれたと告げるより、死産の方が、夫人も受け入れやすいと――こんな作り話を考えたのです、公爵は。真実は死産なのに」
一瞬。ほんの一瞬だけ、推しの頬がピクリと動いた。
「それから五年後。ウェリントン公爵は、あなたを連れ帰った。これは朗報です。ゆえにこの時、公爵は、夫人に真実として作り話を話した。そこからあなたはウェリントン公爵夫妻の実子として育てられたのですよね」
「!?」
壁ドンだったら良かったのに!
今、私は両手首をそれぞれ掴まれ、無理矢理立たされ、そして背中を壁に押し当てられた状態だった。
「面白い妄想話です。そんな話をわたしに聞かせ、何がお望みですか、アンブローズ公爵令嬢」
「きょ、協力して欲しいだけです。私を狙った犯人が誰なのか、知りたい。そして無実を証明してくれる人に会いたいだけです。そして今話したあなたの秘密は、誰にも話したことはありません。ずっと心に秘めていました」
「当然ですよ、アンブローズ公爵令嬢。そんな妄想話をしたら、君が狂っていると思われるだけですからね」
狂っている……そうではない。これはゲームのプレイヤーなら知っている、推しの解禁されたプロフィール情報だ。でもこのリアルなゲームの世界では、秘匿されていること……。
「私が狂っている……。そう、でしょうか。ウェリントン公爵家は、五大公爵家の中で、一番力があります。しかも群を抜いて。歴史も長く、ウェリントン公爵はこの国一の商会を有しています。そして嫡男は騎士団長。公爵夫人は社交界のリーダー。妬む者はどうしてもいます。彼らが私の話を知ったら……」
「構いません。そんなコバエなど気にしませんから」
「ではウェリントン公爵夫人はどうでしょうか? 我が子だと信じていたのに。疑いの芽が……うっ」
片手だけだ。
エリダヌスが私の首を押さえているのは、片手だけ。
でもそれで十分だった。
窒息死か首の骨を折られる……!
だが、私は知っている。
エリダヌスが騎士団長であるのは、武術の腕だけが優れているからではない。
猪突猛進ではなく、知略をめぐらすこともできる。
つまりは地頭もいい。
ここで私を窒息死させるのも、首の骨も折るのも、愚の骨頂でしかないと分かっている。
だからこれは……脅し。
実行はしない。
するなら矢で心臓を一突きするはず。さっきの賊に殺られたと見せかけ。
突然、力が緩み、私は咳き込み、大きく呼吸する。
「……大した度胸ですね。こんな風に首を押さえられたら、涙を流し、両手で私の手を引きはがそうとするでしょうに」
まだ呼吸を整えている私は、何も答えられない。
「君はわたしに対し、星が味方したと言いました。だがそれは、どうやら君もそうなのでしょうね。わたしはこれまで一度も休暇をとらず、騎士団で動いてきました。しかしさすがに国王陛下に言われたのです。『有事があれば呼び出す。だが三カ月。休暇をとれ』と。『本当は三年休ませたいが、そうはいかないから』と」
これはまたとない僥倖!
三カ月。
推しは自由の身だ!
つまり推しの協力を得て、この三カ月で犯人を見つけ、かつ私の無実を証明する必要がある。
「アンブローズ公爵令嬢。君が何をするつもりなのか、見てあげますよ。このわたしを脅し、協力させるのです。せいぜい悪あがきして、楽しませてくれるのでしょうね」














